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<第一部 第0章 宣言主義時代>

1918年、世界大戦のさなか。 世界に二つの宣言が響いていた。

ひとつは、ロシア・ボリシェビキ政権(のちにソビエト連邦)指導者のウラジミール・レーニンによる『平和に関する布告』。

もうひとつは、アメリカ合衆国大統領のウッドロウ・ウィルソンが掲げた『十四か条演説』。

この時代、人の心を照らす光源は一つではなかった。“神は死んだ”とフリードリヒ・ニーチェが言ったのはあまりにも有名だ。二つ、あるいは三つかそれ以上か、唯一神ではない複数の光に照らされて、人の心の影もまたいくつもの方向に伸びている。

レーニンとウィルソン、二人の理想は、どちらも戦争の終焉と新秩序の構築を志すものであった。 だが霊界の観点では、それは「現世の魂に直接作用する言霊的契約」―― つまり、人間社会の霊的側面を大規模に巻き込むアストラル戦争の発火だった。


「ほう、マルクス主義者でもこの領域にたてるのか…少し認識を改めねばならないようだ」

赤、白、青…星条旗を思わせる煌びやかな法衣に身を包み、ウィルソン大統領が高みから見下ろして語り掛ける先にいるのは、鮮やかに真っ赤な労働服を誇らしげにまとうレーニンだ。

「私の炎は世界を変えていく。その世界は、キリスト教者には理解できないかもしれんがね」

レーニンもまた、高みからウィルソンを見下ろしている。

二つの巨大想念――つまり“宣言”が衝突したとき、弾き飛ばされたのはレーニンだった。レーニンの宣言は、ロシア語と他言語の間の障壁と、ロマノフ家惨殺という(けが)れが発する雑音によって、全世界的霊界からの共鳴を得られなかった。彼の魂は、理論の中で孤立する。


「我が『十四か条』は、偉大なる神意の翻訳でしかない。私は、最愛にして唯一なる神の代弁者としてこそ我が身を誇る。天命を受けし人類大統領として、即位させてもらおう」

莫迦(ばか)な、私の理論が科学的に正しいはずだ!…何がそこまでの詩念力(しねんりょく)-Plausabilitality-をお前に与えているというのだ!?」

「民意だよ。民主主義だ」

「ちがう、資本主義だ!」

「その区別がつかぬようでは、所詮は豎子(じゅし)!」


お互いがお互いを見下す関係とは、どちらから見ても相手が上下さかさまになっているということ。太極図、陰陽である。二つ巴の太極図がクルクル回転するように、彼らの議論は永遠に回転して、終わらない。


「強盗め!空虚な理念より、理論の正しさを主張して見せろ!」

「強盗はそちらだ、暴力革命の主導者よ!私が目指すのは、一時の勝利よりも永遠の平和だ!!」

「貴様の思う平和は、労働者たちの平和ではない!!」

「君の同志の労働者の手は血にまみれているぞ!その服のごとく、真っ赤だ!」

「アメリカ人こそ、ヨーロッパとカリブ海でいったい何万人を殺した!?」

回転する両者の言葉の応酬は、どんどんと力強くなっていく。


――その強い声がうるさくて、アーロンは目が覚めた。

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