第二十二回 華光 地獄をさわがす
初めまして!原海象と申します。
今回は 中国四大遊記の一冊である神魔小説『南遊記』の二十二回目を編訳したものを投稿致しました。
なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は明から清の時代に書かれたとされております。
また本書は別名は「五顕霊官大帝華光天王伝」といいます。
<南遊記>
第二十二回 華光 地獄をさわがす
さて華光は陰司(地獄)へやって来ると、手に白蛇鎗を携え、十八重地獄を見て回りました。
それから金銭山・銀銭山・破銭山・消銭山などを見物し、
また善人や悪人が通る金橋・銀橋・乱柴橋・奈河橋を見て歩きました。
華光が思うに、金橋と銀橋は通ったことがないし、乱柴橋も俺が使ったことのない橋だ。
ここは奈何橋を通っていって、俺の母上が通ったかどうか調べよう。
というのも死者の霊魂は冥途のに至りつくまで四十九日の中有(ちゅうう
)の道を歩き。冥府にて照魔鏡で生前の善悪を照らし出され、獄囚(地獄の罪人)となったら、その取扱いに関し『獄令』と『断獄律』に規定に基づき,薦席衣食は冥官より支給され,盂蘭盆会のときは現世の家人の元へ戻ることが許さます。
しかし、獄卒(下級の鬼や冥官)の横流しが横行し、獄卒達の違法行為を取り締まる弾正台官人が巡検することとなっておりましたが,賄賂が横行し紙銭等を焚ない家人の獄囚らは劣悪な条件下に置かれているのでした。
そこへ陰司(地獄)の渡し守が近づいてきて、華光に訊ねました。
「お前さんは一体だれだい?」
華光威張りながら言いました。
「俺は華光天王様だ。ちょっと聞くが、俺の母上がここを通らなかったか?」
「わしはここで毎日何千人何万人という霊魂が行き来するのを見てるんだ。
どれがお前さんの母親か分かるもんか」
華光は合点がいき言いました
「母上の本名は簫太婆、又の名を吉芝陀聖母っていうのが俺の母上さ」
「簫太婆なら渡し賃代,六道銭がなく泣きながら通っていったが、吉芝陀聖母は見てないな」
「簫太婆が吉芝陀聖母で、吉芝陀聖母が簫太婆なんだよ」
「それじゃあ二人になっちまう」
「いいや、併せて一人なんだ」
二人は言い争い、ついに華光は怒って渡し守めがけて金磚を投げつけました。
渡し守は慌てて逃げ出し、大声で「華光天王が地獄をあらしに来たぞ!」と叫ぶのでした。
渡し守は閻魔王にもこのことを知らせに行きました。
閻魔王が殿中におりますと、冥官が渡し守の申し出を伝えにまいりました。
「華光天王様が陰司(地獄)を騒がしにまいったとのことです」
閻魔王は冥官達に訊ねて、
「華光天王殿がここにやってきたのは何故じゃ?」
判官曰く、
「きっと故あってのことでございましょう。天王様がやってきたら礼を以て尽くすべきです」
判官の話が終わるかというところで、華光が殿中にやってまいりました。
閻魔王がさっそく挨拶を交わし、上席を勧めて申します。
「華光天王様の御高名は伺っておりましたとも。
ところで、今日このようなところまでお越しになられたのは、一体何故でございます?」
華光は東岳聖帝に言われ陰司(地獄)来た理由と言いました。
「俺がここに来た理由は他でもない。俺の母上で簫太婆、またの名を吉芝陀聖母というものが竜瑞王に捉えられてからというもの行方が知れず、もしや死んで貴殿の元へ来ているのではと思ったのだ。
敢えておたずねするが、簫太婆はここに来てはいないか?」
閻魔王はこの質問を冥官に伝えました。
するとすぐに判官は冥府の閻魔帳簿を出して調べますと、
「閻魔帳簿を調べてみましたところ、簫太婆は来ておりますが吉芝陀聖母はまだ来ていないようですね」
閻魔王は判官から閻魔帳簿を貰い再度確認して華光に言いました。
「華光天王様、簫太婆は来ましたが吉芝陀聖母は来ていないそうです」
華光は焦りながら言いました。
「簫太婆と吉芝陀聖母、併せて一人だ」
「それじゃあお二人じゃないですか」
華光は怒って、
「なんでこっちが一人と言っているのを二人と言という」
そこへ判官が閻魔王へ申しました。
「天王様がどうしても信じないと言うのなら、死者の霊魂を集める引魂使者に簫太婆の魂を十殿門まで連れてこさせ、天王様自身に判断させれば白黒はっきり致します」
これを聞いた閻魔王はさっそく引魂使者に命じて簫太婆の魂を閻魔王の元まで連れてこさせました。
閻魔王は華光に言いました。
「天王様、もしあなたが信じないとおっしゃるのでしたらご自分でご覧下さい。
そうすれば全ては明白になりましょう」
華光は太婆の霊を見ると訊ねました。
「お前は誰だ?」
婦人の霊魂は言いました。
「私が簫太婆です」
華光は怒って「簫太婆は俺の母上だぞ、見間違えるものか! なんで『自分が簫太婆だ』などとホラを吹くんだ?!」
婦人の霊魂は泣きながら、
「私こそが正真正銘の簫太婆です。簫長者には跡継ぎがいなかったため、私が毎晩裏庭で嗣子が生まれるようにとお祈りをしていたのです。
そんなある夜、一匹の火取蛾がやってきて灯火をうち消し、正体を現しましたところ、その蛾こそが吉芝陀聖母だったのです。
私は吉芝陀聖母に食べられ、骨は埋葬されることなく山奥に捨てられました。
そして吉芝陀聖母は私に化けると、簫家の夫人として受胎したのです。
私の身は死して既に幽冥にあり、おまけに無実の罪を着せられてしまいました」
話し終えると、簫太婆の魂はわっと泣き出しました。
華光はそれを見て、互いに堅く抱き合いながら声を放って泣いたのでした。
華光は泣きながら言いました。
「あなたもまた私の母だったとは!一体どうしたらよいのでしょう?」
簫太婆は華光に嘆願するように言いました。
「息子や、どうか閻魔王様に私をどこかの家に投胎させて下さるようお願い申し上げて下さい。もう十傷門の下で私が言い難いほどの苦しみを受けないようにと……」
「母上、もう心配することはございません。すぐに閻魔王にお願いしますからお待ち下さい」
それを聞いた閻魔王、
「分かりました、天王様おまかせ下さい」
華光は閻魔王に拝謝すると、母上に別れを告げ、現世へと帰っていきました。
閻魔王様は約束通り、さっそく簫太婆を現世の朝廷の家臣、桔尚書の家に投胎させました。




