第3話
「ところで、お前。ヴァルヴァラの転移の時、なんで俺を庇ってたんだ?」
最近アキと二人きりで行動することがなかったためすっかり忘れかけていたが、あの転移魔法を掛けられた時にこいつは俺を庇っていたのだ。しかもなんの危険もないと分かっているにもかかわらず、である。
何故そんな事をするのかまるで分らなかったから、せっかくだし聞いてみようと思ったのだが――
「ああ、いえ……なんとなく」
「なんとなく」
「緊急時に自分より小さな子が目の前にいたら、思わず庇ってしまうものじゃないですか」
「あ、ああ……まあ、それは分かるけどよ……」
咄嗟の出来事とはいえ、アキまで俺を可憐な美少女扱いしてくるなんて、どんな顔をしながら聞いていればいいのか分からない。恐らく、今の俺は心底複雑な顔をしていただろうが、アキもアキで思い返して気まずさを覚えたのか、珍しく視線を逸らしている。
「あなた、中身は年上の男性でも、見た目は可憐な少女ですから……つい」
「そ、そうか……うん……ありがとよ」
とはいえ、納得いかないものは納得いかない。アキを責めるわけにもいかないが、あまりにも悲しい理由だったことに、俺は聞くんじゃなかったと心から後悔していた。
◆◆◆
その後、数時間ほど島の西を探索しつつ聞き込みをしていたが、旅行者の出身地の被害状況やこの島の快適さを主張されるばかりで、ろくな話がない。
妙に疲れた俺達は、ビーチ近くにあった店に入って休憩していた。
「――結局、俺達の方は収穫なしか」
「あの情報はニールくんとメディナさんが持ってくるものですから、我々は大人しくバカンスを楽しむしかないでしょう」
「……存分に楽しんでんなぁ……その神経の図太さ、見習いたいぜ」
そう言いながらアキが食べていたのは、派手な色のケーキと派手な色のジュースである。一口貰ってみたが、どっちもいやに甘ったるいだけで美味さを感じなかったため、俺は大人しくアイスコーヒーを飲んでいた。いくら中身が年頃の女の子だとはいえ、よくあんな甘いものを食べられるもんだ。
「楽しんでいないと、一般客に不審がられますからね。アイス食べます?」
「……お前が食べたいんだろ……いいぜ、好きなの買えよ。俺はちょっとくれればいいから」
そう言ってアキが見せてきたのは、この店のメニューである。リゾート地だからか、ここのデザートは妙に可愛いものが多く、レインボーカラーの派手なアイスや動物をモチーフにした可愛らしいアイスもあるが、まさかこいつはこれも食べたいんだろうか。
可愛いのは分かるが、こんな可愛いものをわざわざ崩して食べるのは少し勿体ない気がする。などと考える俺もそれなりにアイスに惹かれている自覚はあったが、別に食べたいほどじゃなかった。
「……女の子って、こういうの好きだよなぁ」
「すみません……可愛かったので、つい……」
そうして数分後に席に届いたのは、俺が目を付けたもの以上にファンシーなアイスだった。具体的には、ウサギさんとネコさんの顔である。お前今のその見た目でそれを食べるのか、と聞くのも野暮だから黙ってはおいたが。
「いや、別にいいけどさ……今の姿だと、周りの目も気にしなくていいし」
「あ、そうか。今の私だと……いえ、ハルさんの使い走りにしか見えないから、大丈夫ですね!」
「俺のせいにするな」
たしかに、今の俺達の見た目はカップルか兄弟に見えるだろう。この可愛いアイスも俺が食べそうに見えたのか、店員もわざわざ俺の前にアイスを置いたのだから俺の予想に間違いはないだろうが、美少女らしい美少女の濡れ衣を着せられた俺としては非常に不服であった。