婚約破棄という喜劇。男爵令嬢は無双する
小文字を多用しているため、読みにくい場所が多々ありますが、ご了承をお願いいたします。
※王子の設定が大変甘くなっております。
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バルドメロの設定を変更。それに伴い、レイチェルのはとこ設定削除、王位についての説明文追加しました。
今後も、バルドメロについて設定が変わる可能性あります。
「レイチェル・アクアド公爵令嬢!貴様は、私の愛するカミラ・ペドロサ男爵令嬢に数々の嫌がらせを行った。それだけでも腹立たしいことこの上ないのに、一週間前、カミラを階段から突き落とした!嫉妬にかられて行われたこれらの行為により、次期国王である私の婚約者にふさわしくない!よって、貴様との婚約を破棄する」
会場に響いた、第一王子であるバルドメロ様の声。私、レイチェル・アクアドは手に持っている扇で口元を隠し、バルドメロ様に気づかれないようにため息を吐いた。
今日はめでたい卒業式。そして、今行われているのはバルドメロ様を含めた卒業生を祝う卒業パーティー。
在校生代表として、バルドメロ様に声をかけようとしたら、いきなり行われた私の断罪と婚約破棄宣言。
もう、ため息しか出ない。
「カミラを傷付けた悪女め」
「カミラに謝れ!」
王子の後ろに控えている、王子の取り巻き二人も、ギャーギャーと騒いでいるから余計に頭が痛い。
ギャーギャー騒いでいる王子たちの後ろには、ピンク色の髪に緑色の目をした一人の少女がいます。きっと彼女が、カミラ・ペドロサ男爵令嬢なんでしょう。
「バルドメロ様、私はペドロサ様に嫌がらせをしたことはございません」
「とぼけるな!カミラのノートを破ったり、私物を盗んだりしているではないか!それに、今回の卒業パーティー……カミラは、着て行くドレスが無いと泣いていたぞ!貴様がカミラのドレスを隠したのだろう!見ろ、可哀想にカミラは制服で卒業パーティーに参加だぞ!」
バルドメロ様は、『私が行った』悪事を大声で言います。
バルドメロ様に気づかれないように、ちらっとペドロサ男爵令嬢を見ます。
バルドメロ様の言うとおりに、ペドロサ男爵令嬢は、卒業パーティーなのに制服を身に着けています。しかし、身に着けている制服は、スカートが短く太ももが露になっているだけでなく、小さめのブラウスを身に付けているせいで、胸の部分がはち切れんばかりになっています。
控えめに言っても、とても破廉恥です。思わず、眉間に皺が寄ってしまいます。
そんな、私を見てバルドメロ様はペドロサ男爵令嬢を守るように、彼女を囲みます。
「アクアドさまぁ~、発言の許可を下さい~」
しかし、ペドロサ男爵令嬢はバルドメロ様たちを押し退け、前に出ると「発言の許可が欲しい」と言った。
「ここは、学園です。上位貴族に許可を取る必要はありません」
「そぉ~ですかぁ?でもぉ~、卒業パーティーはぁ外部からのお客様もぉいらっしゃるのでぇ、卒業パーティーの責任者であるぅ、アクアドさまぁの許可を下さい~」
「わかりました。カミラ・ペドロサ男爵令嬢の発言を許可します」
間延びした喋り方にイラッとしながら、ペドロサ男爵令嬢の発言の許可をだした。
しかし、喋り方はともかく、この卒業パーティーを公と見なし、上位貴族に発言の許可を求めたことは印象がよい。
「アクアドさまぁ発言の許可、ありがとうございますぅ。私はアスール商会を営んでおりますぅペドロサ男爵家のぉカミラですぅ。とアクアドさまぁ~私からもお願いしますぅ。バルドメロさまぁと婚約破棄して下さい~」
「……」
前言撤回。なんて失礼な男爵令嬢なのでしょう。私がバルドメロ様と婚約破棄を了承したら、私の後釜に座ろうと考えているのでしょうか?
