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<第一部マンハッタン島編 第一章『冒険への召命』 シーン6-2>

(シーン6-2)

――朝、学長室を出たあと、昼食もとらずに夕刻になるまで大学の図書館でできるだけ調べた。ロッジ議員のこと、十四か条のこと、バチカンのこと。シュナイダー教授も普段の仕事を後回しにして手伝ってくれた。

ただ、シュナイダーもウィルソン大統領の計画は知らないそうだし、自分の論文はバトラー学長から返してもらえていない。

「礼儀かと思いまして」

想定問答をシュナイダーと短時間だが練習したのだ。良い調子だ。

「良い心がけだ。話は早く済むほうがお互いに良い。だから何段か話を飛ばそう。サンティアゴ巡礼を君は知っているね?」

想定外の質問が来た。ざんねん。

「うぐ…知りません」

「…たしかに、カトリックには詳しくない、デューイ教授もそう言ってたな」

超有名な上院議員にまで自分の宗教史学者としての未熟さを知られている。今すぐ大学図書館に駆け込んでいってそのナントカ巡礼を調べたい。

「では、十四か条が巡礼儀式手順という例えはどう思いついた?」

「ジュール・ヴェルヌです」

「はぁ?」

明らかな困惑がロッジを一瞬、停止させていた。


「ジュール…なんだって?」

「ジュール・ヴェルヌ、『八十日間世界一周』、ご存じありませんか?」

ご存じなさそうだなぁ。えらい政治家の先生だもの。

ロッジは一息ついてから、

「冒険小説か…テディのあれ以外に読んだことはないな…」と動揺の残る声色で絞り出した。

「『The Rough Riders』って、小説フィクションなんですか?」

「それは本題ではない」

テディ・ルーズベルト元大統領の書いたあの本はアーロンの論文の主題だった、ので確かめておきたかった、なのになんか、怒られたっぽい。

「あ、でも、ルーズベルト政権時代の、グレート・ホワイト・フリートは関係あります。たしか論文にもそう…」

「ほう。一行も書いていなかったが」

「…そう書こうとして、忘れてたかもしれません。清書段階で」

また沈黙。アーロンは必死で言葉を探す。


オペレーション・グレート・ホワイト・フリート――1907年から1909年にかけて、アメリカ海軍の16隻の軍艦は各国を表敬訪問しつつ、地球を一周した――。

「GWFのとき、僕はジュニア・ハイ(中学生)でした。ちょうど『八十日間世界一周』を読んでて、えー、その、」

アーロンの父親は『これは政権の横暴だ、贅沢すぎる軍事ショーだ』と怒っていた。たしかに、つかわれた税金は途方もない額だっただろう。

「その…ワクワク…しました」

父が怒っていたのにアーロンと同級生たちはワクワクしていた。そのギャップのせいで印象に残っている。

「ワクワクか…。あれはただの国威発揚行動ではなかった」

「外国への示威行動…ですよね?」

父と自分の感想のギャップの記憶が、論文に書くのをためらわせたのかもしれない。

「巡礼儀式だったのだよ。サンティアゴ巡礼よりもはるかに大規模な」

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