第十回 華光天王 于田国に来たりて霊力を顕わす
初めまして!原海象と申します。
今回は 中国四大遊記の一冊である神魔小説『南遊記』の十回目を編訳したものを投稿致しました。
なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は明から清の時代に書かれたとされております。
また本書は別名は「五顕霊官大帝華光天王伝」といいます
<南遊記>
第十回 華光 于田国に来たりて霊力を顕わす
さて華光は玄天上帝の助言で関門に火を放ち、下界へ降りてきたのが、どこも行くところもありません。どうしたものかと考えているとき、ちょうど目の前にたいそう不思議な山が見えてきました。この山では四季を通して萎むことのない花が咲き、一年中春のような美しい景色でした。
華光は早速ここを管轄とする土地神を呼び出して訊ねました。
「あそこはなんという山だ?」
土地神が言うには、
「あの山は離婁山と呼ばれております。また山中に緑水芙蓉洞と呼ばれる仙洞があり、そこに二人の大王が住んであの山の霊穴を守っております」
「そいつはどんな奴だ?」
「天王様に私はお答えすることが出来ません」
「なぜ出来んのだ?」
土地神はひれ伏し涙を流しながら華光申し上げました
「私は土地神という職につき人々の安寧をもたらさなければなりません。しかし私がもしもすぐにあなたの質問に答えたら、奴らの一人は一部始終をしっかりと見ておりますし、もう一人も一部始終をしっかり聞いております。ですからお答えできないのですよ」
「俺がそいつらから邪魔させたりしない。お前はただ答えればいい」
「天王様に申し上げます、この山には2匹の妖魔が住み着き各々を大王と称し、この大王の一人は『千里眼』と呼ばれており、千里も先をも見渡し、見えぬところはございません。もう一人は『順風耳』と呼ばれる大王で、これまた千里先の話まで聞き取れ、知らないことなどありません。また彼らはそれぞれ離婁・師曠という又の名も持っており、二人あわせて『聡明二大王』と称しております。そして毎年童男童女を取って喰らうことを厭わず、積み上げた骨の数は泰山の如きだそうです」
華光はこれを聞き終えると土地神を追い払い、すぐにその離婁山へ向かいました。
数里と行かぬうちに離婁山へ着きました。その千里眼と順風耳とやらは、洞の中におります。
順風耳が申しました、
「土地神の野郎が、天王に俺たちがここで人肉を喰らっていることも言っちまいやがった。
今華光天王がここに俺たちを捕まえに来たぜ。兄者には見えたかい?」
訊ねられて千里眼が答えます、
「賢弟よ!俺にも見えたぞ。あの畜生め、もうすぐこの洞中までやってくるに違いない。どうすべきか?」
順風耳は一計を案じました。
「アイツの神通力は無辺と言われ、天兵や水兵を退きさせるほどと言われているからな。このままアイツに対抗するのは下策というものだ。
そこで俺に一計があるのだが。俺と兄者が二つの大山に化けて両端に立ち、そこに天王が来たって、どうして山が俺たちだと見分けられる? そして奴がうまい具合に気が付かなければ、奴が俺たちの真ん中に来るのを待って、そのまま捕まえて骨ごと喰っちまえばいいんだ。どうだい兄者!」
これには千里眼も大賛成しました。そこで二匹の妖怪は互いに山に化けると、並んで端に立ちました。
その頃華光は離婁山に到着して辺りを見回しましたが、人一人見えませんでした。
そこで華光は思うに、
「ここの妖怪どもは神通力が広大だというからな、きっと妙な術をしかけたに違い。ここは天眼を開いて周囲を見てみるか」
華光は天眼を開いて一瞥し、そして笑いながら言いました。
「こいつら、あらかじめ俺が来るのを知って、先に二つの大山に化けて立っている。そして俺が真ん中に来たら捕まえて喰おうって寸法か。ならば俺も一計を案じ、指から三昧真火を出そう。そして左右の山にそれぞれ真火を放ち、焼き殺してくれよう」
「疾ッ!」
そこで華光は真言を唱え、指から三昧真火を発し、大山を焼き始めました。
二人の大王は火が放たれたのを見ると慌てて逃げ出し、華光に戦いを挑みます。
ここで華光はわざと負けたふりをいたしました。
二人が追いかけてくるのを見て、華光は玄天上帝から下賜された降魔伏鬼の白蛇鎗を地面に置くと笑いながら申します。
「お前ら二人は一体のなんの力があって俺に打ちかけてきた? どこのどいつが殺し合おうなんて言った?さあ俺はここに白蛇鎗をおいたぞ、お前ら二人で俺の白蛇鎗を引っ張ってみせろ」
