アリサ4
エマは二人を殺してはいなかった。
本棚の影から急襲し、従者の男を足払いから首を掴んで床にたたきつけ、更に顔面を数発殴って意識を刈り取った。
高位貴族の子息の方はそれを見て勝手に気絶したそうだ。
まあそれでも大変なことをしてしまったことには変わりは無い。
屋敷に帰ってお父様に事の次第を報告すると、私もエマも怒られること無く妹や他の従業員の女性たちと共に屋敷の三階に上げられた。
男たちはお父様の指揮でかがり火をたき、ハルバードを持って屋敷の周りを警戒している。
一部は逃げる為の馬を調達するために町へ散った。
青い顔で大変なことをしてしまったと呟くエマに私は”助けてくれてありがとう”、妹は”お姉ちゃんを守ってくれてありがとう”、他のみんなは”よくやった!”といって励ました。
そして翌日・・・
お父様に呼ばれて屋敷の門前までやってきた私の前に、あの時の男と従者が簀巻きになって転がっていた。
別に私たちがなにかしたわけではない。
立派な馬車の前に立つオットーハイム侯爵が、わびに来たと言って門前にこの二人を転がしたそうだ。
踏んでも良いらしい。
いや踏まないけどね。
「アリサ嬢、愚息が迷惑をかけたようだ。こいつは更生するまで領地から出すつもりはない。それとこれはたいしたものではないが受け取ってほしい」
オットーハイム侯爵の後ろに控えていた従者が見るからに立派な宝石箱を持って私の前まで来た。
オットーハイム侯爵と直接の面識はないが、服装から察するに高位貴族の中でもかなり上の方だろう。
そもそも侯爵なのだから家とは比べものにならないくらい上位である。
本人が頭を下げたりすることはなかったが、下位である私たちの所に直接出向いて謝罪の言葉を述べるだけでも異例なことだ。
簀巻きの二人にはちょっと引いたけど。
とにかくこれを突っぱねたら恐ろしい事になる。
私は箱を受け取って丁寧にお礼を述べた。
オットーハイム侯爵は頷き、きびすを返して馬車に乗り込む。
簀巻きの二人は従者たちが抱えてもう一つの馬車に乗せた。
去って行く馬車を見送りながら、ほっと胸をなで下ろす。
「良かった~」
私はその場にへたり込んだ。
「わしもヒヤヒヤしたぞ。こんな時はかあさんがいてくれたら心強いんだがな」
お父様はそう言いながら片膝をついて笑顔で頭をなでてくれた。
確かに遠くに旅立たれたお母様がいてくれれば騎士が攻めてこようと怖くはない。
だがそれは望んでもかなわぬ事だ。
とにかく一件落着したのだろう、きっと。
ちなみにお詫びとしてもらった宝石箱は金で装飾されており、更に小さいながら宝石がはめ込まれていた。
それだけでも十分な価値があるのだが、その中には立派なサファイヤの首飾りが入っていた。
これの価値ってチョコレート何個分だろうか・・・




