第2話
俺の着せ替えゲームも終わり他のみんなも防寒着を確保したため、一応ルクーツでも情報収集をする事になったのだが、俺が聞けた情報は“ある日大きな地震が起きた”ことと、“その直後に魔物が襲ってきた”ことぐらいであり、他の町と何ら変わりはない状況だった。
「何か情報は得られた?」
「いや、特には。これといって変わったこともないらしい」
ただの通過点であるこの町に特に期待をしていた訳でもないが、全く何もないというのも少々拍子抜けするものだ。僅かに肩を落としたグレイ達を眺めながら荷物を纏めていたニールは、そんな雰囲気を切り替えるように声を上げた。
「じゃあ、明日は予定通りラデルに向かうんだね」
「そうだな。数日ぶりに歩くから、しっかり休んでおくんだぞ」
マリノからポルトビ、ポルトビからルクーツまでは、数日かけて航海してきている。その間、町の探索や情報収集でしか歩いていなかったから、少し身体の鈍りを感じていたのはたしかだ。
改めて旅の準備を始めたみんなや、腕や脚を動かし体を慣らすようにストレッチを始めたヨシュを見習い、俺も町を見て回りながら少し体を動かすことにした。
◆◆◆
ルクーツはそれほど大きな町ではない。港もあるが観光目的の人間は少ないため、町の中にも酒以外の娯楽は見当たらず、ウェートルのカジノを見て来たばかりの俺にとっても、かなり落差を感じざるを得ないのどかさである。そもそも、数か月とはいえ魔物の襲撃があったのだから娯楽がないのも仕方がない。
旅人である俺達が、町の中を悠々と歩けているだけマシと言うものだ。
「――いえ、人違いです」
そんな町の中を散歩していた俺の耳に、聞き覚えのある男の声が届く。条件反射でつい声の聞こえた方向に目を向ければ、そこには買ったばかりの防寒着を纏ったアキと、見覚えのない女性が話している様子が見えた。
が、どうやら二人は和やかな雰囲気で、楽しくお喋りしていたわけでははないらしい。困ったように首を振ったアキと、それを悲しい目で見つめる女性の何とも言えない光景を目にした俺は、その違和感のある様子に思わず首を突っ込んでしまったほどだ。
「そ、そう……」
「おい、どうしたんだアキ?」
「ハルさん……ええ、すみません」
俺が声を掛けた途端、逃げるようにその場を去っていった女性を見送りながら立ち尽くしているアキのそばまでよれば、彼女は緊張を解くように小さく息を漏らし肩の力を抜いたようだった。
「……なんだ、あのおねーちゃん?」
「さあ、私を誰かと勘違いされていたみたいですが……」
なるほど。アキが困惑しているようにも見えるのは、その勘違いが理由のようだ。
クランドで俺が【シェリー】という富豪の少女に間違われたのと同じく、アキも誰かに間違われたということなのだろう。そういえば、アキは俺と会う前にも同じようなことがあったと語っていたが、もしかするとそのアキの空似の人物はこの町の人間なんだろうか。
そう考えると、俺達がこの町に長居するのはあまり良くない気がした。
「ハルさん?」
「ああ、いや……暗くなってきたし、宿行こうぜ」
「ええ、お手数をおかけしました」
アキの方はそこまで考えていないのかは分からないが、すぐに切り替えいつも通りの表情の分かりづらい顔に戻ると、宿に向けて歩き出す。
その後を追いながら、俺はまた恐ろしい考えに至りそうな自分の思考を何とか振り払うように首を振った。