これを聞いて聡明二大王が申します。
「お前が俺たちに敵わないことはもう分かっている。何でそんな大口たたく?」
「誰がお前たちに勝てないなどでたらめ抜かす。まずはやってみせろよ。さあお前たちの内どちらが俺の白蛇槍を引っ張ることができるのか?」
そこで千里眼、
「賢弟よ、お前が出る必要はない。俺からやってみよう」
言い終えると、千里眼まずは片手で引っ張りましたが白蛇鎗は一寸とも動きません。
両手を使ってみても、やはりちっとも引っ張ることが出来ませんでした。
今度は順風耳が前から引っ張ってみましたが、これもダメでした。
見かねて華光が笑いながら言いました。
「一人づつやっても無駄だ、二人同時に引いてみろ」
言われたとおりやってみても、これまたうまくいきません。
「疾ッ!」
その時華光が真言を唱えると、二人の両手が白蛇鎗の柄に粘り着いて離れず、これが華光天王の一計であることを悟ると二人は泣くわ、喚きし出しました。
この様子を見ながら、華光は聡明二大王を捕縛でき大喜びで言いました。
「俺のこの鎗、降魔伏鬼の白蛇鎗は、お前らみたいな妖魔には絶対に動かせないものだ。さあお前たち、このまま大人しく俺に帰順すればそれで良いが、だが『嫌だ』の『イ』の字も言ってみろ、すぐに三昧真火を出して焼き殺してやる」
それを聞いて震えながら、二人は声を揃えて答えます。
「心から華光天王に帰順いたします!」
そこで華光は七粒の火金丹を取り出すと、それを二つの火金丹に作り変えて申しました。
「お前たちが俺に命を助けて欲しいなら、まずは俺に帰順する時この火金丹を飲むんだ。
そうしたらその手も離すことが出来るからな」
言われたとおり火金丹を飲みますと、やっと二匹は白蛇鎗からやっと解放されました。
華光は二匹の妖魔に言いました。
「お前たちが今飲んだのは俺の火金丹だ。いいか、間違っても逃げ出そうなんて思うなよ。もし逃げ出しやがったら、俺の火金丹でお前たちの腹の中で発火させて焼き殺すぞ」
二人はその言葉を信じず、すぐに逃げ出しました。そこで華光が真言を唱えて火金丹を発火させ始めると、二人は腹を焼かれてぶっ倒れ、「華光天王大菩薩様どうかお助け下さい!」とわめき立てました。
華光は怒りながら言いました。
「お前たちは本当に俺に帰順するのか?」
二大王は額を地面に打ち付けるように謝罪しました。
「もし火を消してくれたら、心から帰順して、今度こそ天王様の命に背いたりいたしません」
これを聞いて華光は真言を唱えて火を止めさせ、二人の腹の中の火金丹も落ち着いたのでした。
二匹の妖魔は華光を拝しながら訊ねます。
「天王様はどちらへ行かれたいのでしょうか?」
華光は困り果て言いました。
「俺はここらへんに身を落ち着けたいと考えているのだが……」
そこで二匹が申し上げますには、
「もし天王様がここへ身を落ち着けられるなら、こんな良いところはありません。ここは于田国の領地で、以前俺たちはこの国の家臣達に謀反を起こさせたんです。そして于田国王は疑心暗鬼となり、そこで俺達が夢枕に立って神からの神託のように『毎年三月三日、童男童女を用意して生贄として俺たち二人に供えるように。そうすれば俺達の加護により豊作間違いなし、国は安定し民も安らかになろう』と言ったのです。そしたら案の定、国王は毎年生贄を差し出すようになったので」
それを聞いて華光が怒りながら申しました。
「生贄等いらん。今から俺たち三人でもう一度于田国の王宮に行き、国王の夢枕に立ってこう言おう。『これより童男童女の供え物はいらん。それより神廟、玄妙観を建立させ我々三人の宝像を彫り、春と秋にはきちんと五穀豊穣を祈る祭儀を祀るのだ』と言おう。そうすれば俺らは人々から拝礼され線香を受ける身分になるぞ」
そうして華光達は、于田国王の夢枕に立つのでした
朝議に于田国では国王が昇殿し、百官達も朝廷に参上し終えますと国王が申しました。
「朕は昨夜夢を見たぞ。その夢では頭に金竜の冠をかぶり、額に天眼をもち、手には三角の金磚をもった者が出てきて、こう言ったのじゃ。
『我は天界の者で、名を華光天王と称す。離婁山に来たりて離婁・師曠の二匹の妖魔を調伏した』
そしてその天王尊菩薩は朕にこう命ぜられた。
『これより後童男童女の供え物は用いず、道観を建てるべし。春秋と二度祭れば、我が汝の国に永遠の太平をもたらそう』
そこで朕は玄妙観を建立したいと思うが、皆の意見が聴きたい」
百官たちは奏して申し上げます。