「アクアドさまぁに~バルドメロさまぁは相応しくないですぅ」
「よく言った、カミラ。やはり、私にレイチェルは相応しくない!!」
バルドメロ様とその取り巻き二人は、ペドロサ男爵令嬢の言葉に頷きました。
なるほど。私にバルドメロ様は相応しくないですか。
たかが男爵令嬢が何を言い出すのでしょうか。
私とバルドメロ様の婚約は、私が7歳、バルドメロ様が8歳の時に結ばれたものです。婚約が結ばれてはや10年。男爵令嬢ごときがとやかく言うものではないです。
「アクアドさまぁと言う素晴らしい婚約者がいるのにぃ、私のような男爵令嬢にぃ現を抜かすようなぁバルドメロさまぁでは、アクアドさまぁを幸せにできません~」
そうですか。バルドメロ様では私を幸せにできないですか。
ん?
「それにぃ、私のぉ憧れでぇ、学園中のぉ女性の憧れであるぅアクアドさまぁをバルドメロさまぁは、こんな大勢の前でぇ辱めたのですよぉ。許せないですぅ」
ん?
んん?
「不誠実でぇ、恥知らずでぇ、世間知らずでぇ、自国についてぇ無知のバルドメロさまぁは、アクアドさまぁの婚約者どころかぁ、次期国王にも相応しくないですぅ。この婚約破棄騒動を理由にぃ廃嫡されてくださぃ。ついでにぃ取り巻き二人もぉ辺境に飛ばされてくださぃ」
ん?
んん?
んんん?
ペドロサ男爵令嬢は可愛い顔を真っ赤にして、バルドメロ様と取り巻きの二人に怒っているみたいです。
どうやら、私の後釜に座ろうとしているわけではありませんね。
ちらりと会場を見渡すと、多くの令息・令嬢がペドロサ男爵令嬢の言葉に頷いています。頷いている令息の中には、宰相の息子と騎士団長の息子の姿もあります。
「ペドロサ男爵令嬢、バルドメロ様に“廃嫡”とは不敬ですよ」
「だってぇ、アクアドさまぁ。私が卒業パーティーでこんな格好しているのはぁ、バルドメロさまぁとモブ侯爵令息・ザコ伯爵令息が原因なんですよぉ」
“愛するカミラ”からの廃嫡発言から立ち直れていないバルドメロ様に代わって、ペドロサ男爵令嬢を注意すると、ペドロサ男爵令嬢はさっきまで怒っていた表情から一転して、目に涙をため今にも泣きだしそうな表情になった。
「馬術の授業でぇ乗馬服に着替えていた隙にぃ、バルドメロさまぁたちは女子更衣室に忍び込んでぇ、私の制服ぅをこんな破廉恥な制服とぉすり替えたんですよぉ?『制服を返してくださぃ』って言ってもぉ、『カミラにはこっちの制服が似合う』って言ってぇ制服を返してくれなかったんですぅ」
「うわ……」
ペドロサ男爵令嬢の破廉恥な制服の真相に、思わず声を上げてしまった。周りもバルドメロ様たち三人を白い目で見ています。
「わ、私はカミラにより可愛くいて欲しかっただけだ!!それに制服をすり替えただけだ!!罪を犯したわけではない!!」
バルドメロ様は白い目を自分に向けてくる周りに、噛みつくように大声で怒鳴りました。
女子更衣室に侵入だけでも不法侵入で罪に問われてもおかしくないのに、制服のすり替えって……世間一般的にはそれを窃盗と言うのですよ、バルドメロ様。
「今日だってぇ、卒業パーティーで着るはずだったぁドレスを『カミラには似合わない』っていう理由でぇ、暖炉で燃やされてぇ……」
うん、器物損壊罪ですね。バルドメロ様。
「カ、カミラ何を言うんだ!?代わりのドレスをプレゼントしただろう?」
