第三回 爆誕! 霊光公子の参戦!!
初めまして!原海象と申します。
今回は 中国四大遊記の一冊である神魔小説『南遊記』の三回目を
編訳したものを投稿致しました。
なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は明から清の時代に書かれたとされております。
また本書は別名は「五顕霊官大帝華光天王伝」といいます
<南遊記>
第三回 爆誕! 霊光公子の参戦!!
馬耳山の王妃 葉夫人は、夜中に霊堂の前で香を焚き亡き夫である馬耳大王の慰霊祭をしていた。
墓前で葉王妃は泣き崩れ、近くの山々を支配する妖怪・妖精等も共に嘆き悲しんでいた。
すると突然、闇夜の天空から赤く輝く一つの五通火が王妃の体に飛び込んできた。
葉王妃は次の瞬間、腹部に鈍い痛みを感じ苦しみながら霊室を出ると一人の三つ目の男の赤ん坊を出産した。
すぐさま葉王妃は息子である三眼比丘公子を呼び出して言った。
「比丘、生まれたこの子も貴方と同じ天眼です。成長した暁には貴方と共に父王の宿敵を討ってくれるでしょう」
葉王妃と比丘公子は期待の男子が生まれたことに喜び、その子に『三眼霊光公子』と名づけた。
その頃、水晶宮の玉座に座り東海竜王敖廣は未だに馬耳大王の宝珠の存在に思い悩んでいた。
「兄者馬耳大王を撃ち殺したというのに何を迷っておられるのです」
南海竜王 敖欽の言葉に東海竜王は苦虫を噛んだ表情で話し出した。
「賢弟よ、我が水族の将兵を総動員しても、馬耳山の三眼比丘公子が守りを強く固めてしまった。その為、我らの挑発に乗らず貝のように固く守城している。波状攻撃で馬耳山を攻めても我が方の損害が大きく将兵を退けるしかなかったため、一時撤退を余儀なくするほかなかった。何としても馬耳大王の宝珠を我らの掌中に入れない限り我らの四海の宝珠は粗悪品と見なされるであろう」
「兄者それに、馬耳山の葉王妃が赤子を生んだとの風の噂を聞く。『兵は拙速を尊ぶ』と言う、ここは早めに馬耳山攻略しなければ馬耳山はより難攻不落の要塞となるぞ」
先ほどから黙っていた西海竜王敖閏は長兄達に言った。
「廣兄者、馬耳大王の葉夫人の正体は三千年の仙狐と聞く、その美貌は傾国の美女と言われている」
長剣を磨いていた末弟の北海竜王敖順その手を止めた。
「兄達、仙狐は矜持が天よりも高く、ましてや天界に参勤し陛下に謁見できる有力な妖魔の王妃ともなればなおさらだろう。そこで葉王妃に対して罵詈雑言を浴びせれば怒り狂い馬耳山から這い出てくるのではないか?そこを捕らえ虜囚にすれば、三眼比丘公子達は自滅すると思うが」
東海竜王は賢弟達の話を聞き敖家の家長として他の竜王とその一族郎党に命令を下した。
「我が眷属たちよ。これより馬耳山の再攻略を開始する」
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そして前線を守らせていた東海竜王の第二太子鉄跡から、馬耳山の葉王妃が子供を産んだとの報告を知ると、東海竜王はすぐに増援の将兵を馬耳山に向かわせました。あの宝珠を手に入れるため、竜王達は蝦や蟹の兵だけではなく揚子江の水妖等の魔物三万を動員し馬耳山を取り囲みました。
東海竜王の第二太子鉄跡太子が先鋒となり、武装した馬耳大王の王妃 葉夫人を見つけると
「夫の馬耳が犬コロのように死んだのに、夫と共に殉死せず、後家となり我らに切り刻まれに出てきたのか」と葉夫人をあざ笑い、罵詈騒音を浴びせました。
それを聞いて王妃は悔し涙を流し、洞天福地・桂花洞にいる比丘公子に心中を話しました。
「以前貴方の父王はあの敖家の一族に殺され、いまだその仇を討っておりません。今思いがけずその敖家の一族、東海竜王の第二太子鉄跡が、貧心を改めずにまたもや水兵を引き連れてこの城へやって来ましたが如何いたしましょう?」
それに対して比丘公子は、
「母上ご心配いりません。故事に、『敵が来ならば立ちはだかれ、水が来ならば土を積め』と申します。私のこの鍛えられた筋肉で今から敵兵を出迎え、鉄跡の首級を取り,父王の墓前に添え父王の敵を討ちましょう」
そう言って葉王妃と別れて比丘公子出兵いたしました。
その頃、霊光公子は生まれてからたった三日で成人に成長し、母親である葉王妃に向かってこう申し上げました。
「私は兄上と竜太子の戦を見に参ります。仮に兄上が鉄跡に負けそうになったら、私が代わりに奴を殺します」
「霊光、そなたは早熟ですがまだ生まれて間もないのです。それに敖家は玉帝陛下の天兵と同様に兵権を持つことが許されている一族。そなたが言うように容易く片がつくものではありません」
「母上、モノには天命というのもがあります。強大な象と言えども、小さな蜂の一刺しで瓦解することがあります」
葉王妃は霊光を必死で引き留めたが、霊光はその言葉に耳を貸さず大小の妖魔共を引連れ比丘のいる戦場へと向かったのでした。
*****
「ぐふっ、ハードトレーニングが裏目にでるとは……」
「はっははは、見せ掛けの筋肉という言葉があるがボディービルダーはまさにそれだな!!」
説明しよう!ボディービルダーはトレーニングのしすぎで大概どっかの筋肉に疲労物質である乳酸がたまり、時には物も持てなくなってしまうのであった!