「陛下の今までの夢は、『童男童女を人身御供に差し出せ』という内容でございました。しかし今日陛下が見られた夢の中の神仏が言うには『童男童女の供え物は用いず、春秋と二度祭るべし』とのこと。これは福徳の神で御言ございます。どうして従わないことがありましょう。
陛下にあられましては、すぐにどこか福地を選んで玄妙観を建造し、宝像を建てるよう玉旨を下されるべきです。迷うことなど一切ございません」
于田国王は、ではどこに玄妙観を建てるべきかと百官に尋ねました。
百官は口をそろえて言いました。
「この城から五里ほど離れたところに火漂將の道観がございますが、今はもう廃れております。ですから聖旨を下し、火漂將を廃廟にして新しい廟を建てましょう」
于田国王はこれを聞くとすぐに禁衛軍の錦衣衛兵を指揮し、兵三千を連れて廟宇を取り払い新しい宝像を立てに向かうように玉旨を下しました。
百官たちは退朝し、錦衣衛兵の宋清将軍は玉旨を受けると、すぐに火漂將の道観を取り払い、新しい道観を立ててその道観を天王祠と名付けました。それが終わると于田国王自ら文武の百官を引き連れ、線香を立てて供え物を捧げました。
さて華光は廟宇を手に入れ、神像に香火を受ける身となりました。
そこで千里眼・順風耳の二人に言いつけます。
「お前ら二人で道観を見守ってろ。人々に害なんか加ええるなよ。俺は下界に行くがあの国に災いがあればそれを取り除き、難に遭えば難から救うようにしろ」
華光の言いつけにひれ伏して二人は承諾いたしました。
さて、今まで祭られていた火漂將の方は、于田国王には廟を取り壊され、代わりに華光の祠が立てられたのですから、これは面白くありません。何とか華光とやり合おうと思いましたが、華光ほどの神通力もないのでただ堪え忍ぶしかありませんでした。その為、火漂將は昼夜を問わず華光に一泡吹かせる算段を考えましたが、何の方法も思いつきませんでした。
ある日のことです。于田国王には一人の公主がおり、以前対馬国の許嫁から華光天王の霊験が優れていることを聞き、出殿して焼香したいと父王に申し上げました。
「華光天王様の霊験は大変優れていらっしゃるとうかがいました。是非私も廟へ行ってお香をあげたいのです。宜しければ父王陛下、私にもお参りに行かせて下さい」
于田国王は喜んでこれを聞き入れました。早速公主は女官たちに命令して線香や紙燭(しそく:蝋燭)を準備させ、自ら天王祠へ焼香しに向かいました。
公主は入殿の礼を終えますと、家来の者に神幔を巻き上げさせました。
「天王様の像を見てみたいわ。どんなお姿なのかしら?」
そこで将軍が神幔を巻き上げます。一目見て、公主は感嘆して申しました。
「天王のお姿ったら、なんてご立派なのでしょう!」
参拝も終わり、公主は牛車に乗って廟門を退出し宮殿へ帰りました。
それを見ていた火漂將は、
「俺は華光天王に廟宇を取られてからというもの、いまだ仇を返せずにいる。ところで、今日華光天王の道観に参拝に来た于田国王の公主を見てみたがずいぶん美女だな。ここは怪風を起こして公主を俺の洞内に連れ去ってしまおう。
そうすれば俺は公主と夫婦の契りを結ぶことができ、更に于田国王は華光天王が公主をさらったと疑うだろう、これで仇も討てるって寸法だ」
思うが早いか、火漂將は一陣の怪風を起こすとあっという間に公主を洞内へとさらい、夫婦の契りを結ぶように迫りました。
これに対して公は承諾いたしません。そこで火漂將が言いました。
「さてはお前は俺様が一体どこのどいつだと言いたいのだな。俺は火漂將と言い、お前の父、千田国王が俺様の廟宇をぶっ壊して天王祠を建てたので、俺様は身の置き所がなく、こんな洞窟に住むようになってしまった。そして今日お前が天王祠へ焼香しに行ったのを見て、俺様はお前に惚れた。
そこで怪風をおこし、ここにお前を連れてきて夫婦なろうと思っている。それなのに何で俺様に従わない? もしお前が断固、俺様を拒むというならば、俺様はお前を喰ってしまうぞ」
公主は、もしも承諾しなかったら、この妖魔に食べられてしまう。そう考えて仕方なく、嘘をついて言い逃れることにいたしました。
「私は大王様にいきなりここに連れてこられて、不安で緊張しております。もしよろしければ私に数日だけ時間を下さい。そして心が落ち着いたら、その時は貴方様と夫婦になりましょう」
これを聞いて火漂將は大喜びして言いました。
「それもそうだな。では今からこの洞のどこをお前の部屋にするか決めよう」
そしてすぐに手下の小妖怪共に公主の世話をするように言いつけると、自分はご馳走を買いに行って公主と夫婦になるのを待つことにいたしました。




