第2話「その名はガロリオン」
時は少しだけ遡る。
魔術師ゴロアを前に、センは振り返り大田に話しかける。
「おい、そこのお前!」
「えっ、誰?」
「なんでそこで振り向くんだよ! お前だよ!」
自分のことだと分かり、慌てて大田は抗議をする。
「お前って、僕は『大田蜀治』っていう名前が……」
「ショクジ! 今からお前のケーカルを……ガロを渡せ!」
「分かった!」
即答。
「抵抗しても――え?」
「だから分かったって。どうやって渡すんだ?」
「――お前から直接頂く。腹に、オレの腕を刺す……つまり、お前は死ぬ」
「分かった!」
やはり即答。
「いやだから――分かった?」
「ああ。僕じゃみんなを助けられないし――もう好きなデカ盛りが食べられないのが心残りだけど――」
「焼き殺せ」
魔術師ゴロアが呼び出したワイバーンによって、2人へと炎が吐かれる。
「――止めろ、止めてくれ――!」
大田が前に出る。
そして、センは思いっきり――腕を大田の背中へ刺し込んだ。
「ぐっ!?」
「分かったぜショクジ。お前のエネルギー、喰らってオレ様がアイツらをブチ壊して――」
センの腕にあるガロ変換機構を使い、体内エネルギーをすべてガロに変換――するはずだった。
そこへ炎がやってきて、見る見る内に大田の肉体が焼かれていくが――体内から光が溢れる。
大田の肉体は光へと分解され――その全てはセンの腕を伝い、その銀の肉体へと吸い込まれていく。
「なんだこの反応は!? オレは知らな――」
センの肉体もまた銀の粒子へと変わり――白と銀の光は螺旋のように絡み合う。
螺旋は渦となり、一か所へと収束していく。
そして光の塊は、爆発した。
◇
「な、なんだお前は!?」
ゴロアが驚きの声を上げる。
炎の中から現れたのは、銀と黒の装甲に覆われた――鋼の戦士だ。
顔の部分は黒いフェイスガードで覆われ、全身もスタイリッシュな肉体となっている。
まるで特撮のヒーローのような姿になり、1番驚いているのは――。
『うええええ!?』
「えええええ!?」
当の本人達である。
『オレ様がショクジのケーカル喰うはずが、逆に肉体奪われてるってどういうことだよ!?』
「知らないよ! これセンがやったことじゃないの?」
『キガノイドと有機生命体の合体とか――んなもん本星でも聞いたことねーよ!』
「ワイバーン共! 噛み殺せ!!」
炎が効かないと思ったのか、即座にゴロアは空を飛ぶワイバーンへ命じる。
ワイバーンは命令を実行に移し、大田達へ向かって大口を開けながら突進してくる。
「危ないッ!」
その口を両腕で受ける。
ザザッ――と足が地面を抉るが、それもすぐに止まる。
「ぐっ――ってアレ? 噛まれてない……うわッ、鋭い歯だ!」
『訳分かんねーが、今のお前は地球人よりオレらキガノイドに近い存在のようだ。その程度の鳥、ぶん投げてやれ!』
「だから鳥じゃなくて、ドラゴンだ――って!」
「GOAAAAAAAA!!」
ワイバーンはそのまま炎を吐くが、大田は気にせず掴んだまま横倒しになったビルの壁へと――叩きつける!
「GUGYAAAAA!?」
「これで、トドメだ!」
大田は飛び上がり、特撮ヒーローの如く飛び蹴りをワイバーンの腹へと食らわせると――接触した足の裏から光輝く白いエネルギーが弾け、爆発する。
ドドォォォォン!
