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つらい別れとそうでない別れ



 積もっていた雪もほとんど解け始めた頃、課長からの手紙には3日後に次の国に行くようにと書かれていた。

 私はそのことを国王様に伝えるために部屋を後にする。



 「3日後に国を発つのだな……此度は本当に世話になった。次の冬も青藍殿が来てくれるのかな??」

 「どうでしょう。私がここに来たのは恐らく人手不足だったからだと思いますので」

 「そうか。もし、またこの国にくることがあったら大いに歓迎しよう」

 「はい、ありがとうございます」



 私はお城を出て街へと出掛けると、以前ロイ君と出会った薬屋の前を通り過ぎる。

 ちらりと店内を見たが、棚には豊富に薬が並んでいた。

 私は途中のお菓子屋さんでクッキーを買ってから、街外れの赤い屋根のお家を訪ねた。



 「はーい。あら、青藍さん!!いらっしゃい。どうかしたの??」

 「こんにちは。ちょっとご挨拶にきたんです。3日後にこの国を出発しないとなので」

 「そういえばそろそろ春だものねぇ……寂しくなるわ。どうぞ、中へ」


 ドアを開けたエステルさんはもうすっかり顔色もよくなっている。

 お邪魔して家の中に入ると、キッチンには料理の手伝いをしていたロイ君がいた。

 そういえば、最初に家を訪ねた時も料理の手伝いをしてたっけ……いい子だね。



 「あ、青藍お姉ちゃん!!こんにちは!!」

 「こんにちは、ロイ君。これ、お菓子買ってきたんだ。エステルさんと一緒に食べてね」

 「ありがとう!!でも、折角だから一緒に食べようよ。母さん、一緒に食べてもいいよね??」

 「もちろん。今、お茶を入れますね」



 ロイ君達で食べてください、と言ったのだが結局私も一緒に食べることになってしまった。

 いろんな種類のクッキーを買ってきたので、お皿に少しずつ取り出すとなんだかパーティーをするみたいに華やかな見た目になる。



 「わ!!いろんなクッキーがあって楽しいね!!」

 「そうねぇ。シンプルなお皿が一気に賑やかになったわ」

 「ふふふ、よかったです」



 2人が楽しそうにしているのでこっちまで楽しい気持ちになってくる。

 少し早いおやつを食べながら、私は3日後に国を出発することを伝えた。



 「3日後??随分急に出発するのね……寂しくなるわ」

 「ええー!!もう行っちゃうの!?次はいつ来るの??一か月後??」

 「流石にそんなに早くは戻ってこないかな。また一年後。でも次の冬使いは私じゃない人が来るかも」

 「やだ!!また、青藍お姉ちゃんがいい!!」

 「こら、青藍さんを困らせないの」



 ロイ君が駄々をこねるように机を数回叩いた……それを見てお母様が宥めた。

 私も少し、2人と別れるのが名残惜しくなっている。

 私は、国と国を旅する季節使いなのに……別れる事が前よりもツラく感じているような気がした。



 「また、会う機会があったらすぐに会いに来るよ」

 「絶対だからね!!」

 「うん!!」



 ロイ君と指切りをして残りの紅茶を飲み干した。

 気づけば夕方になっていたので、2人にお別れをしてお城へと向かう。

 しばらく歩いていると、街の入り口にリオールが立っているのが見える。



 「おかえり。あの親子の所に行っていたんだね」

 「うん、3日後に出発しないといけなくなったから伝えに言ってたんだ」

 「そう……青藍ともまたお別れか。いやだな……」

 「しょうがないよ。私、季節使い辞めないし、リオールと結婚もしないから」

 「それ、今言おうとしたのに。先に言われちゃった」



 やっぱり、そのことを言おうとしてたんだ……しつこいやつだ。

 私はお城へ帰ろうと足を進めたが、2歩進んだところで腕を引っ張られる。



 「なに??」

 「じゃあ、代わりにお願いを聞いてほしい」

 「お願い??……無理なものはやめてね」

 「青藍が冬降ろしをしているのを見たい。ほんの少しでいいんだ」

 「……いいけど」



 その返事を聞いて嬉しそうな顔になったリオールの腕を引いて、再び街外れの人がいない場所へと移動する。

 魔力を少し込めて、ちょっとだけ雪を降らせるだけなら問題ないだろう。

 私は鞄から季節水晶を取り出して、リオールに少し離れるように言う。



 「いい??いくよ。」

 「うん」



 目を閉じて意識を集中させる。

 水晶に少量の魔力を込めると、足元から冷気が現れて周りに生い茂っている芝を凍らせる感覚がする。

 丁寧に魔力を込めてからそれを一気に放出させると、周りに雪の結晶が現れキラキラと空中で輝く。

 しばらくすると、私とリオールがいる場所にだけ小さな雪がふわふわと降りてくる。



