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南 遊 記  作者: 原 海象
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第六回 霊耀 分竜会を補佐する

初めまして!原海象と申します。


今回は 中国四大遊記の一冊である神魔小説『南遊記』の六回目を編訳したものを投稿致しました。

なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。

原作は明から清の時代に書かれたとされております。

また本書は別名は「五顕霊官大帝華光天王伝」といいます

第六回 霊耀 分竜会を補佐する


 霊耀が『火部兵馬大元帥』の官位を賜った次の日、顕聖二郎真君けんせいじろうしんくん達は集まって玉帝に奏上致しました。

「今年の五月二十五日、分竜会を起こし、九江・八河・五湖・四海それぞれの竜王殿を集め、分竜会にお越しいただいて雨を降らせていただければ、穀物の苗を救うことが出来ます。今年もその会期がまたやって参りました。願わくば、事前に玉旨を公布していただければ、分竜会においでになる竜王の方々も集まる時機を逸しなくてすみます」

 

それを聞いて、玉帝はすぐに玉旨を伝えると、こうお訊ねになりました。

「一体誰を明輔の職責にすべきであろうか?」

 そこで文武百官達はこのように上奏致しました。

「臣が仕事中に見ていたところ、火部兵馬大元帥こそが明輔の職責にふさわしいでしょう」


 玉帝はその意見により、すぐに霊耀れいように殿上するよう伝えました。霊耀は霊霄殿につくと三拝九拝さんぱいきゅうはいをもって玉帝陛下に拝謁致しました。

玉帝陛下は霊耀れいように玉旨を伝えました。

「朕は卿が忠義に厚く実直で、雄に秀でているのを見てきたが、文武百官達も『卿こそ明輔にすべき』と朕に申している。そこで朕の名代として分竜会を取り仕切って欲しい」


 霊耀はその勅命に感謝御礼して朝廷を出発いたしました。


  話は変わって、東海の老竜王は玉旨を受け取り、分竜会に赴いて雨を治めよとの勅命に、大変悩み嘆いておりました。

「ワシは既に老いぼれの身、どうして分竜会に行くことなど出来よう? もし行ったとしたって、他の竜王達にお辞儀をするにも不自由する。どうしたら良いかのう?」

 

さて彼の息子で鉄頭太子という者が側に控えておりましたが、彼は父の嘆きを聞くとこう申し上げました。

「父上が悩むことはありません。父上はもうお年を召されておりますので無理をしてまで行くことはありません。息子である私が父上に代わって公竜会に行って参ります」


「おお、それはよい。だがしかしお前は部類の酒好きじゃ、分竜会へ行って酒を飲みすぎ、過ちを犯すのではないか? ワシはそれが心配じゃ」


「ならばここで誓いをたてましょう。私がもし酒を飲んで父上のお言葉に違うことがあれば、五体満足でここへ帰ることはないでしょう」


「お前にそれだけの気持ちがあるのならワシも何の心配もない。よいか、もしお前が分竜会へ行って、そこで皆様がお前を『叔父様』あるいは『お兄様』と呼んでも礼儀正しくして、決して無茶をするでないぞ」

 

鉄頭太子は父の厳命を胸に、水晶宮を後に致しました。

 

鉄頭太子は雲に乗り昼夜を問わず進み続けると、ある村を通りがかったときに、ふと一件の酒屋を見つけました。


鉄頭太子が酒屋を見て、父上は私に酒を飲んではならない厳命された。だがしかし、この店の看板の「酒」と書いてあるのを見て、酒が飲みたくてならなくなってしまいました。


(もしここで酒屋に入って酒を飲まねば、公竜会でもっと飲みたくなってしまうだろう)

 そう考えると酒屋に入って店主を呼び、酒を立て続けに何杯も飲み干し代金を支払い店を出ました。


そして幾日がかかり鉄頭太子は天上界の天門に到着し、南天宝得関から会場へ入って他の竜王達と謁見いたしました。そこへ明輔の職に就いた霊耀が広間に上がって腰を下ろし、集まった竜王達へ挨拶を致しました。


