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すべてに絶望した俺は転校して幼馴染の前から姿を消した。  作者: 孤独な蛇


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1話 異性の幼馴染と親友

 夏休みという長期休暇が終わったのだが、まだまだ暑い毎日が続いている。

 

「今日から新学期です。お休み気分が抜けない人たちも多いと思いますが、また気を引き締めて────」


 そんな中、迎えた新学期。

 全校集会の始業式、生徒たちの前で淡々と演説を行っている女子生徒に皆が注目している。


「いつ見ても美人だよな~。可愛いよな~。宮野生徒会長」

「そうだよなぁ、凛としていて美しい」


 男子生徒たちの視線を釘付けにしている女子生徒は生徒会長の宮野葵(みやのあおい)である。

 彼女は優秀で筆記試験では学年1位の成績を継続しており、人望も厚い。

 おまけに容姿端麗で校内一番の人気者だ。

 特に男子生徒からは毎日のように告白されていると噂にもなっている。


 何を隠そう……俺、牧野大和(まきのやまと)と生徒会長である宮野葵は幼稚園から高校2年生の現在に至るまでの付き合いになる幼馴染だ。


 そして、かくいう俺も……宮野葵に好意を抱いている数多い男子生徒の内の一人なのである。


(あぁ…………ねむいなぁ………)


 昨日、遅くまで勉強をしていたせいで強い睡魔が俺を襲う。

 あくびを噛み殺していると、壇上に立っている生徒会長の葵と一瞬だけ目が合った。


(おっと……いけないいけない。これはあとで怖いぞ……)


 鋭い視線をこちらに送ってきた彼女を見て、俺は姿勢を正す。


 生徒会長として堂々とした立ち振る舞いをしている葵を見て……俺は少し……ほんの少しだけ、悔しい気持ちになっていた。


 ♢


「大和!集会の時、私が話をしているのに居眠りしてたでしょ!」

「いや……ウトウトしていただけだ。昨日遅くまで勉強していてさ。それで眠かったんだよ」


 始業式を終えて放課後になった。

 さっさと帰宅しようと思っていたのにスマホのメッセージで葵に生徒会室へ呼び出された挙句、叱責を浴びせられている。


「勉強するのは良い事だけど、もっとしっかりしてよ!」

「だからわかってるって。もう勘弁してくれよ……葵」


 俺の覇気のない返答を聞いた葵は、ご機嫌斜めのようだ。


「来年は受験なんだから、本当に頑張らないとだめだよ!大和は成績よくないんだから!」


 俺たちの通う高校は有名な進学校で勉強に関して言えばかなりシビアな環境だ。

 ちなみに俺の筆記試験の成績はというと…………学年で下から数えた方が圧倒的に早い……ということだけに留めておこう。


「そう言うなよ、葵。大和なりに頑張っているんだからさ」


 俺と葵の間に割って入って、すかさずフォローしてくれるこいつは村瀬徹(むらせとおる)

 生徒会副会長を務めていて俺と葵の親友でもある。

 徹も葵同様に成績優秀で、おまけにスポーツ万能、そして校内の女子生徒たちから絶大な人気を誇っている……所謂(いわゆる)モテ男というやつだ。


「徹は大和に甘いのよ!高校に入学したときは私たちよりも大和の方が成績良かったんだよ!それなのに今となっては……」


 たしかに昔は俺の方がこの二人よりも成績が良かった。

 この高校も俺が首席で入学したし……。


「大和……約束覚えてるよね?」

「あ、ああ……勿論」


 俺と葵は同じ大学に行こうと高校に入学した時に約束をしていた。

 その約束のために……俺は……。


「それじゃあ……俺、帰るから」


 踵を返そうとすると、葵が強く俺の腕を掴んで動きを静止させてくる。


「ちょっと待ってよ!なんでいつもそんなに早く帰っちゃうの!?」

「それは……早く帰って勉強しなくちゃならないし……」


 俺の言葉に葵は怪訝な表情を浮かべた。


「それじゃあ少しだけ待って。今日の生徒会の仕事はミーテイングだけだから。久しぶりに一緒に帰ろ」

「……いや、その……俺、急いでるから!」

「あ、こら!待ちなさいよ!」


 俺は葵の手を強引に振り払い、急いで生徒会室を退室した。


 ♢


「はぁ…………態度悪いよな……俺……」


 ため息をつきながら、俺は自宅マンションに帰宅した。

 せっかく葵が一緒に帰ろうって言ってくれていたのに……。

 夏休み中も葵は遊びに行こうとに誘ってくれたり一緒に勉強をしようと連絡をくれていたが、俺は素っ気なく断っていた。


「結局、葵に心配かけてるな……」


 自己嫌悪を感じながら、制服を脱いで私服に着替えた。


 俺は葵に嘘をついている。

 学校が終わるといつも早く帰って勉強をしているなんて言っているが、それは口実だ。

 実を言うと……俺は高校生になってからアルバイトに勤しんでいる。

 夏休みの間も日中はアルバイトばかりしていたため、勉強なんて就寝前の少しの時間しかできていない。


「さて、行くか」


 なぜ俺が学校の成績を落としてまでアルバイトをしているのかと言うと、それは…………。


「おう、大和。これからバイトなのか?」


 靴を履いていると玄関の扉が開いて、一人の男が帰ってきた。

 酒臭い体臭を放ち、髭も剃らずに目つきが悪いこの男は……俺の父親だ。


「……親父(おやじ)、またパチンコか……?」


 俺がバイトをしている理由……それはこいつが原因だ。

 この父親が経営していた会社が倒産して多額の借金を抱えたのが数年前の話。

 そこからこの男は日に日に廃れていって……仕事もせずに母さんに迷惑を掛けて、今ではパチンコ屋に通う毎日だ。


「ああ、今日は大儲けだ!ほら、大和、小遣いやるぞ!」


 そう言って上着のポケットから数枚の1,000円札を俺に突き出してくる。


「いらねぇよ……。俺はいいから、母さんにその金を渡してやれよ」


 今日は良い結果だったらしく機嫌も良いが、普段は負けてばかりで横暴な態度を取ってくる人間だ。


「チッ、金の有難みを知らないガキめ」


 玄関から出ていく俺に親父は捨て台詞を吐く。

 しかし、俺は気にしない。

 もうこの男に俺は何も期待していないのだから。

 家計を圧迫しているこの男のことなんて考えるだけでしんどくなるだけだ。


 俺は大学の入学金や学費のためにアルバイトをしている。

 それと少しでもパートで働いて家計を支えている母さんの助けになればいいと思って……。


 まあ、金の問題もそうだが大学に入るための学力がなければ話にならないのは分かっている。

 高校1年生からバイトを続けてきて目標とする貯金額までもう少しで届く。

 そうなったら今度は勉強に時間を充てることができる。


 勉強は元々得意な方なので、1年間あれば葵や徹との間に開いてしまっている差を埋めることができると俺は思っている。


 俺の家庭事情のことは葵には伝えていない。

 あいつが知れば、きっと心配するだろうから……。


『大和!絶対に大学も一緒に行こうね!』


 高校の入学式の日に言ってくれた葵のその言葉が、今の俺の原動力なんだ。

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― 新着の感想 ―
思春期だし自分の家庭が落ちぶれて父親がニートになったなんて好きな子に知られたくないわな。恥ずかしくて引っ越したいと思っても無理はないくらい。
まあ家庭環境なんて軽々しく相談出来ないし、幼馴染一家との関係も濃淡有ろうから、彼が生活困窮してるのは、親たちは何となく知ってるかもしれないけど、子供は知らない感じかな。
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