「宝石と金糸銀糸がぁウェディングドレスよりもふんだんにぃ使われていてぇ、上も下も丈が短すぎて悪目立ちするぅドレスなんてぇ、伝統あるぅ学園の卒業パーティーにぃ着ていけないですよぉ。それでぇ『卒業パーティーに着て行くぅドレスがなぃ』ってぇ言ったのにぃ……アクアドさまぁの仕業にしてぇ」
バルドメロ様が言っていた『私の悪行』の一つの真相が明らかになりました。
バルドメロ様がペドロサ男爵令嬢にプレゼントしたと言うドレスは、想像しただけで鳥肌が立つ悪趣味なものです。卒業パーティーに参加している令嬢の中には、顔を青くしている者もいます。
「ノートが破れた件はぁ、私のノートをぉモブ侯爵令息とぉザコ伯爵令息がぁ、私の許可なくぅ持ちだしてぇ、二人で取り合った結果ぁ破れたのですよぉ。それにぃ、『お守り代わりに欲しい』って言ってぇ、それぞれぇ、私のぉ髪飾りやぁ筆記道具をぉ私の許可なくぅ持ち去っていくしぃ」
「いや、これには深いわけがあって……」
「僕はただ、カミラをいつも近くに感じたくって……」
ペドロサ男爵令嬢のノート破損と私物窃盗の犯人とばらされた、モブ侯爵令息(四男)とザコ伯爵令息(三男)が、慌てて言い訳を始めます。
この二人は、それぞれ歴史と伝統がある侯爵家・伯爵家の問題児としてもともと有名でした。きっと、バルドメロ様の側近になろうとしたのでしょうけど……それが運の尽きですね。
窃盗に器物損壊罪に加え、バルドメロ様と共に行った女子更衣室への侵入。これらの罪により、きっとお二人はそれぞれの家族により辺境行きが言い渡されるでしょう。
「カ、カミラ……私たちは愛し合っているのではないのか?」
「私がぁ、いつぅバルドメロさまぁに向かってぇ、『愛してるぅ』なんてぇ言いましたかぁ?」
「私が、いつカミラに会いに行っても歓迎してくれたじゃないか……」
「歓迎してないですぅ。それにぃ、仮にもぉこの国の王子に向かってぇ……来るんじゃねぇ、このクズ野郎……なんてぇ言えるわけないじゃないですかぁ」
ごもっともです。下級貴族がこの国の王子であるバルドメロ様を邪険に扱えるわけありません。
「アクアドさまぁと言ぅ、淑女の鑑のようなぁ素晴らしい婚約者を蔑ろにするぅ、不誠実なぁ……クズ野郎……とぉ、愛し合う趣味なんてぇ私は持ち合わせてないですぅ」
気のせいでしょうか?
ペドロサ男爵令嬢から、外見からは想像つかない低い声で二回も「クズ野郎」と言う暴言が聞こえた気がします……
「わ、私のためにクッキーを焼いてきてくれたではないか?」
「バルドメロさまぁが、私の鞄を漁ってぇ勝手に食べたクッキーはぁ、うちの商会で取り扱っているぅクッキーですぅ。その日はぁ、学園の生徒達にぃ、うちの新商品であるぅクッキーを売っていたんですぅ。バルドメロさまぁが食べたクッキーはぁ、その残りですぅ」
ペドロサ男爵令嬢の言葉に多くの令息・令嬢が頷いています。
「しかもぉ、バルドメロさまぁは商会直営のぉレストランで食事したときぃ、お会計してくれなかったしぃ……」
「あ、あれは、カミラが私のために作ってくれたのだ!!カミラから私へのプレゼントだ!!」
「あれはぁ、バルドメロさまぁが『何か食べたい』と言ったのでぇ、レストランのシェフが作った食事ですぅ。たとえ私が作ったとしてもぉ、お店でぇ食事をしたのだからお金をぉ払ってください~」
