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第1話「来訪者」


 200X年、日本。

 宇宙から飛来した隕石、その内の1つが日本へと落下した。その隕石の調査を行った賀郎博士により、未知のエネルギーが付着していることが確認され、内閣府より秘密裏に研究が進められる。


 201X年、日本。

 内閣総理大臣により、人間の内包カロリーを有効利用できる未知なるエネルギー「ガロ」が発表される。

 カロリーを吸収する事でガロはエネルギーを増大させ、それは車や重機から、パワードスーツを動かせるエネルギー源として使用ができるという。

 国の研究所から様々な企業へ「ガロ」と研究データが提供され、火力発電、原子力発電に代わる大きなエネルギー改革になると世間を騒がせた。



 そして舞台は202X年、日本。


 ここはダイトーキョーにある大丸商事。

 カロリー変換エネルギー「ガロ」を使用した介護パワードスーツレンタル事業を中心に展開する中小企業。

 そのダイコーガイ地区にある支店の営業課に、彼は所属する。


「はいこちら大丸商事……はい、少々お待ちください。大田さん、五条工場の木村様からお電話です」

「ふう――はい、お電話代わりました。こちら大田で――あっ、はい! はい……大変申し訳ございません。すぐに手配を。はい、はい……では後ほどご連絡しますので――はぁ」

「おい大田、ちょっとこっち来い!」

「はいっ!」


 大田蜀治(おおたしょくじ)、23歳。

 この大丸商事に入って早1年になり、この支店の正社員の中では1番の若手である。

 しかし仕事に対する物覚えが悪く、最初は寛大な態度だった支店長も、


「お前……五条工場さんはなんて言ってた」

「はい……注文していた部品のロット番号が、下一桁が1つズレてたみたいで……すぐに発注し直しますんで……」

「――はぁ。先月はなんだったけな」

「部品のロット番号が、下二桁の部分が1つズレてました……」

「……もういい。誤発注の件と、再手配は済ませておけ。先方への謝罪は俺がやっておく」

「あ、ありがとうございます」

「――始末書、書いとけよ」


 このように、ほぼ諦め状態である。


「また大田さんやらかしてるよ……」

「そのお腹のカロリー、ガロ使って減らして貰えばいいのに」


 本人にも聞こえる場所で陰口を言われるが、これも毎回の恒例行事のようなものだ。


「もうみんな。そういうこと言わないの!」

「後藤さん。別に僕は気にしてないから……」


 大田の対面の席に座っている1つ上の女性先輩である後藤碧(ごとうみどり)に庇われる。これも毎回の光景だ。


 23歳という若さにして173cmに対して100キロオーバー、それが大田蜀治(おおたしょくじ)