 「……すごいよ、青藍。とってもきれいだ」

 「ありがとう。こんなに小規模な冬降ろしは初めてだったけどお気に召したみたいだね」

 「すごい、すごいよ!!やっぱり青藍はすごいんだ!!」



 ぼんやりと降ってくる雪を眺めていたリオールだが、子供のようにはしゃぎ始めた。

 そして、なぜか私を抱き上げて持ち上げるとくるくると回りだす。



 「ちょ、ちょっと、下ろして!!」

 「どんな冬使いより、青藍が一番だよ!!」

 「わ、わかったから下ろして。目が回ってきたから……!!」

 「あはは、僕もだよ。っとと」



 リオールも相当目が回ってきているようだ……足がもつれて足元が崩れると尻もちをついた。

 私も一緒に倒れ込んだが、リオールがしっかりと受け止めてくれたお陰でどこも痛くはない。



 「これで満足??」

 「ああ、ありがとう。今度はちゃんとした冬降ろしも見たいな」

 「運がよければ見れるんじゃないの。さ、もう帰るよ」



 離れようとしたが両手が伸びてきて再び元の位置――リオールの胸に抱きかかえられた。

 顎を掴まれ上を向くと、リオールの泣きそうな顔がすぐそばある。

 彼の目尻の辺りに降ってきた雪は体温で溶けて、まるで涙を流しているかのように頬を滑り落ちていった。



 「今回は大人しく帰るよ。でも、僕は諦めない。ずっと青藍と一緒に帰る日を夢見ているから」

 「いつか気が変わるよ。君と帰る人は私じゃない違う人だ」

 「そんなのありえない。青藍は僕と帰ることになる……絶対にね」



 ようやく拘束が解けたので先に立ち上がる。

 なんだか、悲しげにこちらを見上げているリオールに手を差し伸べてその手を思いっきり引っ張った。



 「おもっ!!リオールってこんなに重かったっけ??前はもっとすんなり引き上げたのに」

 「ちょっと、青藍ってどれだけ前の僕の事言ってるの??こっちはもうちゃんとした大人の男なんだけど」

 「大人の男は未練がましく婚約を断った女性を何度も追い回さないよ」

 「じゃあ、子供のままでいいかな」

 「はいはい、お城に早く帰ろうねー」



 引っ張り上げた時につないだ手をそのままにしてリオールとお城へと歩き出す。

 お城の部屋に着くまでお互い無言だったが、手だけは決して離さずしっかりと繋がっていた……。



***



 そして3日後、出発の日がやってきた。

 やって来た春使いに引継ぎをして、今回の事を話したら気の毒そうな顔をしてチョコを一つ渡してくれた……ありがとう、本当に疲れたよ。


 「それじゃあ、私はもう行きますね」

 「ああ、道中気を付けて」

 「はい!!さようなら!!」


 街の出口まで送ると言ってくれたが、気持ちだけ頂いてお城の出口でお見送りしてもらう事にした。

 歩いて出口に向かうと、リオールとその部下2名がいた。



 「行くんだね。次はどこに行くの??」

 「さぁね。そういうの言っちゃいけない決まりなの」

 「そうなんだ。教えてもらったら無理矢理その国に環境調査とか適当な理由をつけて行こうとしたのに」

 「……やめろ真面目に仕事しろ」


 私の手を両手で包み込むように握ってきたので、手を引っ込めようとしているのだがビクともしない。

 リオールは笑顔で私を見つめると、ゆっくりとした動作で私の手の甲にキスをしてきた。



 「今回は失敗しちゃったけど……次こそは青藍を連れ帰ってみせるよ。だから、待っててね」

 「あーはいはい。別に待ってないからゆっっっくりでいいよ」

 「またそうやって意地悪言う……。でも、そんな素直じゃない青藍も好き」



 リオールは素早く顔を近づけてくると、私の唇の横に軽くキスをした。

 私は一瞬なにが起こったのか理解できなかった……が、咄嗟に箒を取り出して、リオールに思いっきり振り下ろした。

 ……が、いとも簡単に避けられる。



 「リオール!!」

 「あはは!!青藍ってば顔が真っ赤!!」

 「~~っもういい!!じゃあね!!」



 楽しそうに笑っているリオールに一発だけでも入れてやろうと思ったが、全く当たらない……!!

 ふと、視界に入ったリオールの部下2人がこちらを微笑ましい顔で見てくる。

 一部始終を見られていたことにようやく気付いた私は一気に恥ずかしくなり、早々に箒に乗って空高く舞い上がった。



 下を見下ろすと、リオールがそれはそれは素敵な笑顔でこちらに手を振っている。

 私はそっぽを向くように視線をそらすと、次の国に向けて箒を飛ばせたのであった……。



早めにバレンタインネタを投稿しないと・・・大遅刻になっちゃう

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