バルドメロ様……クッキーの窃盗だけではなく、無銭飲食の罪も犯していましたか…
「これまで、たくさんプレゼントを贈ってきたのに……」
「アスール商会でぇ買ったものを、渡されてもぉ困りますぅ~」
「……」
アスール商会の娘に、アスール商会で買ったものを渡してどうするんですか、バルドメロ様。
「バルドメロさまぁは、私に渡したぁピンクダイヤモンドがぁどこの特産物か知っていますかぁ?」
「ば、馬鹿にするな。ダイヤモンドは隣国ディアマンテ王国の特産物に決まっているではないか」
「確かにぃ、ダイヤモンドはぁディアマンテ王国の特産物ですがぁ、ピンクダイヤモンドはぁ、我が国の特産物ですよぉ?」
ペドロサ男爵令嬢の言う通りです。ピンクダイヤモンドは我が国の特産物です。しかも、モブ侯爵領の特産物ですよ。
「バルドメロさまぁが、学園でずっとぉ私に張り付いているせいでぇ、うちの商会のぉ売り上げが下がるしぃ」
ペドロサ男爵令嬢の不満はまだ終わらない。不敬を恐れずバルドメロ様を睨み付けるその姿は、感心してしまいます。
「バルドメロさまぁがずっと近くにいるせいでぇ、「アクアド様の婚約者を奪うひどい女」のレッテルを貼られてぇ、そのせいでぇ、「ひどい女の両親が運営している商会」とぉ~学園の生徒たちにぃ認識されてしまってぇ、多くの貴族たちにアスール商会は敬遠されてしまってぇ……」
「大丈夫だ、カミラ。すぐにアスール商会を王室御用達にするから!!そうすれば、売り上げなんてすぐ戻るさ」
涙声になっているペドロサ男爵令嬢に向かい、バルドメロ様は慌てながら声をかけます。しかし、ペドロサ男爵令嬢はキッとバルドメロ様をにらみつけます。
「王室御用達を決められるのはぁ、国王陛下だけですぅ。国王陛下に対してぇ越権行為ですかぁ?」
我が国の“王室御用達”は、国王陛下だけが決めることができます。王室御用達=国王が認めたお店という認識なため、王室御用達の看板があればいくらでも銀行や貴族からお金を借りることができます。
そのため、王室御用達になるためには、店の売り物の品質や店の経営状況だけでなく、店主の人格まで調べられます。
その厳しい審査をパスした、商会やお店だけが王室御用達という名誉を頂くことができます。
きっと、アスール商会も王室御用達を目指して努力をしていたのでしょう。
バルドメロ様のせいでアスール商会は謂れのないレッテルを貼られてしまい、その元凶に易々と「王室御用達にしてやる」と言われたら、そりゃ怒りますよね。
「それにぃ、バルドメロさまぁは、『頭のいい女性は嫌い』ってぇおっしゃっていましたがぁ、私はぁ今までのテストでぇ、上位十名以内をキープしていますよぉ?」
ペドロサ男爵令嬢の言葉に、私は目を丸くしてしまいました。失礼ですが、間延びした喋り方から、勝手に頭は良くないと判断していました。
私は第二学年、ペドロサ男爵令嬢は第一学年と学年が違うため知りませんでしたが、どうやら第一学年の間では有名らしく、多くの下級生が頷いています。
最終学年である第三学年のバルドメロ様の成績は……残念ながら、下から数えたほうが早いです。
そのため、私が王妃となって頭の出来が良くないバルドメロ様を支える手はずとなっていました。
………
……
…
あら?
なんで、私に不誠実で、国の特産物も知らず、無銭飲食・窃盗・器物損壊罪を繰り返す犯罪者を支えないといけないのかしら?
