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卒業式



 幼馴染の異様な執着を目の当たりにして2か月後――ついに魔法学園の卒業式当日となった。

 私は黒いローブととんがり帽子の姿でぼんやりと中庭を見つめていた。

 中庭の中央では沢山の卒業生が抱き合いながら泣いていたり、笑い合いながら会話をしているのが聞こえてくる。

 すると、後ろから不意に肩を叩かれたのでびっくりしながら後ろを振り向いた。


 「よっ。卒業おめでとう。なんだかんだで3年間世話になったな!!」

 「夏輝も卒業おめでとう。同じ庶民仲間としてあなたには相当助けられたよ。ありがとね。」

 「おいおい、よせよ。なんか照れるだろ!!」


 癖っ毛の黒い髪をピンで留めて、少しやんちゃそうな笑顔で話しかけてきたのは夏輝だった

 照れたように自身の癖っ毛を撫でながら私の肩をバシバシ叩いてくる……痛い。


 この貴族だらけの学園で、同じ庶民の出身である夏輝の存在は心の支えだった。

 どこか感覚がずれていて、庶民である私を見下す貴族達から私を庇ってくれたのが夏輝で、その後も意気投合して3年間ずっと分かりあうことができた大事な親友だ。



 「そういえば、夏輝って進路どうしたの??ご両親の稼業継ぐって言ってたっけ。」

 「いや、それ言ったら親に自分のやりたい事をやれって逆に怒られてさぁ……ずっと興味があった職業に就職することになったんだよ。」


 夏輝のご両親は凄腕の魔法道具を作る職人さんだ。

 特に杖の質がいいからとお店はいつも繁盛していると聞く。


 「へぇ~。何の仕事に就くの??」

 「教えられないんだ。秘密の多い職業なんでね」

 「それって大丈夫なの??」



 夏輝は結局なんの仕事に就くのかは教えてくれなかった。

 大勢の生徒達が盛り上がっている方向に目を移すとその中心にはリオールがお得意の愛想笑いを振りまいて会話をしているのが見える。



 「それで、青藍は……あいつのお嫁さんだっけ??」

 「馬鹿言わないで。ぶっ飛ばすわよ」

 「そっか、幸せに……え??違うのか??」

 「なるわけないでしょ。あっちは大貴族。対してこっちは普通中の普通の庶民一家よ。どう考えても断るでしょ」

 「今時、身分とかは関係ないと思うけどな。要は魔法の実力とかだし」

 「なら余計だめでしょ。私は大した魔法は使えないよ」

 「でもさ、青藍って魔力だけは馬鹿みたいに有り余ってるよな……うらやましいぜ」



 私は結局中級の魔法ですら習得できなかった……だか、魔力の量だけは自信がある。

 以前、箒で浮遊し続ける試験では魔力切れを起こす生徒達を横目に1人だけ長時間箒に乗っていることができた。

 先生たちも、「魔力はあるのに、魔法が不得意なんてもったいない……。」と私と一緒にがっかりしていた。



 「で??結局就職先は??」

 「教えられない。見習い中はあんまり他人に言わないでくださいってこの前の打ち合わせで言われたんだよね」

 「なんだよ、青藍も言えないんじゃないか。ということは、あいつにも言ってないわけ??」

 「そうなるね」

 「ふーん。やべっ、リオールがこっち見てるな。じゃ、お互いお仕事頑張ろうぜ!!」

 「うん!!夏輝も元気でね!!」


 てっきり、囲んでいる生徒との会話に夢中になっているかと思っていたリオールはいつの間にかこちらをじっと見ていた。

 その視線から危険を察知した夏輝は軽く挨拶をしてそそくさとその場を離れていく。

 夏輝の背中を見送っていると瞬間移動したかのような速さで私の隣にリオールがやってきた。



 「青藍。彼と何を話していたの??」

 「夏輝には3年間お世話になったからね。それにしばらく会えなくなりそうだからちゃんとお別れをしていたの」

 「そう……。ねぇ、青藍。父上達が僕達の卒業祝いに豪華な食事会を開いてくれるみたいなんだ。明日の夕方だから迎えに行くね。」

 「……隣に住んでるんだからわざわざ迎えなんていらないってば」

 「ううん、僕にエスコートさせて。後で青藍の為に用意したドレスを届けるように言っておいたから、当日はそれを着てね。」

 「はいはい」

 「さて、同級生達との挨拶も済ませたし帰ろうか。」


 リオールは私の肩に腕を回し歩き出すと、甘えるように頭を摺り寄せてきた。

 いつもならここで引き離すが、まぁこれが最後になるだろうしこれぐらいは許してあげよう……。



 ついに明日から念入りに準備した計画を実行する時がやってくる。





 卒業式の次の日の早朝、私は支給された制服に着替え、鞄を背中に背負って準備万端だった。


 私は季節使いになる事にした。

 そうしないと私の進路はリオールとの結婚一択になってしまうから。


 すぐに先生に第一希望だけを書いたプリントを渡すと、嬉しそうに先方へ連絡してくれた。

 残りの学園生活の合間を縫って季節使いについて必死に勉強をしていた。


 季節使いは守秘義務が多い。

 一年間は見習いという扱いなので、家族や他人に仕事中のことは教えてはいけない。

 季節使いという事を家族以外に極力話してはいけない。



 「お父さんとお母さんへの手紙を机の上に置いて……ここなら絶対見つけてくれるよね」


 実を言うと、両親にも季節使い見習いになったことは内緒にしている。

 もしも、知っていたとしたら私が出て行ったあとにリオール側の家族に婚約が関わっているのにどうして言わなかったんだ、と責められる可能性もある……両親に迷惑をかけるわけにはいかない。



