選択のツートンカラー
「どちらの道にいきますか?」
「は?」
気が付けば俺は灰色の空間の中に立っていた。
ここはどこだ?
目の前には右が黒、左が白に分かれた道が広がっている。
その道の真ん中にはシルクハットを被り、燕尾服を着た男がニコニコしながら立っていた。
妙なのが帽子も服も手袋も靴も、右が黒、左が白のツートンカラーだった。
「あの〜、ここは…夢の中なのかな?」
こんな状況、現実的ではない。俺は夢を見ているらしい。
けど、何で?
今日は久しぶりに高校時代の友人と会う約束をした。
車で待ち合わせの店に向かったが、空いている駐車場を見つけるのに苦労したっけ。
それから店でしこたま飲んで…それで酔いつぶれて寝ているのかな?
で、この状況ってか。
「今から私が質問します。“はい”なら黒の道を、“いいえ”なら白の道を進んでください。正直に選んで下さいね。」
ツートン男は俺の質問には答えず、いきなり説明を始めた。
「はぁ」
俺は訳も分からず気の抜けた返事をするしかなかった。一体何が起きるのだろう。
「さて、質問です。今日はご友人と会いましたね」
俺は黒の道を選択。
「居酒屋へ行きましたね」
これも黒。
何、この質問。
「お酒を飲みましたね」
居酒屋へ行けば飲むでしょ。よって黒。
「ビール中ジョッキ3杯、日本酒3合、ウイスキーダブル2杯を飲みましたね」
確かそれくらい飲んだかな?という事で黒。
いちいち覚えてねぇや。
「なのに車に乗りましたね」
「え…」
心臓が掴まれたかと思った。
「そもそも飲みに行くと分かっていて、車を使う事自体問題なんですけどね。タクシーで帰れば良かったのにねぇ」
そう言いながらも、ニコニコしているツートン男。
―――― 何か変な方向に話が行ってないか? ――――
「あなたはお酒を飲んだにも関わらず、友人が止めるのも聞かず、車の運転をしましたね」
「ちょ…これって何の質問ですか?」
「運転をしましたね?」
「い、いやぁ〜覚えてないですね。ハハハ…」
「私は最初に正直に…と申しましたよね」
さっきまでニコニコ笑っていたツートン男がいきなり無表情になってそう言った。
「ここで本当の事を言えば、楽に……あげたのに…」
「え…何?」
いきなり足元に丸く穴が開いた。
「では、さようなら〜!」
「えっ、まっ」
『待って』という前に、俺は奈落の底へと落ちていった。
嬉しそうに手を振ったツートン男の姿がどんどん小さくなっていく。
【ハッ!】
目を開けると天井の明かりが目に入った。
やっぱり夢だったか。本当に死んだかと思った。変な夢だったな。
それにしてもここは…どこだ?
「明人!」
涙で目が真っ赤になっている母と、目の下にクマができている父がいた。
「母さん…俺…どうしたの?」
「あんた事故に遭って…うぅ…」
さらに泣き始めた母親。
父さんを見ると、何か言いたそうな顔をしながらも、目を合わせようとしない。
左側には点滴がぶら下がっており、管が俺の腕とつながっていた。ここは病院のようだ。
「うっ」
体のあちこちが痛い。
とりあえず俺は助かったのか?
あのツートン男はやっぱり夢だったのか。
トントン
扉をノックする音がした。
「どうぞ…」
神妙な面持ちで父さんが答えると、いかつい顔をしたおっさんと眉毛をしっかり整えた若い男が入ってきた。
俺の傍に来て、黒っぽい手帳のような物を縦に開き、
「警察の者です。あなたはお酒を飲んだ状態で運転され、事故を起こしました。被害者は11人。7人が死亡、4人が重軽傷を負っています。亡くなった方の中にはまだ生後三か月の赤ん坊と小学校に入学したばかりの児童もいました…」
ツートン男の声がこだました。
『ここで本当の事を言えば、楽に逝かせてあげたのに…』
今はSNSで情報がすぐに世界中へ拡散する。
顔写真・個人情報など簡単に特定できてしまう。
そして、それら全てを削除する事は不可能だ。
会社はクビになるだろう。父さんの仕事は大丈夫だろうか。母さんのパートは…
近所にバレるのも時間の問題だ。親戚や友達…これから俺はどうなるんだろう。
夢の中で正直に黒い道に逝っていれば良かったのかな……
◆◇◆◇
場所は灰色の空間の中。道が黒と白、左右に分かれている。
そして、真ん中にツートン男が立っていた。
「おや、次の方がいらっしゃいましたね」
「あなたはどちらの道にいきますか?」
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