7偶然か、それとも……
「ところで、ラノイ君」
「なんですか?」
落ち着いた声でチョウカは尋ねる。
「これからどうするんだい?」
「あー、特に決めてないですね。何の目的もなく旅をしているので」
「そうか。実は僕たちはこの森を抜けて隣国のペイデルに行こうと思っているのだが、良かったらどうかな?」
「え、この森の出口を知っているんですか?」
ラノイはやや早口で問いかけた。
「ああ。この森は何回も出入りしているからね」
「い、行きます。一緒に行きたいです!」
今のラノイにとって願ったり叶ったりの誘いだった。
もともと目的もなく旅をしていたし、チョウカ達と出会わなければ何日もかけて自力でこの森を脱出する予定だったのだ。
それにまだ見ぬ国へも行けるとなれば、むしろこの状況でこの誘いを断る人がいるだろうか。
「よし。そうと決まれば早速出発しよう。まだ明るいが歩きだからな。ペイデルに着くのは夜……いや早ければ夕方には着くな」
こうしてチョウカを筆頭に皆歩き始めた。
木々が所狭しと生え、所々ラノイの腰ぐらいまでありそうな草が生茂るこの森を、チョウカは迷うことなく出口へ向かって進む。
しばらくすると視界が開け、一向は森を出た。
「ほ、ほんとに出れた」
何の遮蔽物もない空を見ながら、ラノイはぽつりと呟いた。
「何回も行き来すれば嫌でも覚えるよ。さ、ペイデルまではもう一息だ、行こう」
再び一向は歩き始めた。
「……着いた。ペイデルだ」
日が段々と傾き、辺りが赤く染まり始めた頃、チョウカたちは目的のペイデル王国へ到着した。
「いやぁ、歩きだと流石に疲れるね」
「私は普段から鍛えてますから、これぐらいどうってことないですよ」
額の汗を拭うチョウカとは対照的に、涼しげな顔でリルは答えた。
「はは、そうですか。ラノイ君はどうだい?」
「も、もう足が限界です」
はあはあと乱れた息を整えながらラノイは質問に答える。
「うん。とりあえず今日は休もう。で、明日から活動しよう」
「そうですね」
「賛成です」
こうしてチョウカ達は宿屋に泊まった。皆慣れない距離を歩いた疲れからか泥のように眠った。
次の日。チョウカ達は宿屋の前に集まっていた。
「さて、僕たちは商品を仕入れに行くがラノイ君はどうする?」
「とりあえず、この辺りを見て回ろうと思います」
「そうか。じゃ、また後で」
そう言い残しチョウカ達は行ってしまった。それを見送った後で、ラノイも歩き出した。
昨日は疲れでまともに見ることができなかった分、ラノイはわくわくしていた。
白レンガが幾重にも積み重なった高く厚い城壁にこの国は囲まれ、それがラノイの目にも意識せずとも映る。
またこの国の中心は土が盛り上がっており、その上に――まわりの木々にやや隠れてはいるが――こちらもまたレンガ造りの城が建っている。
ラノイはこの美しく雄大な景観に思わず見惚れてしまう。
またしばらく歩くと活気溢れる屋台が並ぶ場所に出た。そこから出る煙の匂いは容赦なくラノイの食欲を刺激し、朝食を取ったばかりなのに空腹になってしまう。
そんな幸せが充満する中を歩いている時、ラノイの目に一人の少女の姿が映った。その少女の前には男がいた。
「なあ、いいじゃねえかよ」
「ちょっと、やめてください」
「いいじゃねえか、俺と遊ぼうぜ〜」
「本当にやめてください、誰か助けて!」
通行人や屋台の店主はちらちらとその現場を見てはいるが、誰も助けに入ろうとはしない。
「あん、んだてめえ」
「あ、いや、えっと」
考えるより先に、体が動いていた。
ラノイは少女と男の間に入り、説得を試みる。
「なんなんだよ」
「い、いやがってるから辞めたほうがいいと思うんですが」
「うるせぇ、てめえに関係ねえだろ」
「で、でもですね……」
もしかしたら引いてくれるかもしれない。
そんな一縷の望みをかけた説得も予想通りの結果となった。それどころか男はますます機嫌が悪くなり、指をパキパキと鳴らし始めた。
「そこを、どけ」
「……いやです」
「んだと。さっきからうぜえんだよ! このクソガキが!」
ラノイは脳をフル回転させ考える。
この男の太腕から繰り出されるパンチを耐えることはできない。かと言って今あるのは自分でもまだ理解していない復元魔法のみ。
果たしてこれで男を倒せるのか、ラノイは自問自答する。
それでも、ラノイはそれに賭けるしかなかった。
「しばらく眠っとけ!」
「復元!」
聞き慣れない魔法に、男は拳を途中で止めた。
周りも静まり、行く末を見ている。が、何も起こらない。
「なんだよ、驚かせやがって」
再び男はラノイへ拳を放とうとした。その時
「ぐわあああ!」
そう叫ぶと、男は膝から崩れ落ちた。見ると、男は両膝から出血していた。
「なんで膝から出血が……」
あまりに突然の出来事に、皆困惑していた。
「くそっ、なんだか分からねえが今日はひとまず帰るか」
そう言いながら、よろよろと歩き男は去った。
「あ、ありがとうございます」
ラノイは少女の方へ振り返った。
「お怪我はありませんでしたか?」
「はい、おかげさまで」
「それは良かった。じゃあ僕は失礼します」
「あ、お名前を教えていただいても」
「ラノイ・ルーカスです」
それだけ言うと、ラノイは逃げるようにその場から去った。走りながら、ラノイはさっきの出来事を反芻していた。
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