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この世界は、ざまぁで溢れすぎている

 俺の名前は葛城悠斗(かつらぎゆうと)。どこにでもいる普通の高校生――だった。あの日、すべてが終わるまでは。


 学園のヒロイン、姫乃(ひめの)ありす。天使のような容姿と甘い声。俺の初めての彼女だった。


 それが全て嘘だったと知ったのは、三年の春、告白して一年目の記念日に呼び出されたときだった。


「ねぇ、悠斗。ごめんね……もう、私たち別れよう?」


 白い制服に身を包んだ彼女の隣には、学校一の人気者・堂島圭吾が立っていた。長身でスポーツ万能、金持ちの家の跡取り。対する俺は、地味で影の薄い文学少年。


 姫乃は堂島の腕にしがみつきながら、俺を見下すような目で言った。


「最初からね、あんたみたいな冴えないやつが私と付き合えるわけないじゃん? 賭けだったの。圭吾くんとどっちが長く“冴えない男”を騙せるかって」


 その瞬間、何かが俺の中で壊れた。


 彼女は続けて、俺がストーカーだったとか、盗撮していたとか、ありもしない嘘を教師や生徒たちに言いふらし、俺は退学になった。


 家族からも見放され、バイトをしながら生きるだけの生活。


 その時だった。スマホの画面に、突然こんなメッセージが表示された。


『あなたの“ざまぁ欲”を検知しました。システムへの接続を開始します』


 理解できなかった。だが、気づけば周囲の風景は闇に包まれていた。


『ようこそ、“ざまぁシステム”へ』


 どこからともなく響く声。目の前に現れたのは、一冊の黒い書物。


『この世界には“ざまぁ”が足りません。あなたの怨念、怒り、恨み、それらを糧に、世界を浄化してください』


 俺はその書物を手に取った。


 復讐は、ここから始まる。


 ……それから三年後。


 俺は今、都内の片隅で便利屋をしながら、ひっそりと生きている。


 表向きは冴えないフリーター。だが、裏では「ざまぁシステム」を用いて、他人の裏切りや偽善を暴き、“ざまぁ案件”を回収している。


 依頼はスマホアプリ「Judgementジャッジメント」を通じて届く。今日の依頼は、浮気された女性からだった。


 ターゲットは、二股をかけ、女を使い捨てにしてきたクズ男。俺は裏でその男の秘密を暴き、会社のセキュリティを突破し、内部告発の証拠をメディアに流した。


 男は逮捕、女性は新たな人生へ。


 俺は静かに手を合わせる。「ご愁傷さま」


 そんなある日、路地裏で一人の少女に出会った。


 異国のような雰囲気を纏った銀髪の少女。薄汚れたローブに身を包み、空腹で倒れていた。


「……あんた、“ざまぁの匂い”がする」


 彼女の名はセリナ。元は異世界の貴族令嬢で、婚約者に裏切られ、冤罪で家を追われたと言う。


 不思議と俺と境遇が似ていた。俺は彼女を助け、しばらく一緒に暮らすことにした。


 セリナは俺の力に気づいた。ざまぁシステムの存在も理解していた。


「あなたは、正義じゃない。でも、本当の意味での“救済者”になれる」


 初めて言われた言葉だった。俺の力が、誰かを幸せにできるかもしれない。


 そこから俺たちは二人で動くようになった。


 裏切られた人々を救い、悪を断罪する。


 そのたびに俺の中の“ざまぁエネルギー”は満たされ、同時にセリナの微笑みに心が癒されていく。


 だが、平穏は続かなかった。


 世界は次元を越え、崩壊を始めていた。


 現実世界と異世界が繋がり、かつての加害者たちが力を持って再び現れる。


 堂島圭吾。姫乃ありす。


 二人は異世界の魔導師と契約し、強大な力を得ていた。


「ようやく見つけたぞ、葛城。てめぇの“ざまぁ”は、ここで終わりだ」


 かつての復讐相手に追い詰められる俺。


 だが、隣にはセリナがいた。


「大丈夫。あなたは一人じゃない。二人で、世界を終わらせよう」


 俺たちは立ち上がる。


 堂島たちの力に対抗するため、“ざまぁシステム”の本体と繋がる。


 その核心にいたのは、“創造主”と名乗る存在。全てのざまぁの源。


『お前たちは“正義”ではない。ただの“復讐鬼”だ』


 創造主の言葉に、俺は答える。


「それでもいい。俺は、自分の手で裁く。自分の選んだ誰かと、生きていくために」


 最終決戦。


 ざまぁシステムが暴走する中、俺はセリナと共に、創造主を打ち倒す。


 そして気づいた。


 “ざまぁ”だけでは、何も救えない。


 苦しみの中から、幸せを見つけ出すこと。


 それが、本当の意味での救済だと。


 戦いが終わり、システムは崩壊した。


 俺はセリナと手を取り、静かな場所へと身を移す。


「ねえ、悠斗。ざまぁは、もう要らない?」


「そうだな。けど、必要なときはまた手を貸すさ」


 彼女は笑った。


 この世界は、ざまぁで溢れすぎている。


 だからこそ、俺はそれに抗い、生きていく。


 今度は、大切な人と共に。

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