第6話
広い部屋に通された俺達は、中で待っていたすらっとした出で立ちの見た目だけは上品そうなおっさんの前に並ばせられ、とりあえずじろじろと眺められていた。
ちなみにこのおっさんが、件のスティプルドンである。
「ふむ、ふむふむふむ……少々若いようだが……ふむ、なかなか……」
たしかにこういうイベントだったが、流石に自分が見られる側に立つと気持ち悪さが半端じゃない。
女の子はいつもこんな視線に晒されているのか――と、現実逃避気味に考えながら、こんな気持ち悪い思いをさせてしまうぐらいなら、これから女の子をいやらしい目で見るのは止めようと俺は強く心に誓った。
「よし、全員合格だ。まずは茶髪の君、奥の部屋に来なさい」
「え? あ、はい……」
「……何かあったら、大きな音を出しなさい」
本来ここはメディナが呼ばれるところなのだが、何故か俺にご指名が入ってしまった。富豪のおっさんに値踏みされた挙句に他に誰もいない部屋に連れ込まれるなんて、十中八九危ない予想しかできないが、まさかその被害に遭うのが俺になろうとは誰が予想出来ようか。
とはいえ、別にメディナも何かされる前には救出されていたのだから俺も大丈夫だろうが、救援の合図を耳打ちしてきたメディナに頷き返した俺の顔は真っ青だっただろう。
◆◆◆
「さあ、そこにお座り」
「は、はあ……」
その部屋にはやたら派手な大きなベッドと、金ぴかで派手に決め込んだ悪趣味な家具が勢揃いしていた。勿論、俺が手招きされて腰を下ろすことを促された先は、そのベッドの上である。
正直嫌な予感しかしないが、まだ何の情報もつかめていないから、抵抗するわけにもいかないため、大人しく腰を下ろすしかない。とはいえ、どうやって話を切り出そうかと考えていた俺だったが、そこは都合よくスティプルドンの方から突っ込んでくれた
「それで、私に何の用かね? 銀髪の子供と紫髪の美女は、私の屋敷を嗅ぎまわっていただろう」
「……分かってんだろ? あんたとエディ、どういう関係だ?」
「ふむ、彼の話か……彼は私が出資をしている相手だよ」
スティプルドンがエディのパトロンであるという情報は、ゲームでもこのイベント中に判明する事実だ。そんな重要な情報を意外とあっさり白状してくれたのはありがたいとはいえ、悪役が素直に情報を吐く時は、大抵ろくなことにならないのが世の常である。
悠長に構えていたら俺の身が危ないことは分かっていたから、すぐにベッドから離れ、スティプルドンと距離を取った。
「へぇ……で、その対価は?」
「そう簡単に言うと思うかね?」
「いや、思わねぇな……っていうか、そんな話をするためにわざわざ芝居売ってんのかよ、あんた」
「これだけのために、するわけがないだろう? 君達はみな、魔王様への捧げものにさせてもらうのさ」
この、魔王への捧げものという言葉の意味はよく分からないが、大方生贄にでもするつもりなんだろう。
「……あんた、狂ってんなぁ」
「そんなに悠長に構えていていいのかね? 向こうの彼女達は、既に私の私兵で――」
勿論ニール達がここで魔王への捧げものにされることはないが、部外者の俺はどうなるか予想できない。だから、会話で時間を稼ぎながら、外の三人に合図をしようと考えていたその時だった。
「ハルさん!!!!」
「……私兵で、なんだって?」
スティプルドンの計画では、俺達を互いに人質の状態にして身動きを取れないようにしたかったんだろうが、残念ながら外の三人は俺より強い。
血相を変えて部屋に飛び込んできたニールの姿を見て、スティプルドンは酷く狼狽え俺の腕を掴もうとした。
「な、何故無事なのだ!? 兵達は――うぐっ!?」
「こいつらがただの兵士に負けるわけねぇって……あと、俺を人質にしようとしたのも失敗だよ。あんた」
が、俺も今更おっさん一人にどうこうされるほど貧弱なままではない。逆にスティプルドンの腕を捕まえて、背負い投げの様に床に叩きつけると、おっさんはすっかり伸びてしまった。
「馬鹿ね、スティプルドン。その子、怪力なのに……」
いくら自業自得とはいえ、その様子を眺めていたメディナにまで苦笑されたスティプルドンは、少々不憫である。