「それにぃ~アクアドさまぁと婚約破棄していいのですかぁ?アクアドさまぁとバルドメロさまぁの婚約ってぇ、国王陛下からぁアクアド公爵家に持ちかけたんですよぉ、ある意味王命ですよねぇ。王命に逆らってぇ……命あるといいですねぇ」
ペドロサ男爵令嬢が言うとおり、私とバルドメロ様の婚約は、国王陛下直々に私のお父様に持ちかけたものです。
それも、側妃から産まれたバルドメロ様のために。
この国では、王位争いを避けるために王妃・側妃問わず基本的に最初に産まれた男の子……つまり、第一王子が国王となると法律で決まっています。
なかなか王妃様との間に子どもが出来なかった国王は、バルドメロ様のお母様を側妃として迎えました。
側妃を迎えてから1年後に産まれたのがバルドメロ様です。
しかし、バルドメロ様が産まれたあと、王妃も懐妊し第二王子が産まれました。
法律で第一王子が次期国王と決まっていても、王妃から産まれた第二王子を推す声があってもおかしくありません。
バルドメロ様の次期国王としての地位を確実にするために、またバルドメロ様に強い後ろ盾を付けるために、筆頭公爵家である我が家に、国王陛下が婚約の打診を行いました。
このことは、貴族の間では有名な話です。流石のバルドメロ様も知っているはずです。
「そ、そんなこと知らない!そんなこと、ママは何も言っていない」
………………………。
どうやら知らなかったみたいです。
それより、ママってなんですか?
側妃に甘やかされて育てられたと聞いていましたけど。
マザコンなんですか?
うわぁ、犯罪者なだけでも最悪なのに、マザコンも追加されるなんて…
ペドロサ男爵令嬢の話を聞いていると、バルドメロ様のために頑張っている自分が馬鹿らしくなってきました。
「ほ、本当にレイチェルとの婚約は、国王から持ちかけたものなのか?王命なのか?いや、たとえ王命でも命までは取られないはず……。それなら、最悪私がペドロサ男爵家に婿「嫌ですよぉ~。両家の間に結ばれたぁ婚約という契約をぉ、自分の感情のままにぃ破るような人とぉ結婚したくないですぅ」入りすれば……」
自分の将来が心配になったのか、バルドメロ様は青い顔をしながら男爵家への婿入りを提案しますが、ペドロサ男爵令嬢に一刀両断されてしまいます。
バルドメロ様は完全に打ちのめされ、膝を突いています。その姿に満足したのか、ペドロサ男爵令嬢は晴れやかな表情を浮かべています。
「レ、レイチェル!!!やはり、婚約破棄の話は無かったことに……」
「バルドメロ様、確と婚約破棄を承りました」
青い顔してすり寄ってきたバルドメロ様を、バッサリと切り捨てました。
私に拒否されると思っていなかったのか、バルドメロ様は青い顔を今度は白くして、倒れてしまいました。
私が二回、パンパンと手を打ち鳴らすと、学園の警備員がどこからともなく現れバルドメロ様を回収していきました。
「卒業生の先輩方ぁに、在校生・来賓の皆さまぁ、この度はぁ私のぉ不手際でこんなことがぁ起きてしまい、大変申し訳ありませんでしたぁ。お詫びの品としてはぁ細やかですがぁ、アスール商会の商品券と割引券をぉお渡しいたしますぅ。もちろん、併用可能ですぅ。今後もぉ、アスール商会をぉよろしくお願いしますぅ」
バルドメロ様の姿が見えなくなると、ペドロサ男爵令嬢はマナーの教本通りの作法で、会場にいた皆さまに頭を下げました。
国でも有数な商会の商品券と割引券を貰えることになり、会場中から拍手が上がりました。
バルドメロ様の婚約破棄騒動で、冷え切った会場は再び盛り上がりました。
「アクアドさまぁ、このあとぉ、お時間よろしいでしょうかぁ。アクアドさまぁに紹介ぃしたいモノがおりましてぇ……」
会場の盛り上がりにほっとしていると、トテトテと小走りでペドロサ男爵令嬢が私に近づいてきました。そして、いたずらっぽい表情を浮かべながら小声で私に話しかけてきました。