「さあ、比丘公子、お遊びはここまでだ!死ね!」
比丘公子は絶体絶命となった。
このとき、比丘に従った古参の妖怪達が盾となり鉄跡の攻撃を防いだ。
そのうちの一匹は流血しながら比丘を諌めた。
「若、ここは一先ず桂花洞に撤退すべきです」
「くそ、この筋肉痛がなければこのような小物に遅れをとることがないのだが!」
比丘は悔しそうに残りの十数鬼の妖怪を率いて桂花洞へと何とか逃げ帰って行った。
一方で、これを一部始終見ていた霊光公子は父王伝来の火尖槍を握り締め檄を飛ばした。
「兄上の敗退で4本爪の蛇は調子に乗っている。今ならヤツを倒す機会だ」
しかし、山々を支配する妖物とは違い小物の烏鴉兵は士気が低く逃げ出そうとするものまでいた。霊光は逃げ出そうとした烏鴉兵に火尖槍を突き刺し天眼を開いて威圧した。
「これから鉄跡の陣を攻撃する。逃げ出す輩は我が槍で撃ち殺す」
これを聞いて烏鴉兵は戦々恐々としながらも数百羽が一丸となって竜太子に突撃した。
これが功を奏しいきなりの敵襲に鉄跡の陣形は崩れ大将までの血路が開かれた。
「何奴だ」
竜太子は宝剣七星剣を抜き、襲撃してきた烏鴉兵をなます切りにして襲撃者の大将を探した。
「我こそは馬耳大王の第二子霊光なるぞ。その首貰い受ける」
「東海竜王の第二太子敖鉄跡と知っての狼藉か、はっははは面白い我が宝剣を受けてみろ」
戦い合うこと十合、
霊光が槍で乱撃すると竜太子はそれらを宝剣で受け流し、鉄跡が宝剣を飛ばすと霊光は槍を回転させ跳ね返し霊光と鉄跡の武力は甲乙つけ難く力は拮抗していた。
「疾ッ!」
このままでは埒が明かないと判断した霊光は、釈迦如来から授かった五通術で幻影を4体出し空と地面から攻撃をした。
「はっはは、妖怪の子の術とはこの程度のものか」
鉄跡はそれらをかわし得意満面で霊光達を見た。
しかし、鉄跡は突然、胸元から激痛が走った。
鉄跡は胸に刺さった槍を握り締め後ろを見た。
そこには五通術で透明になっていた霊光が槍を突き刺していたのであった。
「これで貴様は終わりだ。受けてみろ!神仙をも焼き払う三昧真火の力を」
そう言って霊光は五通術で火尖槍の炎を最大限にして鉄跡を焼き殺した。
「敵将 鉄跡! 討ち取ったり!」
霊光は長剣で鉄跡の首級を切り、高々と持ち上げ周囲に宣言した。
「鉄跡様が死んだ!!鉄跡様が死んだ!!」
霊光の周囲を水兵達は恐怖に打ちのめされ、竜王達のいる後陣へと逃げ惑った。
そして、進軍していた後陣では鉄跡の死と共に、東海竜王の息子を打ち殺した哪吒太子の再来と恐れられ兵の士気を維持できなくなり竜王達は水晶宮に撤退するのであった。
一方で比丘公子は桂花洞に逃げ帰り葉王妃に会うなり初戦で鉄跡竜太子に敗退したことを告げた。「比丘、嘆くことはありません。勝敗は時の運とも言います。まずは洞の鉄門を閉め篭城するのです」
そのとき数匹の逃走してきた烏鴉兵がご注進とばかりに進み出た。
「霊光様は比丘様が敗走したのを見るご自分が竜太子を退治すると我々がお諌めしても止まらず出陣してしました」
「あぁぁ、比丘でも倒せなかった者が、霊光が敵うはずがありません。夫のみならず子まで死なすとは……」
葉王妃は烏鴉兵の話を聞き、身も世もないほど泣き崩れました。
しかし、表門が騒がしく何事かと窓から見ると霊光の一軍が帰参してきました。
「霊光、無事でしたか」
「母上様、これをご覧ください」
そう言って数匹の烏鴉兵に運ばせていた鉄跡竜太子の首級を転がした。
これを見た葉王妃はその首級を見て感激して涙を流し
「これも夫の霊が見守って下さったおかげです。あの子達が父王に代わって敵を討ってくれるなんて。不倶戴天の敵がいなくなり、これで私はあの人に顔向けできるわ」
そうして竜の首を墓前に吊し上げ、桂花洞では大小の妖怪・妖精等が鬨の声を上げた。
霊光はこのとき、ひざまずき葉王妃に願いを申し出た。
「母上、お願いが御座います」
この話では竜王軍との戦いが中心ですが霊光が言っている
「4本爪の蛇」とは何ぞや?
と思われた人がいる(多分)と思いますが
これは中華思想で5本爪の竜は皇帝を守護し、4本爪は貴族、3本爪は士族、2本爪は平民、1本爪は卑民を守護するという思想から成り立っております。
唐の時代では、竜は権力の象徴として皇帝の衣服を飾り、また位の高い臣下に竜の刺繍された服が褒美として与えられこれは大変な名誉だったとされております
更に時代が過ぎると竜の刺繍がされている服が出回り、小さい竜の刺繍だと問題ないですが服全体に刺繍された竜は不敬罪とされたそうです。
更に後年になると 『五爪二角』 すなわち五本の爪を持ち頭に2本の角を生やした竜が皇帝専用の文様とされました。
明の時代になると五爪二角の竜が皇帝の服として定着し、臣下たちは皇帝の竜から爪を一本減らした四爪の竜服が皇帝から賜るようになります。四爪の竜を蠎とも呼ばれております。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。