 その立派なお腹は、数多の食事の成果だろう。

 そう、彼は何よりも食べることが、大好きだった。


 ◇


「へいらっしゃい!」

「油野菜マシマシマシ、カラメ」

「はいよ、大盛と油野菜マシマシマシカラメね!」


 散々な気分だった大田だったが、そういった気分の時にはいつもジロウ系ラーメン「大錦」に寄って行く。

 会社からの帰り道にある古いビルの2階にあるこの店は、いつも昼飯と夕飯の時間帯には大行列ができるほどの人気店だ。

 ここのラーメンはうどんのように太い麺、鳥ガラと魚介出汁の良く効いた醤油ベースのスープ。分厚い特製チャーシュー。そして、


「へい。大盛油野菜マシマシマシカラメ!」


 その上には茹でたモヤシとキャベツが、座った大田の頭と同じくらいの高さまで盛られている。

 さらにその上から脂身がかき氷のシロップのように掛けられている。


「いただきます!」


 元気よく割り箸を割ると、大田は一心不乱に野菜の山を崩していく。


「もぐもぐもぐもぐ――」


 すると、その時だった――。


『ジリリリリリ――――ピンポンパンポーン』


 店内の人間、全てのスマートフォンから一斉に、緊急アラートが鳴り響く。


『ネオトーキョー内閣府より緊急放送で――』


 その案内が言い終わるより先に、建物全体が激しく揺れ動いた。


「う、うわぁぁああああ!?」

「ななんだなんだ!?」

「もぐもぐもぐもぐ――」


 揺れはすぐに収まったが、店員はすぐに避難誘導を開始する。


「お、お客様。今の内に外へ――エレベーターは使わないで下さい。落ち着いて、階段から降りて下さい!」

「なんだよ地震か!?」

「おい、早く進めよ!」

「もぐもぐもぐもぐ――」


 店内の客と、店員が全員外へ避難した――ただ1人を除いて。


「――ほお、こんな状況で飯を食ってるようなバカがいるな」


 静まり返った店内に入って来たのは――戻って来た店員でも客でもない。いや、()()ですらない。

 見ようによっては瘦せ細った人間にも見えるが、よく見ればその身体の構成が有機生命体で無いのは明白だった。全員がステンレスのような色の、人型機械生命体。


「オレ様はキガノイド! K-CALREONケーカルドロンの識別番号1000!」

「ずるずるずる――」

「お前ら人間には分かんねーだろうが、1000番はオレ様のようなエリートが与えられる素晴らしい番号だ!」

「ずるずるるっ――」

「この地球という星は、我々キガノイドによって美味しく食べられる為に存在する! オレ様はその、先遣隊という訳だ!」

「ごくごくごく――」

「驚いたか? 恐怖で声も出ないだろう――さぁ前菜代わりに、貴様のケーカルエネルギーを頂こうか!」

「ぷはぁ……やっぱここのラーメンは、格別だなぁ」

「……聞いてた?」


 そこで初めて大田は振り返り、そこに居た銀色機械生命体を目撃する。


「うわっ、誰だ!?」

「――フッハハハ! 人間よ、恐怖するがいい。オレ様のキガノイド! K-CALREONの――」


 律儀にもう1回、今度はポーズ付きで自己紹介を始める機械生命体だったが、


 ドオオオオン――ゴゴゴゴゴゥ!


