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思ったより早い再会



 私は狂ったように部屋を意味なく歩き回った。

 ベッドの下もクローゼットもすべて見たが見当たらない……。



 「どうして、季節水晶がないの!?いつ、いつ失くしたの!?……はっ、まさかあの時……!?」



 私は一旦、冷静になって最後に水晶を使ったのを思い出す。

 午前中に雪の量を調節させるために魔力を込めて、その後鞄に入れて外にお出掛けして……。

 少年にぶつかり、鞄の中身をぶちまけた。



 「水晶は丸いからあれだけ遠くに転がって行っちゃったのかな……それともあの少年が季節水晶を盗んだ??……そう思いたくないけど、何か見たかもしれないよね」



 なにかしら知っているかもしれない、あの少年を探して聞いてみる事にしよう。

 部屋から出てお城の入り口へ向かうと何やら騒がしい声が聞こえてきた……何事かと思っていると、国王様が私の方へ近づいてくる。



 「冬使い殿。ちょうどあなたの部屋へ行こうとしていたのだ」

 「どうしましたか??それになにやら入り口の方が騒がしいですね」

 「帝国から環境省の方たちが来てくれたのですが。……そのうちの1人、副大臣があなたを探していると」

 「ど、どうしよう……!!」



 こ私を探しているという環境省の副大臣がすぐそこにいるらしい。

 季節水晶を今すぐ探しに行かないといけないのに、環境省に構ってられないよ……!!