 私の担当の季節は”冬”。

 ファーのついた白いローブに裏地はロイヤルブルーの上品な布が使われている。

 タイトな白いワンピースに白いブーツ、とんがり帽子も白でワンポイントにロイヤルブルーの大きなリボンが付いていて可愛らしいデザインだ。

 全身鏡の前に立つと、銀髪の長い髪に青い瞳をした少女が立っている……季節使いの恰好をしていても子供っぽさはまだ抜けていなくてちょっと残念。

 


 そして、季節使いにとって大事な道具――季節水晶。

 この水晶に魔力を込めるとその国に季節を呼び込むことができる。

 鞄にその水晶が入っているのを確認したのは一体何回目だろうか……でも、それぐらい季節使いには大事な物なのでしょうがないよね。



 「そろそろ時間だね。しばらくの間さようなら……みんな元気で。」


 自分の部屋の窓を開けてそこから屋根の上に出ると、ちょうど朝日が少しだけ顔を覗かせている。

 箒にまたがり、ゆっくりと浮上させて目的地へと急ぐ。

 事務所を訪ねて、季節使いの身分証を貰わなければならないのだ。



 帝国の中央にある大きな塔のような建物には魔法に関する全ての機関が集結している。

 建物に入ると早朝にも関わらず、沢山の魔法使いが出入りをしていた。

 エレベーターで60階に上がったところにあるフロアが魔法季節課だ。

 私は奥の方にある課長室のドアをノックして中に入る。


 「おはようございます。課長、私の身分証を頂けますか??」

 「ああ、おはようございます。ついに今日から勤務開始ですね。」

 「はい、頑張ります。それと、わがままを言ってすみませんでした。朝一番で身分証を貰いたいなんて言って。」

 「いいんですよ。ちゃんと事情があるわけですし。……それに、折角ゲットした人材を手放すような真似はしたくありませんからね。はい、こちらが青藍さんの身分証です」


 受け取った身分証には名前と担当の季節、そして季節使いだけの特別なサインがされている。

 これがあれば優先的に入国することができる……これは季節使いの特権と言ってもいいかもしれない。

 

 「ありがとうございます。あの、もしかしたら幼馴染が押しかけてくるかもしれないので適当にあしらっておいてください。」

 「はい、そうしておきます。青藍さんが最初に季節を届ける国はここに書いてありますので箒の上でゆっくり読んでください。では、いってらっしゃい」

 「わかりました。いってきます!!」


 私は課長から地図のようなものを受け取り、わくわくしながらエレベーターが来るのを待っていた。

 1階からようやく60階に来たので早く乗り込もうとしたその時。



 「おはよう、青藍。可愛い恰好をしてどこへ行くの??」

 「……え??」



 扉が開くと、そこには笑った表情のリオールが私を見下ろしていた……いや、目は全く笑っていない。

 私は先ほどのわくわくした気持ちから地獄へと一気に落とされた。


 「えっ……な、なんで、ここにいるの……。」

 「なんだか嫌な予感がして朝に青藍の家を訪ねたんだけど、いなくなったってご両親から聞いたんだ。しかも、置手紙には季節使いになるって書いてあったって言われたから急いでここまで来たんだよ」


 思わず後ずさりすると、リオールはエレベーターから出てきてゆっくりとこちらに近づいてくる。

 まさか、こんなに早く見つかるなんて……!!



 「進路の事について何も言わなくなったから、てっきり僕と婚約してくれると思っていたんだけど……。僕を騙していたんだね。」

 「騙すも何も婚約するとも言ってない!!」

 「こんなことなら無理やりにでも婚約してしまえばよかった……いや、僕の部屋に閉じ込めてしまえばこんなことには……。」

 「リオール……??」

 「うん、そうだよね。まだ、間に合う……青藍、今すぐ戻って婚約しよう。大した準備はできないけど、明日にでも婚姻を結ぶんだ。そしてゆっくり時間をかけて結婚式の準備をしよう??」



 リオールは腕を広げてこちらに近づいてくる。

 捕まったら最後、私の恐れている事態であるリオールとの強制結婚行きになってしまう……!!

 逃げ場が見つからず焦っていると、どこからともなく白い球体が私の足元に転がってきた。

 その球体はいきなりはじけて辺り一面に白い霧が現れる。


 「ああー!!すみません!!霧を閉じ込めた球体を落としてしまいました!!青藍さん、窓を開けてくれますかー」

 「窓……そうか、そこからなら!!」

 「青藍!?どこに行くの……!?」


 課長に言われて、この60階のフロアには大きな窓がある事を思い出してその方へと走る。

 より濃くなった霧によってリオールは私の姿を見失ったらしい。


 廊下にある、天気を見るために設置されている大きな窓へと辿り着く。

 固いレバーをなんとか引いて、大きな窓を開ける。

 開けたことで、濃い霧が窓から逃げ出すように流れていくのを見てから私は手に持っていた箒にまたがる。


 「……青藍!!」

 「さようなら、リオール・ヴィンセント!!貴方には私よりも他に素敵な人がきっといるよ!!私の事は忘れて幸せになって!!」


 遠ざかる大きな窓からこちらを見ているリオールに私は大声で伝える。

 風に煽られながら私はもう一度リオールを見る……何かを喋っているようで口が動いている。

 その口元の形だけで読み取った言葉に私は背筋が凍った。


 彼は恐らくこう言ったのだ。


 ――絶対に逃がさない――



青藍せいらんと、夏輝なつきです。

和名と英名で名付けていこうかと。

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