第9話
「ウェートルのカジノで遊んでいいなんて、スティプルドンさんも太っ腹ね~」
正気に戻ったスティプルドンに詫びとして俺達に与えられたのは、ルクーツまでの足と、島一番の高級宿のスイートルームと、ウェートルのカジノの無料遊戯権だった。いくら何でも太っ腹が過ぎると思うが、せっかくの厚意を無下にはできない――などと口では言いながら、なんだかんだ現金な俺達は大喜びで遊ばせてもらっていたのである。
「大したもんだな、おまえら……」
「そっちも大変だったんでしょ? 怪我はしてないの?」
「問題ない。そもそも、こっちは戦闘に特化しているからな」
このゲームはニール視点で進むため、屋敷内の潜入した女性陣だけが危ない目に遭っていると思われるが、実は屋敷の外でどうにか潜入出来ないか探っていた男性陣とロアも魔物に襲われていたのである。とはいえ、広い屋外で戦う分には問題のない連中ばかりであるため、難なく掃討していたのだから、流石と言う他ない。
「こっちもすごかったのよ、ニールが」
「や、やめてよフィー……! 恥ずかしいから……」
そんな武勇伝を語り合いながら、俺が寝室に連行された際のニールの慌てぶりを晒そうとしているフィーの意地の悪さよ。いや、これは可愛がりという奴だろうか。
「あ? なにやったんだ、こいつ?」
「それがね……」
「わー!!」
ニールとしては恥ずかしい出来事になってしまったらしく必死に止めているが、これはしばらく弄られるやつだろうな、と俺は内心同情しつつ一切助けるつもりはなかった。
そんな会話で盛り上がりつつスロットを楽しむ若者達の横で適当にダーツをしていた俺とアキは、互いに死んだ魚の様な目で苦笑を浮かべていた。もうなんというか、色々あって疲れた一日だったと言うしかない。
「……暴れたのに、元気な奴らだな」
「ハルさんも大変でしたね。まさか、敵の寝室に連れ込まれるなんて」
「悪夢だったぜ……」
「ふふふ、色々とご無事でよかったです。ニールくんが暴れるのも、当然ですね」
何が色々だ、何が。と突っ込んだが最後、最低最悪の出来事が想像されてしまうから、俺は何も言えない。元々女の子であるアキとしてもあまり笑い話には出来なかったのか、必死の形相で助けに入ったニールのことはいつも以上に称賛していたところからも、その心境が窺えるだろう。
男の俺でも正直怖かったんだから、それを理解してもらえて嬉しいというか、有難いというか。
「まったく……甲斐性のある男だよ、あいつ」
「当たり前ですよね」
「なんでお前が誇らしげにしてんだよ」
とはいえ、ニールを褒める度に自分の事のように胸を張る彼女の気持ちは、俺には分からなかったが。