<第一部マンハッタン島編 第一章『冒険への召命』 シーン9-1>
(シーン9-1)
1918年9月19日午後7時30分ごろ
やっぱりいた。マニング先輩って、学校に住んでるんじゃないだろうか?何か書類を慌てて隠していたが、軍情報部で仕事してるんなら、見せられないものもあるんだろうな。
朝は見た目を整えていた先輩は、たった半日でいつものぼさぼさ姿に戻っている。
一息ついた後で、ロッジ議員からの依頼をされた件を詳しく話してみる。
白い大男に襲われて勧誘されたことを告げるのは、巻き込むかもしれないのでまだちょっとためらわれる。
「…という、巡礼儀式だっていうんですよ」
マニング先輩は、僕が説明している間、指で机をトントンしている以外は微動だにしなかった。これは話を聞いてくれているときの先輩の反応だ。
「とりあえず話は以上なんですが、…先輩?」
さすがにずっと黙りっぱなしなので不安になってくる。大司教が相次いで死んだとか、レーニンが倒れたこととかも話すべきなのだろうか。
「あー、…」
と先輩は、「これからちゃんと話すつもりがあるぞ、何を言うか考えてるんだぞ」ということを「あー」で伝えてくれた。
さらに数秒沈黙があったが、先輩はようやく話し始める。冗談とも本気ともつかないいつもの雰囲気ではない。
「アーロン」
「はい」
「まず、君がすでに知ってしまったから言うが、俺は陸軍情報部で仕事をしている」
「はい」
「わかってると思うが、けして口外しないでくれ」
「はい」
「どんな仕事をしているかはもちろん言えない」
「はい」
「そして、何を知っているかも明かせない。だから、君に助言できることは少ない」
一旦言葉を切るマニング先輩。
「僕からの問いかけにどう返答したかで、先輩が何を知っているかが推察できるから、ですね」
「そうだ」
「……」
それでも、マニング先輩の言葉をよりどころにしたい。だから、何か言ってくれ、という願いを沈黙に込める。
「個人的な感想としては、おもしろいと思う。アーロンもそう思ってるだろ」
「えぇと…、まぁ、そうなんですけど…どのあたりが、でしょうか」
「特に言えば、グレート・ホワイト・フリート」
「…ですよね!僕も、自分の論文と関係なければ、おもしろいフィクションだと思うでしょう」
ロッジ議員は、10年前のグレート・ホワイト・フリートが大規模な巡礼儀式だったと言っていた。論文には書きそびれていたが、"十四か条って儀式手順ぽくないか?"というギャグじみた発想はGWFがヒントの一つになっているのは本当だ。
「フィクションではなく、ノンフィクションか」
先輩は少しニヤついている。何か知っていそうだけど、聞いても教えてはくれないだろう。
「ジュール・ヴェルヌの冒険小説と、テディ・ルーズベルトが10年前、地球全部を巻き込んだ軍事ショーと、今の大統領が提案している十四か条…それが全部、同列のノンフィクションだということか」
先輩が強引にまとめてくれた。僕だって、自分が参加者でなくて傍観者だったら、『おもしろい』と思うだけで済むんだが。




