第五回 転生した霊耀、二大妖魔を調伏する
初めまして!原海象と申します。
今回は 中国四大遊記の一冊である神魔小説『南遊記』の五回目を回目を編訳したものを投稿致しました。
なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は明から清の時代に書かれたとされております。
また本書は別名は「五顕霊官大帝華光天王伝」といいます
<南遊記>
第五回 転生した霊耀、二大妖魔を調伏する
話は変わって、玉帝が霊霄殿におわしていると西方の太白金星が上奏して申しました。
「天界から舞い降りた二匹の大妖怪、風精と火精が下界へ逃げ出し、風火二判官と号しております。下界の飛簾洞にひそんで周囲の妖怪どもを集め、人を喰らって満足することがありません。願わくば、速やかに天界の将兵を派遣し取り押さえ、人々を苦しみからお救い下さい」
玉帝はそれを聞いて大いに驚き、すぐに顕聖二郎真君をはじめ梅山六兄弟や天将達を集めて誰を妖怪退治に向かわせるべきか朝議を始めました
玉帝に拝礼をして二郎真君が言うには、
「三眼霊耀という者は、仏弟子なのですが生まれ変わって今は俗世におります。
最近妙楽天尊の弟子となり、その神通は広大です。彼こそ適任でしょう」
さっそく玉帝は霊耀に天兵五千を連れて下界へ降り、二匹の妖怪を捕らえるようにとの玉旨を伝えました
霊耀はこの玉旨を受け、天兵五千を引き連れ師父である妙楽天尊に別れを告げ、霊耀は途中で馬耳山により北極紫微大帝から奪った金鎗を取りに帰りました。
馬耳山の葉王妃は息子が帰ってきたのを見て、うれし泣きをして申しました。
「貴方は何年もどこかへ行ってしまって全然姿を見せなかったけど、今日はどうして馬耳山に帰ってきたのです?」
「不肖私は、母上に期待され、兄上に見守られてきたというのに親不孝の罪を犯しました。霊光は死に兜率宮にて生まれ変わり、今では名を霊耀と申します」
「でも貴方が今こうして帰ってきて、これから一緒にいられることに妾が悩むことはありません」
「母上、私はさらに親不孝なことに、玉帝陛下から勅命を受け下界へ逃げた大妖魔を捕縛に行かなくてはならないのです」
葉王妃は不安を隠しえず息子の心配をした。しかし霊耀は笑い飛ばし言った。
「私が今こうして帰ってきたのは以前北極紫微大帝から奪った金鎗を取りに戻ったからです。もしも大妖魔を調伏できたら、その時は再びここに帰ってくるので母上はお待ち下さい」
これを聞くと葉王妃は金鎗を取ってきて霊耀に渡し、母子は再び別れるのでした。
その頃、風火二判官が飛簾洞において人肉を喰らい酒盛りを開いていると、突然天宮から三眼霊耀が天兵五千を引き連れてこの洞を取り囲んでいるとの知らせが入ってきました。
風火二判官はこれを聞いて大いに怒り、洞中の妖怪達をかき集め飛簾洞を飛び出すと、
「我が洞を騒がす奴は何者だ!」
三眼霊耀は金槍を構えながら言った。
「我が名は三眼霊耀。玉帝陛下の勅命によりお前らを捕縛に来た。大人しく捕縛につけ!」
風火二判官は激怒し妖怪どもを率いて戦が始まりました。
「疾ッ!」
風火二判官が真言を唱えると、その脚の下にそれぞれ風輪・火輪が生じ、それを操って風火二大妖魔は天兵に向かって突撃しました。これに対して霊耀は三昧真火を吐き出して風火二判官を押さえ止めました。
さらに霊耀は金磚を取り出して風火二判官を打ちのめすと、風火二判官は洞中へ逃げ帰り貝のように門を固く閉ざしました。
霊耀が罵声を浴びせても一向に出てきませんでした。そこで霊耀は一計を案じ随従の天将に言いました。
「まず俺は天上界の玉女に変身し、火金丹を二個の仙桃に変えて飛簾洞へ潜り込もう。そして、『私は西王母娘々にお仕えする玉女ですが、下界の方から銅鑼の響く音を聞きまして、ぜひ戦というものを見たくて降りて参りました。でも道に迷って路頭をさまよっていたら風火二判官様の洞を見つけたものでお邪魔いたしました』
それから奴らに『この桃を食べれば、神通力は広大となり、寿命も好きなだけ長生きできる』とか何とか言ってあいつらを騙して火金丹を食わせよう。もしもうまい具合にあいつらが火金丹を食ったら俺が三昧真火を起こして奴らを焼き殺す」
その頃、風火二判官は霊耀に負けて洞へと逃げ込み、妖魔達に洞の門を固く閉めさせ、決して開けないように言いつけました。
そこへ一人の仙女が洞内へ入ってきました。不審に思って風火二判官が訊ねました。
「てめえ何しに来やがった?」
問われて霊耀が化けた玉女は前へ進み出ると先ほど考えた返答を致しました。
風火二判官は仙桃を見ると気をよくし、喜んでこう申しました。
「そんなら俺達と一緒に仙桃を食おうぜ。しかしアンタが食わないなら洞から叩き出すからな」
仕方なく玉女が口先でだけ承知しますと言い、二判官は妖怪に仙桃を持ってこさせ、それを半分に分けて口に放り込みました。すると途端に歯は抜け落ち、腸は煮えくり返りました。
二判官が驚いていると霊耀は正体を現して言いました。
「この馬鹿共め、俺の火金丹を食ったからには五臓六腑は焼けるぞ。さあ降参しやがれ!」
二匹は霊耀が姿を現したのを見てさらに驚いて逃げだそうとしますが、霊耀が真言を唱えると火金丹から業火を放ち二妖は体内から焼かれ、立て続けに悲鳴を上げました。
こうして霊耀は風火二判官を取り押さえ、さらに風輪・火輪の二つの宝貝を手に入れると勝ち鬨をあげ霊霄殿へ帰参しました。
一方天界では玉帝が霊霄殿に昇っていると、霊耀が風火二匹を連れて帰ってきて、これまでのいきさつを上奏致しました。これに玉帝は大変満足し風火二大妖魔を冥土へ送りました。
そして、西方の太白金星はこの功績を称え霊耀に官位を与えるべく上奏致しました。
玉帝は竜顔をほころばせて霊耀を『火部兵馬大元帥』の官位へ封じることにいたしました。
ところが霊耀が謝意の言葉を言い終えない内に、傍らに立っていた九天応元雷声普化天尊の直属の部下である、鄧天君が進み出て申しました。
「霊耀は妖魔を二匹討伐し手柄を立てただけのこと、ここで霊耀を『大元帥』になさっても、臣下の者たちは納得いたしません。そこで私と霊耀が武を競って、もし霊耀が私より勝っていればこの官位を授けてもよろしいでしょう。しかし私の方が優れていれば、彼はこの重役を授けるに値しません」
この言葉を聞いて、玉帝は玉旨によって霊耀と鄧天君に競うように命じました。
二人は玉旨を賜ると朝廷を出て武を競い、戦うこと十合もしないで鄧天君は霊耀から一打を受けました。霊耀は朝廷に帰参し玉帝に謁見し、鄧天君が負けたことを奏上致しました。これに玉帝は大喜びで、すぐに霊耀を『火部兵馬大元帥』の官位へ封じました。