終幕
パリディユスは、最愛であるラルウァの腕に抱かれ、静かに涙を流していた。
数分前。
鬼気迫るラルウァが引き連れてきた騎士団は、目の前に広がる光景に、未だ困惑している様子だった。彼らの足元には、短剣が刺さった状態で事切れている男が、無惨な姿で転がっている。濁りきった目を大きく開いて、広がり続けている血溜まりの中で仰向けになっているそれから、目を逸らす人さえいた。
パリディユスの乱れた服装や、白魚のようなか細い手が鮮血に汚されていることから、彼女がこの惨状を作り上げたことに変わりない。だが、この惨状とパリディユスの繋がりが見出せないでいる騎士団員達は戸惑い続けていた。
「お前は、悪くない。悪くない」
言い聞かせるように繰り返すラルウァは、彼女の頭を撫でた。
この場所で、唯一冷静だったのはラルウァだろう。室内の状況もひと目見ただけで理解し、血まみれになっている男の傍らで泣いていた彼女へと駆け寄ったのだから。
パリディユスは汚れた手でマントを握り締め、縋り付くようにして冷たく硬い鎧に頬を押し付けていた。
首を横に振り、薄桃色の唇を噛んで。乾き始めている血が、マントを汚すことはなかったが、無数の皺を作った。
二人だけ切り離された世界を、騎士たちの隙間から見たユリアは、眉間に皺を寄せ口元を震える手で覆っていた。嫌悪、とも受け取れる表情だったのだろう。ユリアの表情を見た騎士は目を丸くさせ、そして事切れてしまっている男へと視線を移すと、これでもかと睨んだ。
「……お労しい」
ユリアの呟きは、暗闇に消えていく。
その言葉を耳にした騎士だけが、ユリアの呟きの意味を理解しているようだった。
この日、一人の男が死んだ。
ひどく美しい女の手によって、一人の男の命が奪われた。これが、パラディユスの正当防衛と言えるのかは、定かではない。
しかし、彼女をきつく抱き締めるラルウァがそれを突き通せば、まかり通るだろう。
ここは、そういう国なのだ。
今日、ここで誰かは恨み、誰かは悲しみ、誰かは歓喜した。