【コント】助けて勇者さま
神「ようやく、ようやく見つけました……勇者様」
男「……あなたは?」
神「わたしは地球とは違う世界。アストリアの神です」
男「神さま……?」
神「はい、実は勇者様に救ってもらいたいのです。魔王に滅ぼされかけている我らの世界を」
男「勇者?無理だよ」
神「ですが、貴方には世界を救う特別な力があるのです」
男「特別な力……?」
神「はい。まずは勇者の剣エクスカリバー。斬れないものはありません」
男「無理だよ」
神「天空の鎧が、全ての攻撃からあなたを守ります」
男「それでも無理だ」
神「あなたなら、最強魔法バルデインもすぐに覚えられます」
男「……ごめん、やっぱりできないよ」
神「これだけの素晴らしい武器がそろっているんですよ! どうして出来ないと決めつけるのですか!?」
男「無理なものは無理なんだ!」
神「なぜですか!?」
男「だってワシもう88歳だし!」 ※セリフと共に明転
神「……そこを何とかお願いできませんか?」
男「そりゃできることなら助けたいけど……逆に聞きたいよ。なんでワシでいけると思ったの?」
神「それだけの潜在能力が、あなたにはあるのです」
男「そんなこと言われてもなぁ、この年で勇者はもう無理よ」
神「ですが、エクスカリバーは悪魔将軍たちを一撃で倒す力を持っています。かの剣があれば必ず勝てます!」
男「……見て分からない?ワシめちゃくちゃ腰曲がってんのよ。その悪魔将軍はゲートボールのスイングでは倒せないんだろう?」
神「で、ですが天空の鎧ならどんな攻撃もたちどころに弾き返します。負けることはありません!」
男「全身鎧なんて着たら重さで腰が砕けて死ぬからね」
神「そっ、それなら最強魔法バルデインがあります!一撃ですべてを葬る驚異の魔法です!これならお年寄りでも問題ありません!」
男「……それ、どうやって覚えるの?」
神「はい!まずは蓬莱山の雪解け水で滝行を八時間ほど――」
男「だからその時点で死ぬから!ジジイはそもそもが死にかけなのよ!?冷水に漬け込むとか五秒で心臓止まるから!!」
神「……で、ですが」
男「言っておくけど。ジジイはもうね、魔王城の階段を半分も上がれないよ?」
神「それなら力自慢のお供に担いで行ってもらいましょう」
男「傷口から血をボトボト落としながら「もう薬草は食べたっけ?」って本気で聞くからね?」
神「もちろん優秀な薬師もつけます」
男「深夜に街を徘徊して、酒場の店員相手に暴れるかもしれないよ? ジジイなんて基本、弱いモンスターみたいな生き物なんだから」
神「それでしたら仲間全員に見張りをさせましょう!」
男「それはもう、介護だよ」
神「うっ」
男「どうしてこれまで勇者伝説にジジイが出てこなかったと思う? それはね、ジジイに勇者は無理だからなのよ」
神「……分かり……ました」
男「良かった。分かってもらえたんだね」
神「伝説の介護士も付けます!」
男「諦めてもらえるかな! いないでしょ伝説の介護士とかそっちの世界に!」
神「我々はもう五十年も魔王の侵攻を受けているんですよ!」
男「それなら五十年前に来なさいよ!もう間に合わないよ今からじゃ!」
神「間に合わないなんてことはありません!まだまだがんばりますよ私たちの世界は!」
男「間に合わないのはワシの寿命の方だよォォォォ!!」
神「……どうしても、ダメですか?」
男「無理なものは無理なんだ。すまんね、ワシもう完全完璧にジジイだから。宿屋で寝たら翌朝ワシだけ死んでるレベルのくそジジイだから」
神「そうですか……ああ、すまないアストリア姫」
男「……姫?」
神「おや?もしかして……ご興味がおありですか?」
男「ま、まあ。ちょっとだけ」
神「そうですかそうですか!姫の流れるような金髪は、誰もが憧れる芸術品です!」
男「おお……」
神「その可憐な顔立ちは、咲き誇るバラと言われています!」
男「おおお……」
神「さらにさらに。誰もがうらやむ……あの豊満な肉体」
男「おおおおお……!」
神「そして何より」
男「な、何より?」
神「聞きたいですか?」
男「聞きたい!聞かせてください!」
神「うーん、どうしましょう」
男「お願いします!神様!お願いしますっ!」
神「姫は常日頃、世界を救う勇者様に憧れていました。勇者様になら……全てを許してもいいと」
男「……やる」
神「おお!今なんと!?」
男「やる!」
神「さあもう一度、大きな声で!」
男「ワシ、やるよ!勇者になって魔王を倒すんだ!」
神「ありがとうございます勇者様!これで世界は救われます!さあ、さっそく私たちの世界に来てください!」
男「よし分かった! ちなみに姫様は今いくつなの?」
神「はい! ピッチピチの128歳です!」
男「くそババアじゃねえか!!」
神・男「………………」
男「滅んでくだされ」
神「そんなぁ!」