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開花した力 5

 それから何事もなかったかのように、その場は解散した。

 花と密はしずなへ書類を渡し、また後で連絡すると言葉を残していたが幸太郎は特に何もすることなくただ一礼をし場を去った。

 最後の最後まで目を合わせなかった幸太郎。そして最後の最後まで幸太郎のことを見続けていたしずな。

 この二人の違和感に気が付かないほど、花や蜜は鈍感ではなかった。


「おいおい、何を話してたんだよぉ~」


「ちょっと花ちゃん!?」


 三人で最初に空間移動してきた家に帰っている途中で、花にそんなことを尋ねられる。

 まるで子供の青春を聞き出そうとする大人のような悪い笑顔を浮かべている。


「さっきの力について聞かれていました」


 嘘だ。力のことについてなど一切聞かれていない。

 むしろ相手はこの力についてなど、一切興味がなかった。

 だが、二人を誤魔化せるだけの話しなどこれついて以外にはないため話しを作り上げた。


「あぁ……あれのことか、どうだった」


「何だか危ない感じがするって言う説明を長々と……って感じですかね」


「そんなに危険な力なの?」


「……まぁ、目覚めたばかりですしね。能力の詳細を答えたから色々と教えてくれました」


「ん?結局幸太郎はその力について知ってたのか?あんなに知らない雰囲気出してたくせに」


「俺が欲しくて手に入れた力ですからね……なんとなくは理解してます。ただ上手く説明が出来ないし実践は出来ないから知らないのと同じですよ」


「実践することが出来ない?」


「はい。この力は何というか……人間相手には使ってはいけないというか……いや多分、正確には使えるんですが、人間相手に使ったら相手がどうなるか想像できないというか。そもそも一回も能力を解放したことがないので何も分かりませんけど」


「つまり――――〈歪魔獣(アビス)〉特攻って感じか?」


「……重宝されるなぁ、色々と」


 二人は幸太郎の境遇について、幸太郎よりも詳しいと言って過言ではない。

 国が調べた書類に目を通しているのだから当然と言えば当然であるが。


「ならその力について紙に書いて密に渡しとけ、一応国に知らせとかねぇといけない」


「分かりました」


「よし、それじゃ東京に帰るとしますか」





「さぁ、ついたよ」


 またしても扉を開いた先にあった光景は、どこかの部屋の中だった。

 生活に必要なものは全て揃っており、まるで誰かが住んでいるようにさえ感じる生活感ある部屋だ。


「ここは東京の新しく建ったばかりの僕らの家さ」


「とは言っても、都内のビルの一番上に平屋を無理矢理建てたっていう物件だけどな」


「外は凄い強風だけど景色は最高に良いよ!」


 確かに景色は良さそうだと思った。

 見渡す限りの白と青、ここは本当に住む世界が違うのだと少しだけ感じた。


「この家は僕らの家でさ、ここからなら色んな場所に行けるようになってるんだよね」


「ようするに、ここから案内始まるよぉ~ってことだ」


「そういえば本来はそういうのが予定でしたよね」


「そう!あとは幸太郎の生活用品を揃えて、学園の入学試験を受けて、幸太郎が住む家まで案内して今日は終わりって感じかな」


「ん?入学試験?」


「紙に書いてあったろ?あれに今日のスケジュールも書いてあったんだよ、ほら行くぞ」


「あんな一瞬で内容読める人なんていないでしょ、花ちゃん」


 密が花の言葉にツッコミを入れなながらこの場所に入ってきた扉を再度開き、またぐにゃぐにゃと視界が混ざり合うような空間に侵入していく三人。

 すると目の前に現れたのはどこかの扉。


「ここは僕らみたいな人たちご用達のショッピングエリアの扉だよ。この場所では移動系の能力だけ使用を解禁されているんだ」


「あとは受付に行って買い物するだけってわけ」


「ショッピングエリア……」


 あまり発展していない地域に住んでいた幸太郎には初めて見るような建物ばかりが壮観に並んでいた。

 知らないキャラクターのバルーンが空に浮かんでいたり、人が隙間なく歩いていたりと初めてのことばかり。


「ここは商業地域、日本中の商品がここに集まってるから好きなものを選びな」


「探すのも楽だよ。僕の端末にここのアプリがあるからそれで好きなものを選んでも良いし、実際に見たい場合はそのアプリで位置情報を確認してその場所まで行けばいい。ただ人が多いから幸太郎ははぐれないようにね」


「そ、それじゃアプリで選ばせてもらってもいいですか?」


 こんなに沢山の人がいる場所に来たことがない幸太郎は、正直圧倒されていた。

 目を覚ましてか感覚というものが異常に発達していることは薄々と気が付いてはいたが、まさかここまでとは思わなかった。

 まるで常に工事現場のど真ん中にいるような、自分から発する全ての音が他の音に圧殺されてしまうのではないかとすら思えてくるような圧を体中で感じている。


「どうしたの?具合でも悪い?」


「い、いえ……大丈夫……」


 それに加えて、何か近くにいるような気配……それはきっと近くをたまたま通った人の気配だと、何かに触れたような感触……それはきっと空気や空気の流れによってできた感触だと、香り、視線、感情、色々な目に見えないものを感覚が受け取り始める。


「……やっぱ大丈夫じゃないです――――」


 あらゆるものから受け取った刺激による気疲れ、その疲れが急激に体力を奪い去り幸太郎は気絶するように眠りついた。


「え、え!?幸太郎!?」


 初めての都会でのショッピングは、残念ながら気を失った幸太郎であった。





――――朝日間しずなが本当の名を口に出したその時のことだった。


 遥か……どこか遥かで時空が裂けた。


「ヨウヤク……キコエタ……ミツケタ……」

 

 空間の中から現れたソレは、黒い翼を生やし飛び立つ。

 雲を突き抜け、声の聞こえた方角へとただ真っすぐに突き進む。


「ドコ……ドコ……コッチ……キコエタ……」」


 音速で飛ぶ黒き飛行物体。それは雲に隠れるように姿を消す。

 声の聞こえた場所に辿り着くまで……。


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