そのままワイバーンは、白い爆発と共に四散した。
『なんだこれ!?』
「なんだこれ!?」
やった本人もビックリの現象だ。
「闇の刃、我が前の敵を切り裂け――ダーク・ブレイド!」
それを隙と見たか、すかさずゴロアは魔法で生み出した紫の刃を、大田へと投げる。
高速回転する刃はまるでカッターのように大田の首を飛ばそうとしてくるが――。
「危ない!」
思わず腕でガードする。これもまた接触すると同時に白い光に阻まれ――。
「てやッ!」
もう片方の拳で殴ると、刃はガラスのようにバラバラになった。
「チッ。貴様ら、一時撤退だ!」
ゴロアはこの正体不明な相手に不利を悟り、部下のゴブリンや残りのワイバーンに撤退を命じる。
『逃がすか!』
「――私はグルマン皇帝陛下にお仕えする七賢者が1人、魔術師ゴロアだ」
安全な距離まで離れると、ゴロアは拡声魔法で名乗りを上げる。
「貴様の名はなんだ!」
『そんなの無視だ。ひとまずアイツを倒して――』
「名前、名前か……」
ここで大田は腕組みをして考え込む。
『いや、ショクジ?』
「なんかヒーローみたいにカッコイイし、名前欲しいよな」
窓ガラスに映る自分の姿を確認しながら頷く。
「大田蜀治、ガロ、セン……オオガロセン? センの名前なんて言ったっけ」
『えっ? あぁ、K-CALREONの1000だけど』
「ケーカル、リオン……ガロリオン……おお、よし」
この間、数秒。
「僕――いや、俺の名前はガロリオン! ガロに導かれし、貴様ら帝国の野望を打ち砕く――正義と爆食の戦士だ!」
決めポーズを行い、ビシッとゴロアを指差す大田こと、ガロリオン。
「ガロリオン――貴様の名、確かに覚えたぞ……シャドーミスト!」
そう言ってゴロアは黒い霧をばら撒き――それが収まる頃には、どこかへ逃げてしまった後だった。
『あーあ。逃がしちゃった』
「それよりも、みんなを助けないと――」
窪みにハマっていた3人は炎による酸欠か気を失っていたが、特に命に別状は無さそうだ。
そこから3人を掘り出し肩に担ぐと――大田は跳躍しながら町全体を見渡す。
町全体の至る場所でワイバーンが飛び、ワーウルフに乗ったゴブリンが走り回り、ビルがまた1つ――空の魔法陣へと消えた。
『あのゴロアという奴ら、好き勝手しやがって――おいショクジ、すぐにオレの宇宙船の下へ行け!』
「なんで?」
『宇宙船にはオレが使っている装備がある。いくら殴れば倒せるからって、奴らは空を飛んでいるからな――長距離武器は必要だ』
「よし分かった!」
避難所になっているシェルターの中へ3人を預ける――中から出て来た人は、大田の姿にビビっていた。
すぐに大田はセンの誘導に従い、先ほどの「大錦」があったビルの近くにある公園。その森の中に隠してある宇宙船へと向かう。
宇宙船は半分以上地面に潜っているようで、パッと見れば半球体の遊具のようにも見える。
その宇宙船の前に、小さな影がいくつか見える――。
『チッ、ガキに群がられているな!』
「アレはゴブリンだよ――ん?」
◇
「ぐへへ……」
「さっさとこっちに来るんだよ」
「いや……乱暴しないで……」
宇宙船を背に怯えている若い女性が居る――それな社内でも美人で有名な女性社員の後藤碧だ。
「大人しく従えが手荒な真似は……」
「ガロ、キィィィィック!!」
大田は下品な笑みを浮かべるゴブリンの頭を蹴り飛ばし、そのまま後藤とゴブリン達の前へと立ちはだかる。
「なんだお前は!?」
「フッ――俺の名前はガロリオン。そう、正義と爆食の――」
『しねぇぇぇ!!』
セリフを言い終わる前にゴブリン達が各々の武器を片手に、次々と襲い掛かって来る。
「えっ、ちょっ、待って!?」
後ろの後藤を守る為、ここを動けない。
『待つ訳ねーだろ! すぐにこう叫べ――』
「登録コードK-CALREON1000、アクセス!」
『コードを確認しました』
機械的な音声が、大田の頭の中へと流れる。
