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3話 文化祭と誕生日

 ようやく夏の暑さが影を潜めて秋らしくなってきた頃、教室はある話題で持ち切りだった。


「いよいよ文化祭だね」

「うん、楽しみだね。一緒に回ろうよ」


 来週、俺たちの学校では文化祭というビックイベントが行われる。

 生徒たちは放課後に忙しくも楽しそうに準備を進めていた。

 ちなみに俺たちのクラスは無難に模擬店をする予定だ。

 飲み物と焼きそばを販売するらしい。


「なあ、大和……文化祭なんだけどさ」


 休み時間、各授業で出されている宿題を片付けている俺に徹は話しかけてくる。

 学校が終わると急いで帰宅してバイトに行くので、休み時間に宿題を処理しておけば就寝前にその分勉強ができるってわけだ。


「ああ、文化祭か。徹は生徒会だから色々と忙しいんじゃないのか?」

「そうだけど、少しぐらい自由時間はあるさ。葵もな……」


 そういえば去年は俺と葵と徹の3人で文化祭を回ったな。

 家庭環境がめちゃくちゃでバイトで忙しい日々を過ごしていた最中、去年の文化祭はそんなことを忘れて素直に楽しめた。


「そうだな、また3人で回るか」

「大和……その……」


 徹は何か言いかけていたが、口を閉じて言葉を呑み込んだ。


「なんだよ?どうした?」

「あ、いや……そういえば、文化祭当日は葵の誕生日だったと思ってな……」


 そういえばそうだった。

 昨年も文化祭と葵の誕生日が重なっていた。

 その時は俺と徹で金を出し合ってプレゼント代わりに模擬店を回って、たこ焼きやらりんご飴やらを奢ってやったんだった。


「そうだったな。今年も奢ってやるか。葵のやつ、去年も喜んでいたしな」

「実は、俺…………もう、プレゼント用意してあるんだ……」

「え……?」


 プレゼントを徹が用意している……?

 葵の誕生日のために……?


「え、えっと……なんで、葵にプレゼントを……?」


 少し理解が追いつかなかった俺はそんな質問をしてしまった。


「なんでって……誕生日だからだろうが」

「お、おう……そうだよな」


 なにを頓珍漢(とんちんかん)な質問をしているんだ俺は……。


 誕生日だから……プレゼントを……徹が……葵に……?


「そ、そっか。一言相談してくれたら良かったのに……。それでなにをプレゼントするんだ?俺も金半分出すよ」

「いや、いいんだ。俺が……個人的に葵に渡したいんだ」


 徹の真剣な表情と言葉に、俺の心には今まで感じたことのない焦りが生じていた。


「ほ、ほら、大和はあまり金使わない方がいいだろう?無理するなよ……」

「あ…………うん……そう、だな」


 俺だってちゃんとした誕生日プレゼントを渡したいと考えたことは何度もあった。

 別に金のことを気にしているわけではない。

 小学生の時はお互いに幼かったしプレゼント交換なんてことをしていたけれど、お互い高校に入ってからは忙しくて……そんなことしなくなっていた。


 いや……俺は気恥ずかしさからできなかったんだ。

 幼馴染とはいえ異性にプレゼントを贈るなんて、やっぱり特別なことだから。

 それと……。


「プレゼントは……なにを贈るんだ?」

「それは……内緒、だ」


 徹は医者の家計で父親も母親も大病院で働いているらしい。

 当然、家は金持ちだ。

 一方の葵も父親が大企業の社長ということで同じように裕福な家庭だったりする。


(徹がプレゼントするものだからきっと……高価なものなんだろうな……)


 父親がニートをやっている俺の家計とは雲泥の差だ。

 そんな俺が葵にプレゼントを渡すとしても、大したものはあげられないんだ。


 俺は焦る気持ちを徹に悟られないように、必死に平静を装っていた。


 ♢


「そんなの村瀬くんは宮野さんのこと好きってことなんじゃないの?」

「やっぱり……そうなんですかね……」


 今日もバイトを終えて、夜の帰宅道。

 大学生の速水先輩と駅まで一緒に向かっている途中で、俺は今日あったことを彼女に相談していた。


「そうだと思うけどね。女の子に個人的なプレゼントを渡したいなんて。まあ、男女でも友情が成立すると私は思ってるから断定はできないけどね」


 淡々とそう話す先輩を尻目に、俺の心は一抹の不安に包まれていた。

 もしも徹が葵のことが好きだったとして……もし告白なんてしたら……そうなったら……。


「大和くんは……プレゼント渡さないの?宮野さんに」

「……俺は……」


 俺なんかが買えるものなんてたかが知れているし……徹が渡すものと比べたら霞んでしまって、葵を喜ばせられるとは到底思えない。


「別に格好つけなくても良いと思うよ」

「え……?」

「大和くんたちはまだ高校生なんだから、そんな高いプレゼントなんて必要ないよ。大切なのは気持ちなんだから」


 速水先輩にそう言われて、俺は少し考えを改める。


「そうですよね……。気持ちが大事ですよね。ありがとうございます、先輩。俺、頑張ります」

「うん、その意気だよ!」


 そうだ……裕福とか貧乏とか格差なんて関係ないんだ。

 大切なのは俺が葵のことが好きだという気持ちなんだから……。





 そう頭の中を切り替えた翌日のことだった。


「ねえ、あの生徒会の二人。ついに付き合ったらしいよ!」

「マジ!?時間の問題だと思ってたけど」

「うん、お似合いだよね!」


 葵と徹が恋仲になったという噂が学校中を駆け巡っていた。


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