 物凄い轟音と共に、店内全体が揺れ出したのだ。

 先ほどの地震とは比べ物にならない揺れ。


「ななななななんだだだだ」

『ピロロロロ――gyg84! gyg84!』

「なんだと!?」


 機械生命体が耳(?)に手を当てると、慌てたように店内の窓を開く。

 すると――建物が空に浮こうとしているのだった。


「え、マジで!?」

「こうしちゃおれん、脱出だ!」

「僕も!」


 ラーメンをキッチリ完食した大田は愛用のリュックを片手に、機械生命体と共にすぐに建物から脱出した。

 間一髪。

 脱出してすぐに建物が空へと舞い上がっていく。


「あれは、なんだ?」

「え、えええええ!?」


 機械生命体が指を差すと、大田もまた目玉が飛び出すくらい驚く。

 なんとラーメン屋の入っていたビルが、空に出現していた巨大な紫色の魔法陣の中へと消えていくのだ。

 2人はしばらく見守り――ビルが完全に消失してから、大田は機械生命体を指差す。


「お前がやったのか!?」

「いやいやいや。オレ様はなにも知らんて」

「――というかお前、誰?」

「オレ様はキガノイド、K-CALREONケーカルドロンの識別番号1000――」

「よく分かんないからセンでいいか?」

「人を勝手に呼びやすく改変するな!」


 そんな問答をしている間に、先ほどと同じ紫色の巨大な魔法陣が――空にたくさん出現したのだ。

 今度はその魔法陣から、なにか鳥のようなものが出現する――。


「鳥? いや、アレは……」


『GYAAAAAAA!!』


「ドラゴンだ!?」

「ドラゴン、ってなんだ?」


 ◇


「きゃああああ!?」

「ギャハハハ!」


 子供のように小柄で耳が長く尖っているのが特徴的な種族──ゴブリンだ。

 ゴブリンが槍や剣を持ち狼に跨り、逃げる人々を襲う。


「この七賢者が1人、魔術師ゴロア様が命じる……ゴブリン、ワーウルフ共。奪え! この世界にあるモノはすべて、皇帝陛下のモノだ!」

「ギャハハハ!」


 そう高らかに叫んだのは全身黒と紫を基調としたローブを着た、自身と同じ丈の杖を持つ魔術師だ。

 魔術師の持つ杖が紫に光る度、空の魔法陣から魔物が出てくる。


「ワイバーン部隊、そこらの美味そうな匂いがする建物にマーキングしろ! 私が浮かせて根こそぎ奪ってやる!」


 そう、先ほどのビル浮遊&消失は奴の仕業だ。

 空を飛ぶドラゴン、ワイバーン──その背中に乗るゴブリンはボウガンで狙いを定め、黒い結晶の付いた杭を建物に打ち込んでいく。

 それを建物の角に対し、1発ずつの計4発。


「ぬぅぅ──」


 ゴロアが杖を掲げると、建物が激しく揺れ──。


「この建物もやけに硬いな──フレイムブレイド!」


 さらに生み出した炎の刃で、建物と地面の間を横薙ぎで斬り裂く。

 すると鉄筋コンクリートは、まるでバターのように溶け──分断された。


「よし、トランスグラビィティ!」


 ビルがまた1つ、浮遊し空の魔法陣へと消えていった。


 ◇


「はぁ、はぁ……」

「なんだなんだ。もしかして奴ら、オレらより先にケーカルを狙ってやがるのか!」


 大田とセンは通りを走っていた。

 後ろからは狼に乗ったゴブリンが2匹、迫っていた。


「ギャハハハ、人間と……ありゃなんだ。銀色のゴーレムかなんかか?」

「なんでもイイさ。邪魔をするならコロすだけさ」


「オレをコロす? ガキが!」

「はぁ、はぁ……」


 周囲にあったビルやマンションは一部が崩れ、それの間を縫うように逃げていた大田だったが……次第に周りが崩れた建物で囲まれた場所にやってきた。


「ここまでだ、人間!」

「あのガキ2匹、追い掛けながらここに誘導してたワケか」

「うえ……戻しそう」


 普段から全く運動をしない大田が口に手を当てる。


「そこに誰かいるのか!?」

「誰!?」


 そこには瓦礫の下敷きになりつつも、窪みになんとか収まり難を逃れている3人の青年達が居た。

 それを発見した大田は驚きの声を上げる。


「鈴木君、佐藤君、田中君!」

「その声は――大田さんか!」

「お、おお大田さん。誰か助けを――」

「やや、そこに見えるのはあのゴブリンじゃないか!」

「ギエッエッ……偶然にも貢物が3人も増えるとは、これも皇帝陛下の思し召しダ!」

「待ってて、今助けるから――」


 大田は近くに落ちていた鉄パイプを使って地面のアスファルトを削ろうとするも、全く上手くいかない。

 

「さぁ、捕らえろ!」

「これ以上、貴重な地球人を奪わせるか!」


 センは両手の指を銃の形に曲げる。そして人差し指に当たる部分から、光弾が多数発射される。

 寸前のところで身を翻し、ゴブリンは回避する。


「なんだ貴様! 邪魔立てする気か!」

「お前、助けてくれるのか!?」

「ハンッ。地球人はケーカルを生み出す為の触媒だからなぁ……その為に本星がケーカルを地球へ送り込んだのに、このままじゃ先遣隊であるオレ様の査定にも響く!」


「――なにをゴチャゴチャとやっている」


 センと大田が見上げると、そこには魔術師ゴロアが宙に浮いていた。


「お前が指揮官だな」

「なんだこのブサイクな人形は」

「誰がブサイクだ! オレ様の名前は――」

「人間は他にも腐るほどいる。邪魔立てするなら、こうだ」


 ゴロアが杖をかざすと、それを合図に空からワイバーンが3匹、セン達の下へ飛んで来た。


「焼き殺せ」

「クソが。こうなったら――」

「――止めろ……止めてくれ!」


 大田はみんなを庇うように立ちはだかるも、無情にもワイバーンの口から炎が吐かれる。

 灼熱の赤い炎は、容赦なくセンと大田を焼いていく――。


「ふん。ゴブリン共、他の獲物を探せ」

「は、ははぁ!」


 ゴロアは一瞥もなくその場を立ち去ろうとしたが――その時だった。


 炎の中から眩くも神々しいほどに銀色の光が、辺りを突き刺すように放たれる。


「な、なんだこの光は!?」


 光は渦のように回転を始め――それは炎の中で収束する。

 

 そして――光が爆発するように弾けた。


「お、お前は誰だ!?」


 炎の中から――銀と黒の装甲を纏った鋼の戦士が、ゆっくりと立ち上がるのだった。



 次回予告――。


 大田とセンはワイバーンの炎によって焼かれた――はずだった。

 しかし、その場に現れたのは1人の戦士――その名を。

「……名前なにがいい?」

「そりゃ『スーパーセンZ』で決まりよ」

「……ダサ」

「うっせぇ! じゃあお前が付けて見ろよ!」


次回、第2話。

『その名はガロリオン!』


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