「下官は明輔をするように玉旨を受けた霊耀と申します。此度の宴の支度をして皆様をお待ちしておりました。酒宴を行っている間、皆様は軽はずみなことをなさらぬように。また席を離れてむやみに立ち歩いたり、滅多なことをなさらぬように。もしこれに違反する者があれば即刻。南天宝得関から追い出し、その者を降職も辞しません」


 明輔たる霊耀からの挨拶も終わると、先に皆に天上界の美酒が振る舞われ、それから各々の竜王を迎え入れました。竜王達は席に順次座っていきます。

さて鉄頭太子は、「この酒は玉帝から振る舞われた美酒は年に一度しか飲めない有り難い酒だ。やはり幾らかは飲まねばなるまい」

そう考えると、またもや立て続けに酒を数十杯飲み干し、ついにしこたま酔っぱらって周囲の竜王達にくだを巻き始めました。



これを見かねて、霊耀は鉄頭太子を止めに入りました。すると鉄頭太子は霊耀に絡みました。


「今年の明輔殿は不公平だぞ! 毎年私の父上が公竜会に来ると座るのは上座だし、酒だって皆から挙って進められていた。なのに今年私が来たら、座らせるのは末席だし、酒も勧めに来ないで私を待たせるとは一体どういう道理だ?」


 これを聞いて霊耀は、

「毎年この分竜会にいらしてるお父上にこのような態度をとったら、確かにそれは前例に背くことになるだろう。しかし今年は、貴公は初めてお父上の名代としてやってきた。他の竜王殿より末席に座るのが当然じゃないか。


何で俺を不公平だと勝手なことをほざく? 俺は玉帝陛下から勅命をうけた明輔だ。どうしてそんな真似をしなければならないんだ? もう貴公はかなり酔っている。だからそんなことを俺に向かって言うのだろう」と怒って、すぐに鉄頭太子を南天宝得関から追い出しました。


そして霊耀は竜王達に向かって、

「今日のことは貴殿達とは何の関係もないことです。貴殿達はすぐに帰って各々の土地を守るように」と言うと竜王達は皆一斉に承知し、解散いたしました。


さて鉄頭太子の方は霊耀に南天宝得関から追い出され、酔いがさめ慚愧の念に堪えず、水晶宮に戻っても父である老竜王に会おうとはしませんでした。そして体を一揺すりし変化すると、身の丈二丈にもなる大鯉に姿を変じ、揚州にある河で水遊びを始め、河の水を操り波を立てていました。


 しかし突然河から水が退き、鉄頭太子が化けた大鯉は砂州の上に取り残されて身動きがとれませんでした。

そこへ一人の樵夫が柴を刈って帰ろうとしておりました。すると砂州を見ると一匹の大鯉が動くこともかなわず横たわっていました。


これを見て樵夫はすかさず鉈を手にして駆け下りると、集まってきた人たちにも鯉の身を切り分けて持って行かせました。鉄頭太子は背中を割かれて痛くてしょうがありません。涙を流しながらも奮起して正体を現すと、集まっていた百姓達を踏み殺しました。




瀕死の体を引きずりつつ太子は急いで水晶宮へ帰ると、涙で顔中ぬらしながら、泣いて老竜王に訴えました。

「私は父上の命に背き、酒に酔って分竜会を騒がせてしまいました。その為父上に会わせる顔もなく、大鯉に姿を変えて揚州の河で泳いでおりました。しかし突然河の水が引き、砂州に打ち上げられ動くこともままならないでいると、揚州の百姓達に竜肉を切り取られてしまいました。私はこのままではきっと死んでしまうでしょう。もし父上に親子の情がおありなら、どうか私に代わって仇を討って下さい」

 

言い終えると鉄頭太子は死んでしまいました。


息子の死に老竜王は慟哭し、すぐにエビ元帥や丸魚スッポン将軍などの水族将兵を引き連れて、高波を湧き起こして揚州に攻め入りました。その為、揚州の百姓はその水害に遭い、その苦しみは休まる隙もないほどでした。


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