<第一部マンハッタン島編 第一章『冒険への召命』 シーン7-1>
(シーン7ー1)
1918年9月19日木曜日 午後6時ごろ
外への扉を開く。入るときは重く感じた扉が、軽く開く。
館の前に、白塗りの乗用車が停まっているのに気づいた。ロッジ議員のかな?派手な車だ。でも、この館に入る前には、あの車はなかった気がする。
「ロッジ議員のおナカマさんで、すね。ドウゾこちらへ」
車のそばに、車より派手な人、…らしき生物が立っている。白いスーツに身を包んだ大男。身長が、というより体高が2メートルくらいだと言いたくなる。横幅も2メートル近くありそうだし、胸の厚みも1メートルはある。なのにスーツを着ている。着ていなければ、人というより熊に見えるだろう。
「どちら様ですか?」
「ロッジギインの、ナカマです。怪しいものではありまセン」
怪しい!逃げよう!
…と思ったのに、足がもつれて転んでしまった。咄嗟の判断って苦手だ。
「アワテナイデ、怪しいものではアリマセン」
どんどんぎこちない口調になっていく白熊。熊が人のふりをしているのか?
バン!と地面をたたいて起き上がり、駆けだした。絶対やばい。
「あ、こら!逃げるな!」
マニング先輩のアドバイスが思い出される。
――ロッジ議員は想像を絶する権力者――。
先輩が何を言いたかったのか?受けようが断ろうが、どちらにせよ共和党の支配するルートに僕の人生はすでに入っているってことだ。共和党を味方にする場合なら、共和党以外の何かが敵になるのだ。
遅すぎて走ってるようには見えないかもしれないが、一応、全力疾走する。たぶん午後6時くらいの、ブリーカーストリート、まだ明るいのに、なぜか人がいない。交差点を一つ越えたが、車も通っていない。
「待てぇー!!」
待つか!待たないけど、でも絶対熊のほうが僕より速い。50メートルも走らないうちに、もう追いつかれそうになった。こうなったら仕方ない。僕は学者だ。文学青年だ。体力勝負なんてしてやらないぞ!
「なんなんですか、ハァハァ、あなた!!」
立ち止まり、向き直り、ハァ、ハァ、息を切らせながら問い詰めてやった。
白熊はすぐ近くに迫っていて僕に手を伸ばそうとしていたが、その手を止める。
僕より速く走っていたはずだが全く息を切らせていない。
余裕の表情で、乱れたスーツを整える。
「怪しすぎるんですよ!ハァ、ハァ、」
「ふむ…観念してくれたかな。たしかに、つきなれない嘘などつくべきではなかった。『白の組織』のホワイト・ハーストだ」
この熊、人間の言葉しゃべれるじゃん。
「実を言うと、ロッジ議員とは敵対している。だが、君に乱暴をしようというのではない」
まずいぞ、しゃべり慣れてなさそうだったから、走って逃げるよりはまだ舌戦なら分があるかと思ったんだけど、ちょっと雲行きが怪しい。
「WWW閣下に君を引き合わせようと思う。来てくれるかな?」
「…嫌だと言ったら?」
このセリフ、言ってみたかったんだよな。今が適切な場面かはわからないが、走った疲労のせいか、判断ができない。
「ロッジ議員よりも好待遇を約束しよう」
「……」
くそ、『腕の骨を折る!』みたいな返答を期待していたのに無視された。かといって、そんなことを言われていたら恐怖で心臓がつぶれていたかもしれない。




