第十三回 華光 瓊娘を七難八苦から救う
初めまして!原海象と申します。
今回は 中国四大遊記の一冊である神魔小説『南遊記』の十三回目を編訳したものを投稿致しました。
なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は明から清の時代に書かれたとされております。
また本書は別名は「五顕霊官大帝華光天王伝」といいます。
<南遊記>
第十三回 華光、瓊娘を七難八苦から救う
簫長者は子供を授かり喜びしながら息子や娘に言いました。
「今日は大宴会を開くからお前たち兄妹六人一緒に出なさい、親戚たちと顔合わせしよう」
しかし四人の息子たちはこのように申し上げました。
「末弟の顕徳と妹は、ここで父上母上のお世話をいたします。私共四人は修行の旅に出ようと思います。功績と徳行が充分になりましたら、お二人を連れして共に西方の仏を拝みに行きましょう」
これを聞いて簫長者と范夫人は和尚の予言のとおりになったことを悟り、
「既にそう決めているのなら、私たちも留めはしない。お前たち兄弟はとても親孝行だ。私たちも心配しないですむ」
こうして四人は両親に拝礼をして別れ、華光と妹だけは家に残り、兄妹は両親を大事に扱いました。簫長者はこの上なく喜び、多くの客人を招いて大宴席を並べました。
さて吉芝陀聖母は華光たち兄妹六人を生んでからというもの、それまでよりさらに邪念が惨く(むご)、毎日簫家荘の人を貪り喰らっておりました。
小作料を払ってくれている顔見知りの小作人でも、取引をしている商人でもかまわず、逞しい若者・美女や童男・童女を選んで食べる等の毎日を送っておりました。
ある日、ちょうど竜瑞王が雲に乗って、盂蘭盆会の為に如来のいる霊山へご挨拶に行こうとしているときのことです。竜瑞王は雲の上から吉芝陀聖母が簫家荘で人を食っているのを見て怒りました。
「この畜生が! 邪心を改めず煩悩のままに悪事を働き、今また下界の簫家荘で人々を喰い、万民に害を及ぼしおって! よし、ここは私が行脚僧に姿を変えて、簫家荘に托鉢しに行こう。するとあの畜生はきっと私を食べようとするだろう、その時は本性を現してあの畜生を捕まえ、新安郡に投げ込んで、この厄災を取り除いてしまおう」
言い終えると竜瑞王は雲から降りて、すぐに行脚僧へと姿を変えると、行くこと一里、簫家荘に着き、木魚を叩いて托鉢を乞うのでした。
木魚の音を聞いてその様子を門から見ていた近習の小僧は、このことを知らせに奥の部屋へと向かいました。范夫人が奥の部屋で座っていると、近習の小僧が戻ってきてこう申し上げます。
「門前に一人の行脚僧が来て、我が家に托鉢を乞うております」
范夫人はこれを聞いて、昔唐僧の肉を喰えば寿命が延びると聞いている。それなら功徳を積んだ行脚僧も食べれば寿命が延びるはずと密かに喜び、すでにその行脚僧を食べることを考えるのでした。
そこですぐに小僧にその行脚僧に入ってきていただくよう言いつけました。
小僧は指示を受け
「奥様が中でお待ちです。行脚僧様どうぞ当家にお入りください」と行脚僧に言いました。
行脚僧はすぐに小僧と范夫人が会いに行き、夫人のすぐ近くで深々と挨拶をいたします。
夫人も礼を返し、近習の小僧に斎(精進料理)の準備をしてねんごろにおもてなしをするよう命じました。
小僧が出ていくと、范夫人はこの行脚僧をやぶにらみに一瞥し、行脚僧が非凡な人物であるのを見て、早速行脚僧を食べようといたしました。行脚僧は夫人が不届きな心を起こしたのを見ると、すかさず神通を起こして本性を現し、前に躍り出て范夫人を引っ捕らえました。
范夫人は逃げようとしましたが及ばず、竜瑞王によって雲の上に捉えられ、やっと解放されたかと思うと新安郡に投げ込まれたのです。
