ウシノクび
明治38年のことである。
東京生まれ北京育ちの滝沢バキバキという人がいた。
彼女は怪談蒐集家であり、古今東西のエロ画に詳しかった。
ある日、バキバキは『どんなインポにも効く薬は愛である』という本を出版したがまったく売れなかった弟子の『勝つしかアホクサイ』に命じ、かわいい犬を描かせたら日本一といわれる丸山ボウキョのところへ牛の首を持って行かせた。
「なぜ……牛の首を?」
どすんと目の前に大きなそれを置かれた丸山ボウキョは、目をしばしばさせて途方に暮れた。
「コレによく似合う怪談をつけて欲しいとの師の依頼にて候」
「いや……。ボク……絵描きなんですけど」
そこで2人揃って小泉ハーンのところへ出掛けた。小泉ハーンは有名な『耳なし萌一』の話を書いたホラー作家であった。
ハーンは言った。
「ワタシ、ニホンゴ、チョットだけね」
その頃、滝沢バキバキは……
いや、ちょっと何をしていたかわからない。
「うーん。どうしよう」
三人が声を揃えて悩んでいるので、吾輩が力を貸してやった。
「テキトーに怖そうな話こしらえときゃ、いいんじゃね?」
三人のケツが、浮いた。
座布団ごと、超常現象のように、浮いた。
声を揃えて、怯えた声を上げた。
「牛が……!」
「牛の首が……!」
「「「喋った!!!」」」
そう。吾輩こそ件の牛の首である。
え? 吾輩が喋っただけで怖い?
照れるなぁ、モー……。