第二回 独火大王、釈迦如来の法会を騒がす
初めまして!原海象と申します。
今回は 中国四大遊記の一冊である神魔小説『南遊記』の二回目を
編訳したものを投稿致しました。
なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は明から清の時代に書かれたとされております。
また本書は別名は「五顕霊官大帝華光天王伝」といいます
<南遊記>
第二回 独火大王、釈迦如来の法会を騒がす。
釈迦如来の居寺である霊鷲山の後ろに一つの洞がありこの洞には独火大王という妖魔が住んでいた。
独火大王は金の玉座に座りながら寿命を千年延ばすという霊酒を舐めるように飲み思案していた。
その昔、釈迦は雪山修行のためにこの俺様の霊鷲山に居座だした。
ここの山々の花鳥風月、清水は遥々といった具合に静閑さが良い霊山だ。
その為俺様以外の輩がいては霊穴を受けて不老長寿になれない。
しかし俺は釈迦から経文の真髄を教える代わりにこの霊鷲山を1年間住まわせてやると約定を結んだ。そして一年経ち釈迦の寺を訪ねると、釈迦は俺様が十年ここを貸したとぬかしやがった。俺様は怒り心頭になり約定書を見せるように言うと、そこには一ではなく十と書かれていた。仕方なく俺様は釈迦にこの霊鷲山を十年間住ませてやった。
十年経って再び釈迦の寺を訪ねると、今度は俺様が十年でなく千年住ませてやると言いやがった。 またも怒って約定書を出させると、そこにはやはり千という文字があるのだ。
本当ならここで得物をもって撃ち殺すべきだったが、釈迦の仏法は広大で俺様は釈迦に従うしかなかった。
そして千年も経ったこの霊山は栄え、今では釈迦は偉そうに十大弟子と経を講じ、法を説いやがる。釈迦の仏門の経文は、百匹の虫がいたとしてもその経文を唱えれば何処かへと去らせ、
また畜生道から生まれ変わって人間にすることが出来るという。
釈迦達は朝夕の講釈が終わると経を捲いて食事をするらしい。
俺様が今から講釈を聞きに行って、快く応対するならよし。
しかし扱いが無礼であれば、俺様はすぐさま暴れて身中の真火を放ち、寺を焼いてしまおう。
独火大王はそうと決めると残りの霊酒を一気に煽り得物をもって釈迦のいる寺に向かった。
その頃、釈迦如来は500名の弟子達に法会を開いて、弟子たちと共に法堂で経を講じていた。
経文があと数句のみという時、独火大王が法堂の前に着き、如来に会うと深々とお辞儀をした。
如来は席を立って大王に一礼し、大王に上座に座るよう薦めながら訊ねた。
「大王殿、今日はどうしてこのようなところにいらっしゃったのですか?」
「なに、如来様がよく斎をお布施なさるとうかがいまして。
如来様の経の講釈を聞き、この寺の精進料理をお相伴に預かろうと思った次第です」
如来はそれを聞いてすぐに弟子の一人に、用意してある粟飯を出してねんごろに大王をもてなすよう命じた。
しかし徒弟の一人は釈迦如来に言いました。
「師父、本日の宴席の用意はすでに出来上がっております、今更余りなどありません。
ここは大王様にはまた明日早くにお越し直していただきましょう。
そうすればその時はもう一席設けてお待ちしておりますから」
如来はこの言葉をそっくりそのまま大王に伝えると、大王は怒り狂って、傍らに人の座っていない席があるのを見つけると
「俺がすでにこの寺にきて食事をしに来たというのに、お前らは俺様に食うものがないというが、やっぱり俺様の読みは正しかった」
そう言って、この妖魔は空いている席に問答無用とばかりに座り込み、お膳に盛られた粟飯や豆腐等の精進料理を喰らいだした。
そのとき釈迦如来の眷属である八大童子の一柱、孔雀童子がお茶を取って戻ってくると
釈迦如来や金剛羅漢たちは自分をおいて、すでに食事を始めていました。
孔雀童子も食事にしようと自分の席を見ると、孔雀童子の席には独火大王が座っており
孔雀童子の料理を食い散らかしていた。
これを見た孔雀童子たいそう怒りだし、独火大王に詰め寄った。
「妖魔の分際で私の席に座り、何を私の料理を食っているんだ!」
怒り心頭の孔雀童子は思わず手にしていた熱いお茶を大王の顔に浴びせた。
独火大王はこの仕打ちに怒り狂い、口から三界を焼き払うという五斗火を吹き出して
孔雀童子をその場で焼き払い、周りにいた羅漢達にも五斗火を浴びせ寺は火の海となり周りからは悲鳴が上がりだしました。
五斗火は、五行の力で呼び出した真火である故か、竜王らが天帝の命なく降らせた凡水で消すことは出来ず、逆に勢いを増す性質を持っており、完全に消す力を持つのは観音菩薩の持つ浄瓶の甘露のみでした。
