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<第一部マンハッタン島編 第一章『冒険への召命』 シーン10>

(シーン10)

1918年9月20日金曜日

今日も普段の学業そっちのけで、大学図書館で調べものだ。ロッジ議員の言っていたサンティアゴ巡礼が特に気になる。インディアナ州とニューヨーク州の大司教が最近死去したというのも、調べてみたら事実だった。ロッジ議員がウィルソン大統領を敵視するのはなぜなのか、というのが根本的な疑問ではあって、民主党と共和党だからという以上のものがありそうではあるのだが、……古い新聞を当てずっぽうでめくっても、ピンとくる記事はない。政治評論雑誌なら参考になるかもしれない、と思ってそっちも調べる。が、ウィルソンとロッジの経済・外交政策の違いは書いていても、根本的な対立の原因となると、……よくわからない。父が生きていれば、教えてくれただろうが…。

(政治家たちの立場がなぜそうなっているのか、は常識として知っておくべきなんだろうけど、その常識っていつ身に着けるんだろうなぁ…)

心の中で愚痴をつぶやくアーロン。大学を出る前に、シュナイダー教授にざっくりした質問をしてみた。愚問かどうかは気にしていられない。

若手のホープであるドイツ系の社会哲学研究者は、数十秒の沈黙のあとで

「一言ではまとめられないから明日もう一度聞いてよ」

と、固い表情で答えてくれた。誠実な人だ。

明日また聞いてみよう…DDの家賃の件も合わせて聞いてみよう。


哲学講堂を出るときに傘を開く。朝から弱く降っていた雨が、昼を過ぎて少し強くなっている。

安物で、壊れかけている傘で雨をしのぎながら、アーロンはニューヨークでの父親代わり、ドクターH.G.のいるアパートへ向かった。博士号を持っていないその雑誌編集者は、H.G.ウェルズと本名のイニシャルにちなんで、ごく近しい人間にだけドクターH.G.と呼ばせている。アーロンはそういうのが好きなので喜んで付き合っている。


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