はじまり
初の試み
できはいいものじゃないけど…
これはとある高校でのお話――
それは夏休みが終わってからすぐのこと。蝉も鳴き、まだ長期休みの熱が残る頃、事件は起きた。
9月1日
朝早く学校に来た生徒がそれを見つけた。その生徒が3階の渡り廊下を利用したとき、誰のものかわからない赤色の汚れた上靴がつま先を外へ向けてきれいに並べられていた。不審に思った生徒は上靴に近づいた。上靴自体には何も気になる点はない。だが問題は上靴のあるところから地面を見下ろしたときだった。
そこには黒く艶のある髪を広げながらセーラー服を身にまとい、仰向けで倒れている女子生徒の姿があった。彼女の顔の周りには赤黒い花が咲き乱れ、衝撃に耐えられなかった四肢からも花弁が溢れていた。
美しく咲き誇り、そして無残に散っていく。人間の命とは儚いもので、そんな彼女も人間でありまた花であった。小さな種子を温め芽吹き、ゆっくり時間をかけて葉を茎を育て蕾を作る。そして花が咲き――だが彼女の一生は早すぎた。枯れることを知らず、今の姿から変わることの無い永遠を手に入れてしまったのだ。
きっと彼女はここから飛び降りたのだろう。何を望んで死の道を選んだのか到底考えられるものではなかったが、彼女の顔はどこか幸せそうで、でもどこか不気味な雰囲気を纏っていた。
亡くなったは2年1組の真白 要という女子生徒。学校内でも有名な女の子で、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花と謳われる。勉強は当然学年1位で、スポーツもさせれば何でもそつなくこなす。まさに才色兼備といった子だった。友達や家族、周囲の人間にもとても恵まれ、彼女について悪い噂なんて聞いたことがない。一言で人気者の彼女が17年もの間燃やし続けた命を捨てたのだった。
遠い昔に聞いた話。神様は才ある人間の命をすぐに奪ってしまうという。それは神様がその能力を羨み自分のものにしたいがために奪ってしまうのだと。良く言えば神にまで羨まれる程の才を持っていたということだが、神だからってその才を奪う権利は持っていない。
神は二物を与えずなんてこともいうがそんなことはない。自分でヒトに多くの才を与え、それを羨み妬み奪う。そんな理不尽あっていいのだろうか。
神様なんて人間が作り出した概念であり存在するとは思えないけれど、こういう事を考えたとき心のどこかで「罰当たりなんじゃないか」って考えてしまうのは、自身の心の中に神様が存在しているということなんだろう。
その日学校は急遽休みとなった。理由はもちろん要の死だ。学校側からは特に説明などは受けなかったが、要が死んだという話は発見した生徒からその生徒の友達へ。そしてその友達から別の友だちへ、そうやって噂として広がった。
噂というものは尾ひれがついて広がっていくものだ。彼女が死んだということだけが正しい事柄として、そこに、なぜ死んだのか、自殺か他殺か、そんな憶測だけで話が完成され広がっていった。
『彼女の能力を羨んだやつが殺した』
『彼女のことが好きな人の恨みを買って殺された』
『実は家庭や人間関係で悩んでいて自殺した』
どれも完璧な彼女からは想像できないものばかり――
いろんな噂が立っている間、学校では様々な調査が行われた。彼女が飛び降りたと思われれる渡り廊下から各教室、不審なものがないかどうかなど調べられた。
調査は数日に渡って行われたが何も発見はなかったという。なにも――彼女の遺体からは他人の指紋もDNAも検出されなかった。不審なものは何も発見されず、それこそものだけでなくDNA等も見つからなった。
逆にそれが不審とも取れるが、調査の結果として要の自殺という答えが出された。無能な警察たちはそれ以上調査をしようとせず、取り調べも特に行われなかった。
それから学校が始まった。生徒たちは人が死んだことなどなかったかのように、相変わらずの様子だった。馬鹿な男子生徒たちはくだらない話で盛り上がり、女子生徒は最近人気の俳優だのアイドルだのこちらもくだらない話にうつつを抜かしている。
それにしてもなにか気にならないか? 彼女は人気者だったんだ。誰か1人でも悲しむ素振りくらい見せてもいいのではないか。それなのに誰1人としてそんな素振りを見せなかったのだ。教師、クラスメイト、そして彼女の周りにいた人たちでさえも......。
そうして一日は終わった。滞りなく授業は進められ放課後を迎える。足早に帰宅する生徒、部活に精を出す生徒、校内で用事もなく暇を持て余す生徒など、放課後の過ごし方は十人十色だった。
――僕は知っている要が周りの人間に振り回され、ぐちゃぐちゃにかき乱されて殺されたこと。確かに要は自殺した。だけどそれは単なる自殺じゃない。要の周りをうざいくらいに渦巻く悪意に殺されたんだ。
決して僕が要の死を認めたくない訳じゃない。死者の命を甦らせること
表向きは『みんな大好き人気者の真白要ちゃん!』だった。......表向きだけは。
彼女は何もかも優れていて完璧だった。だからそれを妬んだ者は彼女に嫌がらせを行った。初めは軽いもので、物がなくなったり数人から無視されたり、けれど全然耐えられるものであった。それが日を増すごとに酷くなっていったのは言うまでもないだろう。もう口にするにもおぞましいことが彼女の身に起きていた。
しかしその嫌がらせなんかより酷いのがみんな見てみぬふりをして、あくまで彼女がいじめられることは日常の1つであり、みんなの憧れの的でありながら、妬み疎まれる存在だった。流れる噂はどれも彼女を称賛するものばかりで教師たちはそれを信じ切って何も疑わず時が流れていった。
彼女はそんな日常にもう慣れていた。他人と友達ごっこをすることも、他人からいじめられることも。なのにこんなことが起きてしまったのだ――
翌日、また変わらない学校生活が始まった。もし違うところを上げるとしたら彼女がいないというだけ――と思われていたが、そうではなかった。
ある一人の生徒の引き出しに一通の手紙が入っていた。それは四葉のクローバーの描かれた可愛らしい便箋に包まれて、差出人の名前には”真白”とあった。真白と言われて思いつく人物は真白要ただ1人。彼女は死んだはずなのに、そんな彼女から手紙が届いたのだ。
手紙を贈られた生徒は誰にも気づかれないようにして手紙を制服のポケットに入れて、1人ひっそりと息を呑み額に汗をにじませた。
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