それはどう聞いても日本語でも英語でもなく、聞いたことのない言葉だったが――センのおかげで認識することができる。
「ケーカルランチャー、パワーユニット射出!」
『了解致しました――射出』
半球体の頂上から長さ1mの砲身が付いた機関銃のようなモノと、小さな流線形の円盤が飛び出す。
すかさずランチャーを受け取り、分割された円盤を両手両足に装着する。
「ぎええええ!!」
「――間に合わない!」
ランチャーを発射せず――その長い砲身で、そのまま思いっきりぶん殴る。
『えぇ……』
「ぎえええ!!」
どんどん飛びかかって来るゴブリンを砲身で殴って倒していると――気が付けば、残りのゴブリン達は撤退していった。
「はぁ、疲れた」
『なんのためのランチャーだよ』
「あ、あの!」
後藤は自身が正体不明の謎の男に助けられたにも拘わらず、彼の手を取って感謝の言葉を伝える。
「ありがとうございました!」
「わわっ――えーっと、お嬢さん。お怪我はないでしょうか」
「はい、大丈夫です!」
「僕――俺はこのまま敵を倒すので、これで失礼!」
「あっ――」
知人でもあるが、何より女性経験がゼロの大田はそのまま走ってその場を後にする。
「せめてお名前を……」
◇
『さぁショクジ、どんどん撃ち落とせ!』
「ケーカル……いや、ガロランチャー発射!」
ビルの屋上でランチャーを構え、空を飛ぶワイバーンに向けてトリガーを引く。
砲身から放たれた光弾は次々とワイバーンを落とし、さらに紫の魔法陣までも破壊していく。
「これ凄い気持ち良いけど――なんかお腹が空いてきたな」
『お前のエネルギー使ってるからな』
「後でまた大盛を食べたいなぁ」
その様子を水晶玉を通して視ていた魔術師ゴロアは、焦ったように水晶玉を投げ捨てる。
「あのガロリオンと言ったか……このままでは私が皇帝陛下に粛清されてしまう――こうなれば!」
ゴロアはこの町で1番大きな10階建てマンションの前に降り立つと、呪文を唱える。
「我が声に答えろ! 魂の牢獄に囚われし魔人の魂よ。今こそお前に肉体を与えてやろう――そして、あのガロリオンをブチ殺せ!」
紫の魔力を杖に込め、それを天に向かって解放する。
空に魔法陣が出現し、黒いモヤモヤした塊が降って来る。
「元魔王軍の力、存分に振るって貰うぞ」
ゴロアが杖をかざすと――黒いモヤはマンションへと乗り移り、そして――。
◇
『これであらかた倒したな――』
「なんだあれ?」
ビルの屋上からよく見える――それは今年の春に竣工したばかりの10階建てマンション。それが鈍い紫の色に光ったかと思うと――一瞬でバラバラになる。
「えぇ!?」
バラバラになった瓦礫が渦巻くように回転し、巨大な人型へと姿を変えていく。
マンションのエントランスホールのドア2つが目に、足や体にはおびただしい量の窓が付いている。
その背丈は約40m。その総重量は約4万トン。大質量の鉄筋コンクリートゴーレムだ。
『ガロリオン! この私の自信作と戦え! すぐにこちらに来なければ……こうだ!』
町中にゴロアの声が響く。
それと同時にゴーレムの目が光り――。
「いけない!」
紫の光線が町へ向けて放たれるが、それを最大出力のランチャーのビームで受け止め――空へと逸らす。
『さぁ、ここまで来い!』
「いかないと――町が危ない……」
そう言って大田が空を見上げると――複数の影が高速で飛んでいく。
複数の飛翔体は、ゴーレムへと向かっているようだ。
『あれは?』
「自衛隊の戦闘機だ!」
『この星の軍隊か――』
次回予告――。
ゴロアの生み出した巨大鉄筋コンクリートゴーレムは巨大過ぎて、自衛隊の戦闘機や戦車、ガロスーツでは手も足も出ない。
『しかも肝心のお前はエネルギー不足と来たもんだ』
「だったら、時間を稼いで貰っている間にアレをやるしかない」
『アレって?』
「――爆食だ!」
次回、第3話。
『ガロリオン、爆食す』