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<第一部マンハッタン島編 第一章『冒険への召命』 シーン7-3>

(シーン7-3)

「逃げよう。走るほうが自由だよ」

少女はすぐに背中を向けて走り出した。考える前に、僕の体も走り出、…そうとする。

「あれ?」

また足がもつれて転んだ。慌てておき上がる。少女が立ち止まってこちらを見ている。ホワイト・ハーストも気づいて走り出した気配が背後でする。

「きみ、走るのヘタだね」

そうです。

「走るのがヘタな人なんて、初めてみた」

いや、僕は僕より運動が苦手な人がいることも知ってるぞ。

「でもね、“追い風が吹く”(Growing-Blowing-Following-Wind)」


――何か短く歌うように少女がつぶやくと、背中を柔らかいものに押された気がして、足が軽くなった。同時に少女もスカーフをなびかせて走り出す。

背後で「シジュツか!」とホワイト・ハーストが言うのが聞こえた気がする。

深く考えることができないまま、少女の後ろを追いかける。体が軽い。脚がスムーズに回る。さっきよりずっと速く走れている。これはきっと、このカウガールの走り方をムイシキにお手本にしているから僕もうまく走れているんだ。ソーンダイク教授ならナントカ効果だと解説してくれるはずだ。知らんけど。

「こっちいくよー!」

少女は交差点で右へと曲がる。帽子を手で押さえながら。

「わ」

曲がりながら少女は後ろを見て、軽く驚きの声を上げる。

「あの人は走るのお上手」

言われて、右折しながら後ろを見てみる。


「ぐぉおおおおおお!!!!」

大男は吼えながら機関車みたいな勢いで猛追してくる。上着を脱いで、顔を真っ赤にし、見た目はさらに熊っぽい。

「でもね、“集まってくれる”(Scramble-Assemble-if You Available!)」

また少女が歌う。

ぞぞぞぞっっ!と妙な音がしたかと思うと、すぐそばの建物から黒褐色の集団が這い出てきた。ネズミの大群に足を取られ、ホワイト・ハーストがうろたえる。

「今のうちだね」

「そ、そうだね」

何が起きたかはよくわからないが、たぶん幸運が味方したのだ。

この界隈はレストランや屋台が多い。ネズミがいても不思議ではない。人通りが少ないのは……今日はたまたま、ということにしておこう。


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