第十四回 華光 妖魔を調伏し、地獄の霊魂を成仏させる。
初めまして!原海象と申します。
今回は 中国四大遊記の一冊である神魔小説『南遊記』の十四回目を編訳したものを投稿致しました。
なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は明から清の時代に書かれたとされております。
また本書は別名は「五顕霊官大帝華光天王伝」といいます。
<南遊記>
第十四回 華光 妖魔を調伏し 地獄の霊魂を成仏させる。
さて華光が空中から于田国で無病息災・延命長寿を祈祷する儀式である天曹地府祭の様子を探ったあと、雲に乗って帰ろうとしたその時、号泣する声が聞こえてまいりました。
雲を止め、よく聞くとなんとその泣き声は瓊妹の声そっくりです。
驚いて下へ降りて見てみると、果たしてそれは妹の瓊娘でした。
華光は近づいて瓊娘に訊ねました。「お前はどうしてこんなところにいる?」
声の主に驚き、それが華光だと知ると瓊娘は大喜びして華光に言いました。
「華光兄様、帰らないで! 実はおととい一人の行脚僧が私たちの家に托鉢しに来たの。
そしたらお母様がその行脚僧にさらわれちゃったの。私はしばらくこの辺りを探し母上の行方を捜していたのだけど、道を見失って戻ろうとしたら余計に道を間違えてしまったの。
そうしたらこの家の人たちが私を騙して、ここまで連れてきて閉じこめたのです。これから私のことをどうする気かはわかりません。お兄様、どうか私を家に帰して下ささい。そしてお母様を捜しに行ってください!」
華光はこれを聞いて言いました。
「よし、まず先にお前を家に送ってやる。そしてその後で俺はお前に変化し、その二人がここに戻ってくるのを待って、どういう魂胆か確かめてから母上を捜しに行こうではないか」
華光は祥雲に乗り、瓊娘を家まで送りました。そして戻ると自分は身を一揺すりして、瓊娘の姿に変化しました。ちょうど、そこへ二人の社頭たちが戻ってきて不平不満を言っておりました。
張一郎は焦りながら李進に言いました。
「童女の方はもういるから良いが、童男がおらん。明日は祭りだというのに、どうしたものか」
李進も思案に暮れて言いました。
「童男をどこで捕まえる? お前は息子がいないし、俺にもいない。どうしようもないさ。明日はあの童女だけ廟の中へ連れていって烏龍大王様へ差し出そう。
そして大王様にこう嘆願するしかない。
『もし私たち二人に息子がおりましたら一人連れてきたのですが、私たちどちらも息子はおりませんので、ただ童女だけ連れてまいりました。どうかお許し下さいませ』
……ってな。それで大王様が許してくれるかどうかを見て、もし許してくれなかったら、またその時相談しようや」
張一郎もその案に賛同しました。
次の日のことです。祭主が線香を用意し紙銭を燃やし、束縛れた童女を連れてきますと、烏龍廟の中へ入れて三牲(牛・羊・豚)と季節の果物と共に生贄に差し出されました。
華光はこれを見て大変驚きました。
俺は何で妹が捕まっていたか知らなかったが、俺様の支配領域でとんでもないことが起きているぞ。とりあえず、生贄になって廟の中に入り、この烏龍大王とやらの妖怪が俺様をどうするか見てみよう。
もし俺に逆らうようなら。すぐにそいつをぶっ殺して、それから母上を捜しに行くか
社頭たちは華光の束縛を解きますと、今度は廟の中へ閉じこめてお祈りをいたしました。それが終わると廟の外へ出て、それぞれこれから生贄にかかる不幸を憐れみ、生贄の悲痛な鳴き声を聞きたくないので村人達はその場を去っていきました。
しばらくすると一陣の怪風が起こり、突然一匹の妖怪が現れました。その頭は中央部が膨らんだ円筒形に似て、口は血塗れ、そり上がった牙に剥き出しの歯でした。
この妖怪が腕を伸ばして来し今にも華光を喰らおうとしておりました。
そこで華光は本性を現し、手に降魔鎗、白蛇槍を握ると烏龍大王に立ち向かっていきました。
この愚かな烏龍大王は一合も戦わずに、その白蛇のように光り輝く槍先を見て、もう逃げることは出来ないと悟り、地面にひれ伏してそのまま華光に捕まりました。
烏龍大王は命乞いを致し、それを聞いて華光、
「もし俺様に助けて欲しいなら、お前は邪を改め正に帰して、そして俺の団子を食うんだ」
烏龍大王曰く、
「どうか華光天王様のお団子を食べて、華光天王様の配下の末席に加えてください」
これを聞いて華光は火金丹を一つ取り出すと、真言を唱え団子にして烏龍大王はそれを食べました。
それを見た華光天王は烏龍大王に脅すように命じました。
「お前がたった今喰ったのは、俺の火金丹で作った団子だ。もしこれからお前が俺様に逆らえば、その火金丹がたちまちお前を腹の中から焼き尽くすぞ」
烏龍大王が恐れをなすと華光は大王に言いつけました。
「お前はもう俺の配下だ。今夜村中の民の夢枕に立って『これからはもう生贄はいらん。三牲(神に供える生贄)と甘酒だけを用いよ』って告げるんだぞ。俺はここを離れて母上を捜しに行くからな」
言い終えると華光は烏龍大王の元を去りました。
*****
さて華光が離婁山へ戻ると、千里眼と順風耳に訊ねました。
「俺の母上が行脚僧、そいつに連れ去られた。どこにいるかわからんか?」
これを聞いて千里眼が、
「奥様は行脚僧に変身した竜瑞王に連れ去られました。しかし奴はどんな術を使ったのか、私にはどこに連れて行かれたのか見えないのです」
また順風耳は、
「私にもどこに連れて行かれたのか聞き取れませんでした」
華光はため息をつき落胆を隠しきれませんでした。
「お前たちは口をそろえて見えないと言うし、聞こえないと言う。どうすれば母上を探せよう!」
そこで千里眼と順風耳が申しました。
「竜瑞王はきっと冥土に連れていったに決まっております。天王様がもし母君が本当に冥土に落とされたかどうか知りたいのでしたら方法があります。
まず冥界で弱者救済をする太乙救苦天尊猊下に化けて、仏をまつり仏の教えを説く道場を建て、経文を講じ説法を説きます。すると、あちこちから浮かばれない魂やら行き場のない霊やらを一堂に集め釈迦如来様の経文を聞かせます。それで天王様が霊魂に問いただせば、きっと詳しいことが分かります」
華光はそれを聞き、次の日、早速華光寺の中で呪文を唱えると太乙救苦天尊猊下に化け、道場を建てて経を講じ、説法を説いたのです。すると三界中をさまよる魂や霊らが集まりました。華光天王は、元々は仏弟子でしたので霊験あらたかな経文の一つや二つは知っていました。
そこで釈迦如来の秘経、大日経・金剛頂経・蘇悉地経を講じ説法を終え、霊魂たちに訊ねました。
「簫家荘に簫奥様という方がいらっしゃるか、お前たち見なかったか?」
しかし皆口を揃えて、知らないと言うばかりでした。
華光天王は思うに、竜瑞王は簫夫人を連れ去って、ここには来ていないようでした。仕方がないので霊魂に斎(精進料理)を食べさせる頃になると霊魂は成仏し、それぞれちりぢり去っていきました。




