文学少女は赤い栞の本を抱く
君なら、どう思うだろうか?
「俺は大会に出たい! だからその本を渡してくれ!」
少年は必死に叫ぶ。その前には真っ赤な栞を挟んだ本を持つ少女がいた。碧眼の彼女は困ったように溜息をつき、舌を出した。
「大切な本をただの人間に渡すわけないでしょ?」
「じゃあ、仲間がこのまま動かないのを放っとけって言うのかよ⁉︎」
彼は見渡すと、同じ制服を着た生徒達や先生、野良猫や鴉まで、まるで時間が止まったかのように静止していた。
「いいじゃない、自由にできて。永遠に遊べるし、悪戯もし放題。やりたいことは大体できるわ」
少女は生徒の鞄を奪い、中身をバラバラと落とす。その間も脇でしっかりと本を挟んだまま。
「馬鹿言うな! 一人じゃあ何も楽しくない!」
「あら! 独りが寂しいの? 案外寂しがり屋なのね」
やれやれと首を振っていると、少年が突然驚いたように声を出す。
「ああ! あれは幻のネクロノミコン⁉︎」
「え⁉︎ どこどこ?」
「やりぃ!」
首を振り回すように魔導書を探す少女から本を奪った少年。
「やめなさい!」
彼女の制止を聞かずに、彼は赤い栞を抜き取った。「これで時間が動く!」
赤い栞は空気に溶ける。
少年が出場する大会の日、熱を出した。結局時間の流れを取り戻しても、大会に出られず残念ではあるが、仲間がきっと全国大会の切符を持って帰ってくれる筈。
母が作ったお粥を流し込みながら、ニュースを見ていた。
『会場に向かう○○高校の陸上部のバスが逆走をした車と事故を起こし、運転手を含む全員が死亡しました』
「は? ……はあ⁉︎ 何だよ、それ。意味わかんねえよ!」
少年はスプーンを落とし、悲痛な声をあげる。
「だから言ったじゃない」
あの少女の声だ。少年は重い体を動かし振り返った。
「どういうことだよ! 何であいつらが死ぬんだ⁉︎」
「あの栞は悲劇を止める役割を担っていたのに、お前が栞を取ってしまった事で時が動き、生を選んだ。代わりに仲間が死んだ。お前が終わらない永遠を選べば仲間は死ななかったのよ」
少女は頁を捲りながら説明する。
「じゃあ、俺はどうしたらよかったんだよ」
「私は本が好きなただの女の子よ? そんなこと言われても知らないわ」
「その本で時間を巻き戻せないのかよ……なあ、みんなが生きていた時に戻してくれよ!」
懇願する眼差しに、少女は笑った。
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