第5話
メディナが張り紙を見つけてから数時間後、俺とメディナとフィーは普段の機能性重視のものより落ち着きのある服装に着替えていた。
「――それで、なんで俺がこの姿なんだ」
「容姿……でしょうか」
俺達が着替えた理由はたったひとつ。スティプルドンの屋敷勤めのメイドを募集している、という張り紙をメディナが見つけたからだ。メイドだから行けるのは女性のみ、つまり見た目の性別が女の俺も当然行くことになってしまったのである。
「まあ、可愛いもんな……俺」
「よくお分かりで」
「分かりたくねぇよ」
いつもの格好では色々と難があるため、俺が着替えさせられるのは分からなくもない。分からなくはないのだが――
「それより、そっちはなんなんだよ」
「ううぅ……どうしてボクがこんな格好を……」
「容姿……でしょうね」
ニールまで女装させられているのは、何故なのか。いや、たしかにゲームでもあった展開だが、あれは何かあった時のための戦力として強制参加させられていた筈だから、最近目を瞑らずに敵にとどめを刺せるようになった俺がいればいいんじゃないか。
と言えれば、どれ程良かったか。結局のところ、俺よりもニールの方が何倍も戦力としては当てになるため、女装は免れなかったようだ。どこまで行っても不憫な奴である。
「まあ、可愛いもんな……お前」
「よくお分かりで」
「だから分かりたくねぇんだよ」
それを満足げに眺めているアキは何を考えているのか、俺には分からないし、分かりたくもなかった。
「ほら、ふたりとも行くわよ」
「わかったよ……おい、泣いてないで行くぞニール」
「うう……」
「みなさん、お気を付けて」
屋敷に潜入するのは、俺、ニール、メディナ、フィーの四人。残りの四人は、屋敷の周囲から入れないか探索するらしい。一緒に来れなかったロアだけは不服そうにしていたが、何かあってからでは遅いため、今回ばかりは我慢してもらおう。
◆◆◆
メイドの募集を見て来たと言った途端に歓迎され屋敷内に通された俺達は、執事と思われる男の後をついて歩いていた。
スティプルドンの屋敷内は、いかにも富豪の豪邸と言わんばかりの派手な装飾があちこちに見て取れ、庶民の俺としては見ているだけで胸焼けしそうな程にどこもかしこも金ぴかだったが、フィーは物珍しげにきょろきょろと見て回っているため、勝手にどこかへ行きそうで危なっかしくて仕方がない。
「……結構、簡単に入れたな」
「人手が足りないって書いてあったの、本当なのね」
富豪の屋敷に務めるメイドをわざわざ一般人から募集している事といい、警戒心ゼロで俺達を屋敷に入れた事といい、怪しさ抜群の求人だが、フィーは特に疑う様子もない。
「だからって、メイドの人材をあんな雑に募集するってのも、なんというか……」
「罠でしょうね」
「だよなぁ」
が、メディナはこれが罠であることを既に見抜いていた。俺も勿論知っていたし、たしかニールも屋敷に入った時には既に気付いていた筈だ。つまり、フィーだけが何も知らずにここまで来てしまったという事になる。
といっても、服の下に武器を隠しているから、問題はないのだが。
「えっ……? 罠なの?」
「罠だよぉ……こんなの考えられないもん……」
「悪趣味な罠だよな……女だけ狙ってんだろ、これ?」
「ま、罠なんてそんなもんでしょ。ほら、準備だけはしておいてよ」
女装させられたことがよっぽど恥ずかしいのか、もじもじとしているニールでさえ気付いた屋敷の異常を見抜けないフィーにはいっそ感服するばかりだが、俺も何も知らなければ馬鹿正直に信じていた可能性があるから、ここは余計なことは言わないでおいた。
「えええ……罠なのぉ……?」
そうしてこそこそと話をしながら、執事の後をついて行き、俺達は屋敷の奥の部屋に通されたのだった。