その為、如来は慌てて独火大王をなだめた。
「孔雀童子はまだ子供です。貧道の顔を立てると思ってこの場を収めてください」
しかし独火大王はその言葉も聞かず、ひたすら炎を吐き続けた。
釈迦如来は急いで清涼呪を唱え法堂を冷やし、さらに観音菩薩は手に持っていた瓶の甘露水によって燃える孔雀童子を助け出した。
その様子を見ていた独火大王は余計に面白くなく、今度は霊山に向けて五斗火を放った。
幸い如来が慧眼をもってそれに気づき、素早く経文を唱えると空から五百条の水流が吹き出し雲霧が湧き起ち、霊山を覆ったので炎が起きなくなりました。
独火大王は火が生じないのを見て、大変に怒り 寺にいる善男善女を頭から貪り喰らっていると、生意気そうな童子が一人現れました。
童子は妙吉祥菩薩であると名乗りをあげた。
「やい妖魔、貧道は慈悲深い仏門の師弟だから、今回のことは大目に見てやる。
早々に立ち去るがいい」
「なんだと! 俺様はまだ憂さを晴らしていないんだ。貴様のような輩こそ我が五斗火で焼き殺してくれる」
妙吉祥菩薩は妖魔の戯言に爆笑して貧道の服の袖でも燃やしてみろと妖魔を挑発しました。
独火大王はこの言葉に怒って五斗火を放ちましたが、妙吉祥菩薩は身じろぎもせずに笑ていました。
「お前のような妖怪に、なんで貧道を焼き殺せよう? 貧道は釈迦堂のランプの精で、夜毎に書物を煌々と照らし、経の講釈と問答を聞きながら、数十却の年月を得て燃えかすを積み重ね、師父の唱えた経文によって、人身となったのだ。
その為、貧道は火の化身であり、火の精を持ち、火を聞き、火を起こすことが出来る。
そんな貧道をなんでお前ごときが焼き殺せるか。 もし貴様のような奴がこれ以上我が霊山を荒らそうとするならもう好き勝手にはさせないぞ。貧道の神仙をも焼き払う三昧真火で貴様は逃れられるわけはないぞ」
このやり取りを釈迦如来はその慧眼で察知し、慌てて妙吉祥菩薩を引き留めようとした。
しかし時すでに遅く、独火大王は妙吉祥の三昧真火によって焼き殺されてしまいました。
これを知った釈迦如来は大いに怒り、大声で妙吉祥菩薩を呼ぶとその仏手に捕まえ責め立てた。
「この畜生が!何故仏門の戒律を破ったりしたのだ? 彼が大悪人だとしても、貧道も汝も出家人として大慈大悲の心で接するべきなのに、何故焼き殺したりした? 汝を破門とし陰山に追放するからそこで罰を受けろ!」
妙吉祥菩薩は泣いて許しを請いましたが釈迦如来は聞き入れません。
そこに、傍らで聞いていた観音菩薩が妙吉祥菩薩を哀れみ如来に進言をした。
「妙吉祥は罪あるといえども、この霊山の弟子なれば、陰山に落とすことは出来ますまい。
先頃馬耳山大王がまだ生きていたとき、彼は普陀山の私の寺に祈祷しておりました。
それによれば彼の妻がただ今妊娠中とのこと、ここは彼女の胎内に妙吉祥を投じた方がよろしいでしょう。
そして時満ちて彼の罪が清算されたら、また復門なさればよろしいでしょう」
釈迦如来はそれを聞くと、観音菩薩の言うとおり妙吉祥を下界へ送ろうといたしました。
しかし妙吉祥菩薩は涙ながらに訴え、
「お師父様のご命令なら、貧道は下界へ下りましょう。しかし神通力を失い、人に欺かれたり、負けたりするのが恐ろしくてしょうがありません」
これを聞いた如来は哀れみの心を持ち経文を唱えて、妙吉祥に言った。
「では貧道は汝に『五通術』を授けよう。
まず一つは天に通じ、空を自由に行き来できるようになる。二つ目は地に通じ、地面を自在に裂くことが出来る。三つ目は風に通じ、風の中では姿を消せる。四つには水に通じ、水中も自在に行ける。最後は火に通じ、炎を自在に操ることが出来る」
さらに釈迦如来は妙吉祥菩薩の額に指を当て、
「お前に天眼を授けてやろう、これを使えば三界を見渡すことが出来るぞ」
そうして釈迦如来は観音菩薩を呼ぶと、妙吉祥を下界の葉夫人の元へと送らせた。
神魔小説の「南遊記」は如何でしたでしょうか?
(補 足 説 明)
釈迦如来のペテンは最初「一」を書いて、大王が来たときに縦棒「1」を引いて、
さらに10年にし、10年経ったら十の上にはねるをつけて「千」にしています。
いいのか!釈迦如来それは詐欺ではないかww
ここに出てくる「宝貝」とは封神演義に出てきたスーパーウェポンの総称です。
仙人になると食欲・性欲・睡眠欲は無くなるのですが人を殺したいという衝動(殺戒)に駆られ、
仙人達は自分の洞窟や寺、観で数百年の時をかけて兵器を作り出すそうです