さらに龍瑞王は神通を顕わすと遮鏡という宝貝を用いて天王の眷属である千里眼の目を遮り、千里のことが見えないようにし、また宝貝、鉄宝丸を二つ用いて順風耳の耳を塞ぎ、千里のことを聞こえなくさせてしまいました。
これで竜瑞王は手筈を整え、元通り禅壇へと向かいました。
さて近習の小僧が斎の準備を整えて戻ると、范夫人も行脚僧の姿も見えません。
小僧は焦り声高に呼んでみても、やはり誰もいませんでした。
この日は簫長者が家におりませんでしたので、瓊娘が出てきて事情を訊ねました。小僧は行脚僧が托鉢しに来たことを一通り説明いたします。これを聞いて瓊娘は、きっとその行脚僧が母上をさらったに違いないと思い。泣きながら母上を捜しに出かけました。
道中泣きながら母上を捜しますが見当たりません。右往左往し、ひっきりなしに泣き叫ぶこと、あたかも「慈烏 母親を失うが如し」で、聞く人の胸を痛ませるのでした。そうして瓊娘がやって来たのは、西郷村という村でした。
この西郷村に、張一郎と李進という男がおりました。彼らは今年当番が回ってきて社頭を務めており二人で奇祭の祭主をしておりました。
この奇祭と申しますのも、ここいらを縄張りにする烏龍大王という妖怪がおり、毎年童男と童女の生贄を供えれば村は一年中村が無事であるように守ってくれるのですが、もし生贄を出さないと一年中村には災いが及び、更に疫病や瘴気が広まるようにしてしまうのです。もし童男童女の生贄を差し出すときは、紙銭を焼き、祭主が退きますと烏龍大王が現れ、生贄を骨も残さず喰らって行ってしまうのでした。
二人は今年社頭の当番が回ってきましたが、生贄に出来る子供が村には一人もおらず、
どうしたものか考えあぐねておりました。
丁度そんなとき、瓊娘が泣きながら声を張り上げて母上を捜しにやって来ました。二人はそれを見てたちまち胸中に邪心が起こりましたが、表にはそれと出さず瓊娘に訊ねました。
「お嬢ちゃんのお母さんはどこの家の人だね?」
瓊娘は泣きながら答えました。
「私のお母様の姓は范というの。私は幼い頃からお母様のお部屋やお庭から出たことがないから、私の家がどこかは知らないの。
今朝私のおうちに一人のお坊さんが托鉢に来たので、お母様がお斎の支度をさせたの。
でも召使いがお斎の支度をしている間に、そのお坊さんがお母様を連れていってしまったのよ。それで私はすぐに追いかけたけど、ちっとも跡が見えないの。ねえ、皆様は私のお母様を見なかった?」
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「私の家は前の方にある簫家荘という村で、私は簫長者の娘の瓊娘といいます」
「お父さんはどちらにお出でだい?」
「お父様はまだ村に戻らないわ」
これを聞いて二人はこそこそと相談し、瓊娘に嘘を吹き込みました。
「お前があの村の簫永富の娘なら、お前はわしの娘の子だね。わしはお前の外公(母方の祖父)さ。あそこにいるのはわしの弟だから、お前は大叔父様と呼ばなきゃならん。
もう泣くのはおよし。お前の母親はあの破戒僧に捕まってここを通りかかったが、丁度たった今わしら兄弟が見つけて、破戒僧はわしらにやられて逃げていったよ。
お前の母さんはちゃんと助けて今はわしの家にいる。お前はわしの孫なんだから、すぐに母さんに会わせてあげよう」
瓊娘は二人が嘘を付いているとは気づきませんから、全て信じて、二人に騙されて付いて行き。二人に家の中へと連れて来られ、とうとう空き部屋に閉じこめられてしまいました。
二人は大喜びで
「これで童女は一人確保できた、あとは童男さえまた探しに行けば、祭りの日は完璧だ!」
瓊娘は社頭たちに騙されて家までやって来て、部屋に閉じこめられてしまいました。母親にも会えず、またこれでは自分の家に帰れません。不安と悲しみで声を張り上げて泣き続けました。




