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1ピンチは突然に

郷に入れば郷に従えと言うことで、追放系始めてみました。


「弱点見つけた。右前足だよ!」

「わかったー」


エルマの報告を受けて、リュゼがモンスターの右前足を切る。するとモンスターはひるんだ様子を見せ、攻撃の手を休めた。


「シュード今だ! 魔法を放て!」

「龍よ、我を依代にし、その裁きの炎を以って眼前の敵を芥と為すことを許可されたし。審判の息吹(ソッフル・ダビダ)!」


魔術師のシュードが詠唱に成功すると、目前のモンスターは赫赫たる炎に全身を包まれた。


「グギャオオオオオオオオオ」


せめてもの反抗にと言わんばかりに咆哮し、それによってダンジョンが微細に振動する。そのうち、炎が消え、灰となったモンスターがその場に現れた。


「よし、討伐完了だ。みんなお疲れ」

「今ので魔力切れちまった。おい、ラノイ、いつもみたいにさっさと回復しろ」

「あ、はい」


ラノイは言われるがままシュードに近づき、手をかざし、魔力を回復させる。

回復が終わると、シュードは不満げにラノイを見上げながら怒号を飛ばす。


「ちっ、毎度毎度すくねーな。いつになったら完全に回復できるようになるんだお前はよ!」

「やめろシュード。それもいつものことじゃないか」


この満月の微笑み(スフィアルーン)のパーティーを束ねるリーダーであり、タンクの役割も兼ねているクランクが、シュードを制した。


「でもよぉ、クランクさん……」

「ラノイ、もういいから他のやつの魔力も回復させてこい。あと、モンスターの素材を確認しといてくれ」

「は、はい」


ラノイは急いで残り二人の魔力を回復しに行った。

一人目は、岩陰に座り休んでいる剣士のリュゼ。黒髪黒目で華奢な体つきだが、そこからは想像できないような剣さばきが彼女の強みで、今回の討伐にも貢献している。


「リュゼさん。回復します」

「あ、うん」


そしてシュードと同様に回復を終わらせると、もう一人のパーティーメンバーである斥候のエルマの下へ向かった。


エルマは金髪青眼で、背丈はリュゼとそれほど変わらない。地形や敵の状況はもちろん、弱点まで見抜くことが出来てしまう彼女の斥候としての能力は、パーティーでは大変重宝され、即戦力となっている。


「回復するよ、エルマ」

「ん、ありがと」

「よし、みんな帰還するぞ」


クランクの一言で、全員が出口へ向かって歩みを進める。

ラノイはクランクに言われた通り素材を確認、そして入手し、申し訳なさそうにその後ろをついて行った。






その晩、報酬を得た満月の微笑みは街の宿屋に泊まり、皆クランクの部屋に集まって、勝利の余韻に浸っていた。


「今日も大活躍だったなエルマ」

「いやいや、私なんて……」

「でも、エルマの報告なかったら、モンスター倒れなかった」

「おいおい、とどめを刺したのは俺だぜ」

「みんな良くやってくれたよ。ってあれ、ラノイは?」


クランクが部屋を見渡すが、どこにもラノイの姿はなかった。


「おい、ラノイどこか知ってるか?」

「あいつなら、一足先に自分の部屋に戻ってます」


とっさにエルマが伝える。


「あ、そういや、ラノイのことなんだけどさ」


不意にシュードが話を切り出した。


「あいつ、いい加減このパーティーから追放してもらえないすか、クランクさん」

「おまえは最近そればっかりだな」

「だってホントに使えないんすもん、あいつ」

「勝手に決めつけないであげてよ!」


割って入るようにしてエルマがシュードに意見する。シュードはぎろりとエルマを見て、


「あのな、エルマ。俺はもううんざりなんだよ。このパーティーが出来て半年、俺たちが成長している一方で、あいつは全然成長していないだろ。これまでだって、何度か追放しようと提案してきた。でもそのたびにラノイの幼馴染みのお前が、あと1回チャンスを、あと1回チャンスを、っていうもんだから俺もこうして我慢してやったんだ」


と言い放った。そして、一息つき、シュードは酒を流し込み、再び話し始めた。


「でももう我慢の限界だ。魔力すらろくに回復することも出来ないような回復術師がこの先もいられたら、俺らみたいな魔術師はもちろんのことこのパーティーの皆不安なんだよ」

「でも、でも……」


エルマが何か言いたげではあるが、うまい言葉が見つからずしどろもどろしてしまう。


「でもじゃない。これから先より強いモンスターと出会ったとして、このままあいつをおいておくのは、パーティーにとって利点がない。違うか?」

「…………」


ぐうの音も出ない論理の展開に、エルマはただ黙るしかなかった。


「リュゼはどう思っているんだ?」


おもむろにシュードはリュゼに尋ねた。


「うーん、別に、どっちでもいい」

「じゃあクランクさんは?」

「だけどシュード、回復術師がいなくなった方が危険じゃないか?」


追放に加担するのを恐れてか、さりげなく話を逸らす。


「それなら心配いらないっすよ。実は、俺のツテで、このパーティーに入りたいっていう回復術師がいるんです」

「お前、本当はそっちがメインなんじゃ……」

「まぁそれもあるんすけど。でも、ラノイの話は真剣です」

「そうかぁ。まいったなぁ」


しばしの沈黙の後、クランクがしゃべり出した。


「よし、三日後のモンスター討伐の時にそいつも連れて行こう。で、ラノイとその新入りどっちが有能かみんなで改めて決めよう。それでいいか?」

「おっけー」

「了解です。ま、結果はわかりきってますけど。」

「エルマもそれでいいか?」

「……分りました。」

「よし、じゃあ今日は解散。すっかり酔いが覚めちまった」


かくして、各々自分の部屋に戻り、眠りについた。

しかしエルマだけ、中々寝付くことが出来なかった。

評価のほど、お待ちしております。

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