アリサ6
ガーデンパーティーが始まっても時折オルドリーネの視線を感じたが、エミリアと一緒にいるせいか近寄っては来なかった。
チョコレートを食べに行きたいが、面倒なことになりそうな気配がするので諦めた。
よし、首飾りを売ったお金の一部でチョコレートを買おう。
当然妹の分も買って二人で食べるのだ。
そうしよう。
「アリサ、夢の世界からは帰ってきたかしら」
エミリアが私の顔の前でひらひらと手を振っている。
「ごめんなさいエミリア、なに?」
「マリーナ様がお話があるそうなの。どうしても嫌なら断るけれど?」
ぐっと近づいてきたエミリアが耳元でささやく。
数歩離れた所にマリーナ侯爵令嬢が一人で立っていた。
いつもいた取り巻きの人たちは見当たらない。
何で厄介ごとばかり起こるのだろう。
混沌の女神にでも魅入られているのだろうか。
「話すだけなら大丈夫よ」
エミリアは断っても良いと言ったけれど、同じ高位貴族でも伯爵家と侯爵家には明確な差がある。
こんな事で迷惑はかけられない。
私はマリーナ様の後ろをとぼとぼとついて行った。
そして会場の人気のない場所につくと彼女は立ち止まりくるりとこちらを向いた。
「貴女、転生者なの?」
テンセイシャ、聞いたことのない言葉だけれど何処で区切るのだろうか?
天施医者、天星者?
天星者はなんとなくかっこいい感じがするが、それはともかく無理矢理文字を当てはめても意味は通じない。
ブルシュバーン家が治める地方も独特な方言や、お母様が広めたお約束言葉などがいっぱいある。
彼女の地方ではそれで通じるのかもしれないが、よその人には分からない言葉なのだろう。
我が家の特産品の一つである象牙細工のゾウゲという言葉もその一つだ。
象牙細工と聞けば、普通はゾウゲと言う物に細工を施したと思うだろうが、あれはモンスターの骨や牙を削った物だ。
ゾウゲなどという物は存在しないのだが、発案者であるお母様がそう名付けたのだ。
お母様の命名し、広めた物は総てにおいてよく分からない。
ゾウゲもそうだがリポGや高カロリーマイトなども意味不明だ。
私と妹の名前はお父様が付けてくれた。
グッジョブお父様
「貴女、聞いているの。なんとか言いなさい」
しまった、また彼方に意識を飛ばしてしまっていた。
とりあえず答えを返そう。
「なんとか・・・」
「貴女馬鹿にしているの!」
お約束言葉を返したはずなのに、どうやら余計に怒らせたようだ。
これが地域格差というやつなのだろうか。
「申し訳ございませんマリーナ様、私の地方では”なんとか言え”と言われたら”なんとか”と答えるのが通例で、馬鹿にするつもりはございません」
馬鹿だとは思っているけれど。
「そんな話聞いたことがないわ」
「辺境の方言のようなものですのでご存じないとは思います。わたくしもテンセイシャと言う言葉が何を意味するのか分かっておりません。それと同じ事だと思われます」
「では貴女の家が作っている象牙細工は何、象牙なんてこの世界にはないはずよ」
「ゾウゲと名付けたのは母でございます。わたくしには詳しいことは分かりません」
「お母様・・・では今度貴女のお母様に会わせなさい」
「申し訳ございません。母は二年前に遠くへ旅立った為ご要望に添うことが出来ません」
「・・・そ、そう。戻って良いわ」
質問された事の意味は全く分からなかったけれど、とりあえず面倒ごとは回避できたようだ。
だから私は油断していたのだろう。
エミリアの所に戻る途中でチョコレートを持った給仕につられてデザートコーナーに行ったりしなければこんな事にはならなかったはずなのに。