 私の顔色を見て、何かを察した国王様は裏口のほうを指差した。



 「冬使い殿、ここは私にまかせてしばらく城の外へ。あなたのことは上手く誤魔化しておきましょう。さぁ、早く」

 「あ、ありがとうございますっ!!」



 国王はそう言ってお城の玄関の方へと歩いていった。

 私は厨房の裏口から外へ出ると、環境省の人間がいないことを確認して走り出す。

 その後姿を物陰から見ている人物がいたことに私は全く気付いていなかった……。




 とりあえず、先ほどの薬屋に来ていた。

 荷物をばらまいた周辺を探したが、季節水晶は見当たらない……。

 その様子を見ていた薬屋の店主が声を掛けてきた。



 「あの……なにか、探しものですか??先ほどからキョキョロと見渡していましたので。」

 「えっと、さっきここで鞄の中身を全てばらまいてしまって。大事な水晶を探しているんです。」

 「それなら、見ましたよ。」

 「ほ、本当ですか!?詳しく教えてください!!」



 どうやら、私と少年がぶつかった瞬間を見ていたようだ。

 詳しく聞くと、少年が荷物を拾いながら水晶を手に取ると自分の鞄にしまっていたのを見たらしい。



 「その少年を知っているんですか!?住んでいる場所は??」

 「ええ、あの子はロイと言いして……彼の母が長く病を患っていてよくこの薬屋に来ていたんですよ。街のはずれにある赤い屋根の家が彼の自宅です」

 「赤い屋根……ですね。教えてくれてありがとうございます」

 「それと、少ないのですがこの薬を彼の母親に渡してくれますか。最近姿を見ていないので心配していたんです」



 私は薬屋の店主から小さな包みを受け取ると、教えてもらった場所へと向かう。

 ひらひらと白い雪が降ってきた……恐らく数時間後には相当積もるはずだ。


 走り出そうとした瞬間、建物の物陰から伸びてきた腕に捕らえられ大きな手の平で口元を押さえられてしまった。



 「……っむぐぐ、うー!!」



 どんどん薄暗い路地裏へと引きずられていく……ふと、嗅いだことのある香水の匂いがした。

 ずっと昔に私がプレゼントした、少し子供っぽい柑橘系の香水を今でも付けている人物に心当たりがある。



 視界の隅に金色の髪の毛がさらりと見えた。

 できればずっと聞きたくないと思っていた声がすぐ後ろで聞こえてくる。



 「見つけた……。やっと、ようやく!!会いたかった……青藍!!」

 「リオール!?どうしてここにいるの!?」



 口元を押さえていた手は私の肩に回され、強い力で抱き締められている……。

 少し顔を動かすと、美しいエメラルドグリーンの瞳と沢山の女性を虜にしてきた端正な顔立ちがすぐそこにあった。

 私は一気に血の気が引いた感覚がして逃げ出そうと暴れるが、リオールの腕は全く緩まない。



 「青藍青藍、すごく探したんだよ??会いたくて会いたくて気が動転してしまいそうだった……」

 「あ、あ……。」

 「青藍の香りだ……この抱き心地も、艶やかな指通りの銀髪も……ああ、このままどこかへ閉じ込めてしまいたい……!!」

 「う、うわああああああ!!」



 顔を少しも動かせないほどしっかり抱き締められているが、私の首元に顔を寄せている気配を感じる。

 うっとりとした声と徐々に首元にかかるリオールの吐息が熱くなっているのを感じて私は叫ばずにはいられなかった……。



 「えっと、大声が聞こえたが……大丈夫かい??」

 「お騒がせして申し訳ありません。僕に偶然出会ったので彼女、びっくりしてしまったようなんです」

 「じゃあ2人は知り合い……でいいのか??」

 「ええ、恋人以上……いいえ、結婚一歩手前みたいな関係ですので。ご安心を」

 「そ、そうか。邪魔したな」



 大声を聞きつけた男性がわざわざ私達にいる路地裏に慌てて来てくれた。

 誰かが襲われたと思っていたようだが、私の肩を抱きながら人当たりの良い笑顔でリオールが言うと危険はないと判断したのか疑うことなく男性は表通りへ戻っていく。

 再び二人っきりになると、リオールはもう一度強く抱き着いてきたので思いっきり腕を叩いた。



 「また抱き着かないで!!離して!!」

 「でも三か月ぶりの青藍なんだよ??もっとくっついていたい」

 「私はこれから行かないといけない場所があるの。」



 リオールの胸を押して必死に離れようともがくがびくともしない。

 目元も口元も緩みっぱなしのリオールの顔にイラついたので、今度は頬を思いっきりつねると渋々離れてくれた。



 「……あとで抱き締めてくれる??」

 「はいはいそうだねー」

 「絶対だよ??抱きしめて、一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで寝ようね」

 「なんか、増えてるんだけど!!」



 とにかく季節水晶を取り戻さなければ……早歩きで歩き出すと、リオールが横に並んで肩を抱いてきて密着してくる。

 通りすがる女性達が、顔を赤くしてリオールの方に振り返る。

 ご機嫌でいつも以上に素敵スマイルを振りまくリオールに対し、私はこの世の終わりのような暗い顔をしていた。



 「青藍、どこ向っているの??」

 「街外れの赤い屋根のお家。そこの子が私の季節水晶を持っている可能性があるの」

 「青藍の季節水晶を??その子に盗まれたのかい??」

 「なにか事情があると思うんだよね。だから、ちゃんと話して返してもらわないと」

 「青藍の物を盗るなんて子供だろうと許せないな。……でも、水晶が無ければ季節使いクビになるのかな??それならよくやったと褒めてあげないと」

 「バカな事言わないで。……赤い屋根、ここかな」


 話しているうちに街外れの赤い屋根の家に着いた。

 ドアをノックすると、中から弱弱しい女性の聞こえてくる。


 「はい……??どなたでしょうか??」

 「突然お邪魔してすみません。あの、お子さんはお家にいらっしゃいますか??」

 「え、ええ。ロイなら中にいますよ。どうぞ、中へ」


 少し、咳き込みながら女性が家の中へと案内してくれた。

 キッチンで夕飯の手伝いをしているロイ君はこちらに気づいて手に持っていた人参を落とす。


 「母さん!!寝てないと駄目じゃないか!!」

 「少しぐらいなら平気。それより、お客様よ」



 ロイ君のお母様――エステルさんに椅子に座るように勧めてくれたので、お礼を言って着席する。

 私にようやく気が付いたロイ君は、顔を俯かせたまま私の向かいの椅子に座ってくれた。



 「えっと、ロイ君。さっきは私の荷物を拾うのを手伝ってくれてありがとう」

 「う、うん。どういたしまして」

 「それでね、私の大事な水晶が見当たらないの。もしかしたらロイ君の荷物と混ざってないかなって思ったんだ。どうかな??」



 彼の母親もすぐ近くで聞いているので穏便に済ませられないかと思い、私は間違って彼が水晶を持っているんじゃないかという風に問いかける。

 しばらく俯いていたロイ君だったが、諦めたように隣の部屋に行って戻ってくると斜め掛けのバックを持って来て、中から私の季節水晶を差し出してくれた。



 「ごめんなさい……」

 「ううん。返してくれてありがとう。それからこれ、薬屋の店主さんからロイ君のお母さんに渡してねって言われたの」

 「ごほっ。私にですか??どうしましょう、払えるお金なんてないのに……。」

 「あの、詳しく聞かせてもらえませんか??僕達なら力になれるかもしれません。」



 詳しく話を聞くと、数年前にお父様が亡くなって女手一つでロイ君を育てているようだ。

 だが、今回の秋のない冬によって庭で育てていた薬草が採れないまま冬になった事で収入がなくなってしまい貧しい生活を送っているらしい。

 そして、秋からすぐに冬になったせいで体調を崩してしまったという。



 「ただの風邪ならよかったのですが……。もともと身体が弱いのが悪化してしまい早く十分な治療をしないとこの冬を越せないと言われてしまいまして……」

 「だったら寝てないと駄目ですよ!!」

 「ですが、少しでも仕事をしないと……。」

 「私達がどうにかしますからベッドで休んでいてください!!」



 今は調子がいい、というが思っている以上に酷い病状のようだ。

 私はエステルさんを部屋のベッドに寝かせると、相当疲れていたのかすぐに眠ってしまった。

 リビングに戻ると、泣きそうな顔でロイ君が俯いているのが見える。



 「ねぇ、ロイ君はどうして私の水晶を盗んだの??」

 「……母ちゃんがお医者さんから、このままじゃ冬を越せないって言ってたのを聞いて……。だから、冬使いの水晶を奪えばずっと冬のままなんじゃないかって。冬が終わらなければ母ちゃんは死なないって思ったんだ……」



 きっと彼なりにどうすればいいか考えた結果、冬が終わらなければいい、と考えたようだ。

 そのために冬使いの恰好をした私にわざとぶつかり、大切な水晶を奪ったらしい。



 「ロイ君。冬が長引いてもお母さんは良くならないよ。まかせて、私がどうにかしてみせるから。」

 「……本当に??」

 「もちろん。すぐに薬を用意するから待ってて。ね??」



 その後、リオールを荷物持ちにして食材を買い込むと栄養のあるスープを作ってから私とリオールはお城へといったん戻った。

 お城に帰ると環境省の2人組がこちらに慌てた様子で近づいてくる。



 「リオールさん!!やっと戻ったんですか!?探したんですよ!!」

 「副大臣、今回の環境被害はなかなか大事のようです。」

 「ああ、それについては街を見てきたからわかっている。すぐに国王と話がしたい。」



 え……??リオールが環境省の副大臣……??ええっ!?




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