-The world left by Alice-
よろしくお願いいたします。
-ある日 AM7:00-
「おはよう諸君。そして、入学おめでとう。」
教卓の前で仁王立ちする教官ネヴァは、始めに軽い賛辞を口にした後、諸君の教官である、と告げた。
紺色の教官服は襟まで美しい装飾があしらわれており、
それに覆われた彼女の引き締まった体と、
金髪の長髪を綺麗に纏めたアップヘアー、
丸眼鏡の奥の碧眼が目立つ整った顔立ちは、
まるで精巧な人形を思わせる美しさと大人の女性の妖艶さを醸し出している。
腰には、黒皮の持ち手にグレーの木製の本体の短杖が仕舞われている。
ネヴァは優しくも強い視線で、40人規模の教室に集められた"新入生"を見つめ、続ける。
「ようこそ我らが"魔術兵学校"へ。10人に1人ほど生まれる"魔法を使える人間"の中で、特に優秀な魔力を秘めたものだけが、この魔術兵学校兼魔術兵団基地"アントヒル"で学び、そして民を守る兵としての勤労を許される。」
教卓から離れ、"新入生"が座る机の間をゆっくりと歩きながら、さらに続ける。
「日々、この移動都市"タートル"は、各国に魔具を主とする物品を輸送する貿易中枢として、文字通り"大陸を歩いている"わけだが、それに伴い"魔獣"や"魔獣嵐"との遭遇と接触は、他の国々のそれとは段違いに多い。」
教室の奥で私語に勤しんでいた者の耳をつまみあげ、静かになったのを見計らったのち、さらに続ける。
「そこため我々兵団は常に鍛練をし、君たちのような才能ある若者にその技を教え、兵団の強さを維持するように努めているわけだ。」
再び教卓の前に立ったネヴァは、軽い微笑の後、話を締めくくる言葉を話す。
「"創世者アリス"の心を胸に、自分を磨き、自分を守れ。そして誰かを守れる力を、これからは重々磨いてほしい。君たちに期待する。これからここでよろしく頼…!」
一瞬、話す言葉の最中に窓の向こうを確認したネヴァは腰に仕舞っていた杖を振り抜き、反射的に自分と新入り達に魔法障壁を展開した。
途端、教室の外側の窓が粉々に砕け散るとともに、"何か"が塊となって教室に突入、床を横断し、内側の窓の下まで転がりこんだ。
衝撃で壊れた机に座っていた者は唖然とし、
転がった際にめくれ上がった床の下の埃が尋常ではなく舞い上がり、
"何か"を隠している。
この間ネヴァは警戒し、魔法障壁を展開したままであったが、埃の中から聞こえるむせる声を聞き、ため息を漏らしながら障壁を消した。
「ゲホゲホ…いてて…なんだよーもう!全然使い物にならないじゃん!」
埃まみれの何かはボロボロの床に後ろ手をついた体育座りのような格好で、
埃まみれの支給されたての制服のスカートを叩き、
埃まみれの唐紅色のショートボブを揺らし、
悪態をついている。
腰には、キャラメル色の皮の持ち手に、それより濃いキャラメル色の木の本体の短杖が仕舞われている。
黒地の生地を金色の糸で編み、装飾部分も金色であしらわれた、軽装戦闘服も兼ねた制服は、他の新入生の物と同じと思えないほど埃を被り、ほとんど灰色に見えるほど、この惨事で汚れている。
それを纏う姿は、冷静であれば容姿こそ整って見えるものの、状況がそう思わせてはいなかった。
回りには掃除用の箒だったものが木っ端微塵になり散乱しており、彼女が被っていたであろう古くさい魔女帽子は、
「ア……アア……ア……」
と、今にも生き絶えそうなうめき声をあげている。
「アハハ、ダニエルは大げさだなぁ。こんなので死んでたらこれから先の兵員人生、生き残れないよ?」
舞った埃が落ち着き、中から悪びれもしない調子の良い言葉を魔女帽子ダニエルに投げ掛けるその娘は、大きな黒い瞳をウインクして見せている。
傍らに、これから先の兵員人生、頭の上がらない教官が見下げていることに気が付いていない様子で。
「やあ、ミィ・ライダー。鞍もついていない箒でよくもまぁ、400メートルの高さまで飛び上がり、窓を突き破ってまで登校してくれたね。君の登校意欲には感服するよ。」
ネヴァは、ねぎらうようにゆっくりと、はっきりと、一言一句丁寧な言葉を彼女に向けた。
ミィ・ライダーと呼ばれた彼女は、一瞬ピクリと体を震わせると、恐る恐るネヴァに顔を向けた。
「お、おはようございます教官。い、いやぁ、ここまで飛べたのは日々の絶え間ない訓練のお陰でありまして…ハハハ…」
ミィは後頭を掻きながら、照れたような顔をして見せた。
教官の後ろでは、魔力が溢れて蜃気楼が見えている教官の後ろ姿を、青ざめた顔の新入生が震えながら見つめており、
たった1人、窓際に座る蒼髪碧眼のショートレイヤーヘアーの娘は、ミィーの顔を見ながら笑いをこらえて震えている。
こうしてこの朝、ミィ・ライダーを含めたネヴァクラスの新入生全員が、この教室に集まった。
ありがとうございました。
書き留めたら、続きます。