「えぇ、いいですよ」
そのいたずらっ子のような表情が気になって、二つ返事で了承をしました。
さて、アスール商会は何を紹介してくれるのでしょうか?とても楽しみです。
「レイチェルさまぁ、聞いてくださいよぉ」
「何ですか、カミラ」
王宮にある、私の私室にカミラが慌ただしく入ってきます。
あの卒業パーティーから早10年。あの騒動の後、私とカミラは友好を深めていきました。意気投合した私とカミラはお互いを名前で呼び合うようになりました。
「レイチェル、入るよ」
ノックと共に入ってきたのは、私の旦那であるこの国の国王であるラウル様。
そう、あの卒業式のあとカミラが私に紹介したモノ……それは、隣国に留学中だった第二王子のラウル様でした。なんでも、当時からアスール商会はラウル様の御用達の商会だったのです。
カミラは前々からバルドメロ様より私と同い年であるラウル様の方が、私に相応しいと思っていたみたいです。
カミラの勧めで、カミラ……アスール商会経由でラウル様と文通を行い……愛を育んでいきました。
そして、ラウル様が一時帰国をした際に、私とラウル様の婚約が発表されました。
一方、バルドメロ様とモブ侯爵令息・ザコ伯爵令息はもちろん廃嫡&勘当されました。
路頭に迷うはずだった三人を拾ったのは……なんとアスール商会。
何でも、今までのツケや慰謝料の支払いのために拾ったらしいのですが、なんと3人とも商会で新たな才能が開花しました。
モブ侯爵令息は漁夫としての才能を開花させ、漁業業界に革命を起こし漁獲量を大幅に増加させました。ザコ伯爵令息は寒さに強い農作物を発見しました。その農作物の苗を飢饉に喘いでいた北の大国に輸出したところ、北の大国の国王に感謝され、友好関係が結ばれることになりました。義弟の……第三王子の婚約者は北の大国の国王の末娘です。
バルドメロ様は、その顔の良さを活かしてアスール商会の広告塔として国内外で活躍しています。バルドメロ様が身に着けると、二割増しで商品がよく見えるそうです。まあ、顔だけは昔からよかったですからね。バルドメロ様も多くの女性にキャーキャー騒がれてまんざらでもない様子です。
そして、あの卒業パーティーで活躍したカミラはというと
「あぁ、グルレ公爵夫人もこちらにいらっしゃいましたか」
「陛下ぁも聞いてくださいよぉ。バーガジャナイノ王国が我が国にぃ戦争を仕掛けようとぉしているんですよぉ!!バーガジャナイノ王国のぉ大使がぁ意気揚々と言っていましたぁ」
グルレ公爵夫人……宰相の妻として私と一緒に、この国を陰ながら支えています。なんでも、あの卒業パーティーで、堂々とバルドメロ様に意見を言っている姿に、宰相の息子であった公爵令息が惚れ、2年かけて口説き落としたそうです。
男爵令嬢から公爵夫人になったカミラにあやかりたいと、貴族・平民問わず生まれてくる女の子にカミラと名付けることが流行りました。
その甘い外見と間延びした喋り方で、頭が弱い女だと侮られがちなカミラは、それを利用して諜報活動に勤しんでいます。
カミラ曰く、
「さすがぁ○○さまぁ。知らなかったぁ。○○さまぁすごい~。っていえばぁ男の人なんて簡単にぃ何でもぉ話してくれますよぉ」
とのことです。
「うむ、分かった。グルレ公爵夫人報告ありがとう。レイチェルはグルレ公爵夫人と共に、社交界で怪しい動きをしている貴族がいないか……裏切り者がいるかどうか監視をしてくれ」
「かしこまりました。ラウル様」
「わかりましたぁ、陛下ぁ。あのぉ…クソ大使…にぃひと泡吹かせて見せますぅ」
「……カミラ、口が悪いですよ」
……公爵夫人となった今でも、たまに口が悪くなるところは変わらないです。
バルドメロが言っていたカミラが突き落とされた件ですが、レイチェルの姿に見とれていたカミラが階段を踏み外しただけです。
ちなみに、バルドメロは側妃、ラウル・第三王子は王妃から産まれました。