第十二回 吉芝陀聖母、仏法に帰依した蕭長者の絶倫さに妊娠する
初めまして!原海象と申します。
今回は 中国四大遊記の一冊である神魔小説『南遊記』の十二回目を編訳したものを投稿致しました。
なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は明から清の時代に書かれたとされております。
また本書は別名は「五顕霊官大帝華光天王伝」といいます。
<南遊記>
第十二回 吉芝陀聖母、仏法に帰依した蕭長者の絶倫さに妊娠する
さて華光に戒めを解かれ下界に逃げた吉芝陀聖母は考えていました。
「妾はあの日まで金睛百眼鬼と一緒に、北極駆邪院の梭婆鏡によって封印されておった。だが華光が天宮を騒がし金鎗太子を追いかけよった。金鎗皇太子は北極駆邪院へ逃げ込み、梭婆鏡の後ろへ隠れたので、華光が金磚で梭婆鏡を撃ち破ったのじゃ。おかげで妾と金睛百眼鬼は脱出できたが、下界に降りた際に金睛百眼鬼を見失い何処に行きよったか……
妾は今雲の端から南京微州府二源県は簫家荘を眺めておるが、ここの簫永富という長者がおるが。こやつの妻の范夫人は毎夜裏庭にある園で香を焚き、世継ぎを求めて祈っては香を薫らせておる。
妾は火取蛾に姿を変えよう。そしてあそこへ行って灯火を消し、范夫人を喰らい、妾が范夫人になりすまして功徳を積んでいる簫長者を騙し、奴と交わることによって奴の精根を絞り出して、 妾は内丹を練って氣を巡らせれば不老長生になれる」
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さて、ある夜のこと、范氏夫人が裏庭の園にいつも通り香案を置き、まさに香をあげてお祈りをしようとしていた。その時、一匹の大きな火取蛾が飛んできて灯りを消してしまいました。范夫人は、すぐに下女を呼んで灯りをつけさせようとしましたが、そこには元の姿に戻った吉芝陀聖母がおり、范夫人はあっという間に喰われてしまいました。
それからというもの、吉芝陀聖母は范夫人に姿を変えて、昼夜を問わず簫長者と交わり陰陽を練って内丹を造り氣を巡らすはずでした。ところが、簫長者と交われば交わるほど范夫人は精気を失い、腰を上げるのも億劫となり、逆に簫長者は御年四十歳なのに、その体は二十代のように瑞々しく、己の槍を振り回すこと何十合と気合に満ちていました。
ある夜のこと、今日も息も絶え絶えとなった范夫人は簫長者に尋ねました。
「旦那様、今日も私を可愛がって下さり、ありがとうございます。しかし、旦那様は御年四十歳にもなるのに、まるで二十代の若者のように凄まじく私の体は嬉しさのあまり悲鳴を上げております。どうしたら旦那様のようになるのでしょうか?」
簫長者曰く「愛い奴め。『逍遥遊」だよ。逍遥遊とは、とらわれのない自由な境地に心を遊ばせることだ。これにより精を漏らさず、陽気を蓄え陰気を吸収し体内の小周天で日々氣を強めていくと強くなった氣はやがて体の外へと流れ出し、自分の周りに濃密な氣の場を作りだす」
これを聞いて、簫長者に逆に陰気を吸収されると恐れた范夫人は、己の陰気が尽きないように、もっと人肉を喰らい、陰気を蓄えなければと考えました。
そして今夜は東の家で一人喰い、明日は西の家から一人喰いと、毎晩一人、人間を喰っていたのでした。その為、隣近所の人家では、一人また一人と誰かが居なくなっていくので、皆戦々恐々としておりましたが、誰も本当のことは知らないのでした。
ある日のことです。吉芝陀聖母こと范夫人がついに懐妊いたしました。
このことを簫長者に知らせますと、簫長者は四十歳になるまで子供がいなかっただけに妻の懐妊の知らせを聞いて大変喜びしました。
その一方では、天界の玉皇上帝陛下は華光が下界に到ったとの知らせを聞き、後々の災いになるのを恐れて、再び軍を招集し天馬や天兵の軍勢を整えると華光を捕らえに向かわせました。
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范夫人は目を覚ますとすぐに腹痛を感じ、急いで簫長者を起こしました。
簫長者は起きるとすぐに灯火を用意させ、天に「早く男の子が産まれますように」と祈りを捧げ、
続けて香をあげました。
祈りも終わったころ、侍女が出てきて簫長者に報せることには、
「奥様がご出産なさいました」
簫長者が訊ねて、
「その子は男かね女かね?」
「男でも女でもございません。ただ牛の胃袋のようなものでございます」
簫長者は大変驚き、自分も范夫人の部屋に入って見てみますと、果たしてそこにあるのは一つの牛の胃袋のような固まりだけでした。
簫長者は怒り狂い、すぐに近習の小僧に命じました。
「お前はこれを担ぎ出して河の中に捨ててこい! いいか、決してこのことを人に知られるなよ。笑われてわが家が恥を掻くだけだからな」
小僧は命令通りその牛の胃袋を河縁まで担ぎ出し、河の中に捨ててしまいました。
しかしどうしたことか、牛の胃袋はごろりと転がると河岸を上って来るのでした。
小僧は驚いてまたそれを河に捨てました。しかしまた牛の胃袋は上がってきます。
何度かこれを繰り返しましたが、埒があきません。小僧は慌てて帰り、このことを簫長者にご報告いたしました。
