アリサ5
あれから数日がたったが私の周りは平穏である。
まあお父様に外出を止められて外に出ていないから当たり前ではあるのだけれど・・・
そんな安穏とした日々を過ごしていた私に王宮から一通の招待状が届いた。
王妃様が主催するガーデンパーティーに出席せよ。
平たく言うとそんな手紙だ。
この招待状は王都にいる一定年齢以上の貴族令嬢全員に送られたらしいので、とても大規模でゴージャスなパーティーになるだろう。
とは言ってもさすがに人数が多いのでグループ分けがされており、私が参加するのは二十歳以下の未婚者のグループだ。
なぜ二十歳以下と但し書きがあるのか。
単純に二十歳をすぎて未婚のものは行き送れと呼ばれることがある。
それに三十、四十代の未婚者もいないわけではないのだ。
私、婚約者どころか男性の友人すらいないけど大丈夫かな・・・
慌ただしく数日が過ぎ、ガーデンパーティーの日がやってきた。
「くれぐれも粗相のないようにな。それとなるべくエミリア嬢とご一緒させてもらえ。一人でいるとまた厄介ごとに巻き込まれないとも限らん。気を付けるんだぞ。何かあったら午前中は騎士団にいるからね」
「お父様は心配しすぎよ」
「お姉ちゃんいってらっしゃい」
「行ってきます。お土産話を期待しててね」
心配性のお父様とかわいい妹に見送られながら馬車に乗り込んだ。
今回は参加者は女性だけだし、王妃様主催のパーティーで騒ぎを起こすような馬鹿がいるはずもない。
王妃様主催のガーデンパーティーは先日の侯爵家のガーデンパーティーよりゴージャスなはずだ。
今日こそあの日食べ損ねたチョコレートを食べるのだ。
しばらくして馬車は王宮の前にまでやってきた。
城門の衛兵に招待状を見せ、臨時の通行許可書をもらって中に入る。
まだ薄暗い中、馬車止めにはすでに数台の馬車が到着していた。
下っ端は高位貴族の邪魔をしない為に朝早くに来て、下級貴族用の待合室で待たねばならない。
そうしないと王宮の場所止めが広いと言っても混雑してしまう。
ブルシュバーン家はモンスター討伐で一目置かれており、モンスターの生息地と接する南部では発言力があるけれど下っ端には変わりない。
パーティーの開始まで、まだかなりの時間がある。
高位貴族であるエミリアはまだ来ていないだろうから、待合室で本が趣味の人を探してみよう。
待合室にはすでに多くの令嬢たちがひしめきあっていた。
香水の匂いで酔いそう・・・
「貴女、それを返しなさい!」
突然胸ぐらを掴んできた美女が訳の分からないことをのたまった。
「はい?」
この女性には見覚えがある。
ガーデンパーティーの会場や王立図書館でマリーナ侯爵令嬢と言い争いをしていた人だ。
まあそれは分かるのだけれど、返せって、何を?
「そのサファイヤの首飾りは私の物よ。返しなさい」
「この首飾りは正式に贈り物としてさる方からいただいた物です。何か思い違いをなさっているのではなくて?」
「それはシュキエルがくれるって言っていた首飾りよ。似合いもしないのに何であんたなんかが付けているのよ」
どうやらオットーハイム侯爵は息子が用意していた贈り物を私へのわびの品として持ってきたようだ。
とは言ってももらったのは私なのだから関係はない。
そもそもそんな言いがかりでこんな高価な物を渡せるわけないだろう。
私は首飾りへと伸びてきた手をぱっと払いのける。
普段の彼女はたくさんの求婚者に囲まれており、事の善悪を問わずこんな態度で接すれば男たちに取り囲まれていただろう。
だがここに居るのは女性だけなので、冷たい視線が彼女に降り注ぐだけだ。
彼女は頬を膨らませて去って行った。
お父様、心配しすぎって言ってごめんなさい、また変なのに絡まれちゃった。
先日遊びに来てくれたエミリアからの情報によると、彼女の名前はオルドリーネと言い、我が家とは王都を挟んで反対側にある男爵領のご令嬢だ。
家格は高くないが、その容姿と妖艶な仕草であまたのご子息を虜にし、美の女神とか呼ばれているらしい。
彼女に求婚している男性に、婚約者がいる者が多数含まれている為、総ての女性から反感を買っているそうだ。
特にマリーナ侯爵令嬢と仲が悪く、私も二度ほどその場面に遭遇した。
マリーナ侯爵令嬢は彼女に籠絡された第二王子の婚約者であり、容姿に関しては何というかあれだけれど領地経営に才覚を発揮し、自領だけでなく周辺の領地にも惜しみなく手を差し伸べて大規模に産業を発展させた事により、こちらは聖女と呼ばれ信仰されているらしい。
私個人としては、どちらも人のことを殺しかけて謝罪の手紙もよこさない屑だと認識している。
それはともかくこの首飾り、帰ったら売り払って新しい物を買おう。




