#1 モチリンと旅の始まり
僕はアイト。
イアコイ村に住んでいる、平凡な一人の少年だ。
そんな僕はある日、ある妖怪を見つけた。
「モチリン?」
よく晴れた春の空の下で。
僕達は出会った。
◆◆◆
モチリン。
餅の妖怪で、世界各地に生息する身近な存在だ。
その美味しさから、モチリンは御馳走とされていた。
「ラッキー」
そう言って、僕はモチリンの方へ歩いていく。
モチリンは僕に気付いて、すぐ逃げようとする。
でも、そんなに速くない。
「捕まえた!」
俺はモチリンを両手でつかむと、持ち上げた。
その時、モチリンと目が合った。
そのつぶらな瞳。
もちもちした体。
俺は、そんなモチリンを食べる気にはなれなかった。
ここから、全ては始まった。
◆◆◆
数か月後、僕がモチリンが飼い始めたという噂はすぐ広まった。
そんな噂を聞いて、村の友達が家に来ていた。
「アイトー! モチリンを見せてくれるか?」
僕はそう言われて、頷く。
「うん、いいよ」
そう言って、モチリンを家の奥から連れて来た。
この国には妖怪を飼ってはいけないという法律があるため、一応隠してある。
僕の膝の上のモチリンを見て、友達は言った。
「わあ、モチリンだ! おいしそう!」
そう言われ、モチリンは固まって震え出した。
「食べちゃダメだよ? モチリンも怖がってる」
「あはは、ごめん! でも、本当にかわいいね」
この時は、まだ知らなかった。
妖怪を飼うこと、それがどういうことか。
◆◆◆
「何? モチリンを飼っている者がいるだと?」
村の中で広まった噂は、すぐに役人にまで届いた。
役人に近しい村人が、その情報を伝えたのだ。
「ええ、妖怪は飼ってはいけないと聞きましたが・・・」
「当然だ。その者の在処を言え」
「お、お待ちください! その者は確かまだ子どもだと」
制止しようとする村人に、役人は怒鳴った。
「黙れ! 妖怪を飼うとは、我が国への反逆も同然だ。 我が手で始末する」
その圧に、村人は耐えれなかった。
「・・・その者の家は_」
◆◆◆
いつものように僕はモチリンと過ごしていた。
今日はモチリンに会いに来る人もいない。
村から割り当てられた仕事もない。
なので、家の中で寝転がっていた。
そんな時、凄い足音が聞こえた。
どんどん近付いてくる。
「なんだ!?」
「なんだ、だと? 生意気な」
「役人様!?」
嫌な予感が、俺の背筋をかすめた。
「お前がモチリンを飼っていると分かった。そのモチリンを出せ。そうすれば、お前の罪は見逃してやる」
「そんな・・・っ」
モチリンを差し出せば、僕の命は救われる。
でも_。
僕は、想像した。
モチリンを差し出したら、どうなる?
僕はきっと後悔する。
僕はきっと孤独になる。
それなら。
「モチリン、出てきて!」
そう言うと、モチリンが戸棚の奥から出て来た。
「ふん、素直に差し出す気になっ_」
「モチリン、手に飛びついて!」
「っ!?」
僕には、夢があった。
いつかこの世界を平和にすること。
どうしてそれが僕の夢なのか、そんなことはもう忘れてしまった。
でも、そのためには戦わなきゃいけない。
だから、モチリンとずっと戦う練習をしてきた。
「何をする!」
モチリンは叫ぶ役人の手を刀ごと覆う。
これで、相手は戦えない。
「モチリン!」
もう一つ。
僕には、夢ができた。
モチリンと一緒に。
「〝餅の拳〟!」
世界を平和にする、旅をすること。
「いけ!」
モチリンは拳のように変形し、役人にそれを放つ。
「がはっ!?」
モチリンの拳は、役人を殴り飛ばした。
役人は勢いよく転んだ。
「モチリン、逃げよう!」
モチリンにそう言って、僕はモチリンを肩に乗せる。
皆に、お別れができなかったけど。
でも僕はワクワクしていた。
これから、冒険の日々へ。
僕達は歩み出した。