「ご主人様、あの牛の胃袋は河の中に捨ててもごろりと転がり上がってきて、また捨ててもまた上がってきて、何度もこの繰り返しです。一体どういたしましょう?」
簫長者はこれを聞き、
「これはもう土に埋めてしまうしかあるまい。それでも依然として上がってくるようなら
裏門の辺りにでも埋めてしまうまでだ。決して人に知られてはならんぞ」
そこで近習の小僧はその牛の胃袋をもって帰ってきました。
このことで簫長者は悶々と思い悩んでいました。
さて火炎王光仏は一人の和尚に姿を変えると、簫家へ托鉢しにやってきました。
簫長者が堂にいると、和尚は長者に向かって進み出て、合掌の礼をいたします。
簫長者が礼を返して言うには、
「今日お越しいただいたのは、一体どんなご用件ですか?」
火炎王光仏が化けた和尚は、
「貧道はただ托鉢しに来ただけです」
「和尚様には大変申し訳ありません。私は今用事がございますので、また明日お越し願います」
「おや、施主は大変善男なお方と伺いましたが。なぜ今日貧道が施主に托鉢しに来たのに、貧道に会うのを後回しにされるのです?」
「私は善男などではございません。ですが今日和尚様に会うのを後回しにする。寄進はしない。その上私が何も言わない。のでは和尚様には何がなんだか分かりますまい。では和尚様にお話致しましょう。
私は普段から日々精進し、よく寺院や和尚様達にも寄進してきました。しかし四十歳になるまで子供がおりませんでした。ですが幸いにも昨年家内が懐妊いたしましたが二十ヶ月経った今日になって出産したのです。
私も大変喜んだのですが、産まれた子を見てみるとそれは赤ん坊ではなく牛の胃袋のような物体でした。そこで近習の小僧に言いつけてそいつを河に捨てさせたのですが、小僧が捨ててもそいつはごろりと転がり上がってくるというじゃありませんか!
それで小僧はどうしようもなく、まずは帰ってきて私に報告したのです。私は人々にこのことを知られるのを恐れ、小僧にそいつを持って帰らせ、夜になるのを待ち裏門の辺りに埋めてしまおうと思ったのです。
このことが心にありましたもので、失礼ながら和尚様に明日お出でいただくようお願いした次第です。そうでなければ私はすぐにでも寄進しましたとも。どうして和尚様を退けたりいたしましょう?」
和尚はそれを聞くと、お祝いを述べてこう申しました。
「これは牛の胃袋と言うよりも、肉塊と申すべきものですな」
簫長者は平伏して和尚に肉塊ならどうするべきか尋ねました。
「簫長者殿は御年が四十歳になるまでお子さまがいなかったが、今日立て続けに五人ものお子さまに恵まれたのです」
「肉塊は一つしか見えませんが、五人もとは一体どこにいるのです?」
「この肉塊の中に五人いるのです」こう言われても簫長者は信じません。
そこで和尚は、
「もしもあなたが信じないのでしたら、貧道が刀にて切り開いて貴方にお見せしましょう」
言い終わると早速和尚は肉塊を切開いたしました。すると果たして、中から五人の玉のような男の子が出てきました。
簫長者は大変驚き、和尚は笑いながら言いました。
「恐れることはありません。これぞまさに五人の菩薩様が見事に成仏なさってここに生まれ変わられたのです。きっと簫長者殿にご縁があってのことでしょう。これこそ簫長者殿の仏法にたいするお気持ちがこうした形で報われたものです」
それを聞いて簫長者は大喜びしました。
そこで和尚、
「今日は九月二十八日ですな。彼ら兄弟五人の生誕を祝し、貧道が簫長者殿に代わってご子息一人一人に名前を付けるとしましょう」
簫長者は和尚様が名付け親となり謝意を示しました。
和尚はまず一番目の子に簫顕聡と名付け、
二番目の子には顕明、三番目の子には顕正、
四番目の子には顕志、五番目の子には顕徳と名付けました。
和尚は名前を付け終えて簫長者に言うには、
「五人のご子息は臓腑が凡人と異なっておりますな」
簫長者は不安ながら、何が違うのかを和尚に尋ねました。
「凡人の臓腑は肉です。ですがご子息の臓腑は、上の子からそれぞれ金輪臓・銀輪臓・銅輪臓・鉄輪臓・華光臓と、このように別れております」
「今日彼らは生まれましたが、これから一体どうなるでしょう?」
「三日で言葉を話すようになり、成長いたしましたら四人は修行の旅に行ってしまわれます。しかし一人はまだ家に残りますが、旅立つその日が来たら出て行かれるでしょう」
簫長者はこれを聞いて大喜びし和尚を引き留めて精進料理をご馳走しようとしました。
しかし和尚は「貧道も用事がございまして早く行かねばなりません。また日を改めて簫長者にお伺い致します」そこで簫長者は和尚をすぐに見送り、別れを告げました。
さて簫長者は五人の息子と一緒に、母親の范夫人に会いに寝室へ行きました。
范夫人は、「あなた達五人を生んでから、私はまた一人女の子を産んだのですよ」
早々に成熟した肉体となった華光は母の言葉に不思議がり、
「私たち兄弟は五人だけです。なぜまた妹がいるのですか?」
「もし信じないのなら、後ろの壁の方にいるから見てごらんなさい」
すると、そこには確かに女の子がおりました。華光が思うに、
きっとこれはあの瓊花もここに投胎したに違いないぞ
そこで華光は母に申し上げました。
「妹には、『瓊娘』と名付けましょう」




