第2話
その後、何とかパーカーの着用を認めさせた俺は、色以外はほぼ無難な水着の男性陣(真っ赤なヨシュや、金色に輝くグレイなど)と合流し、二人一組になって島内の聞き込みに向かうことになった。
「日が暮れる前にはここに戻るようにな、くれぐれも先走るなよ」
「オッケー! こいつはしっかり押さえておくわ!」
組み合わせはゲーム通り、ニールとメディナ、ヨシュとフィー、グレイとロア、そして俺とアキである。なんだかんだ言って、それほど不審がられない組み合わせになっているのは流石と言うべきか。
とはいえ、俺とアキが何に見えるのかは、深く考えないようにしよう。あと、ニールはそこを代わってくれ。
「……組むのがお前で助かったぜ」
「私たち以外はゲーム通りですし、余り者同士組むのは必然でしょうね」
「それでもいいよ……これ以上の面倒事は御免だ」
アキは女の子であるため俺の水着姿に特に変な反応もしないし、体の性別の関係上、恥ずかしがる俺で遊ぶこともあまりない(絶対ないというわけではない)。つまり、今この時に限れば、最も安心して組める相手なのである。
担当として割り当てられた島の西側へ向かいながら、ようやく肩の力を抜くことができた俺は、クランド出発前から溜まりに溜まっている愚痴をアキ相手にこぼしまくっていた。
「……クランドを出てから、随分と顔色が悪いですけど……何かあったんですか?」
「そうだな……アキならいいか……」
俺は、クランドで出会ったフェルトン家の姉妹と、その末妹・シェリーについてアキに打ち明けることにした。
◆◆◆
「シェリー・フェルトン……ですか」
アキがこの世界に来て間もない頃に、フェルトン家の末娘が魔物退治に旅立ったという話を聞いていたらしく、神妙な面持ちで俺の話に耳を傾けていた。だが、アキもそれ以上の情報は知らないからか、結局は難しそうに唸るのみである。
「迷いの森に兵の遺体があったってのは、本当なのか?」
「あ、ええ……確かにありましたね。森を出る頃にはなくなっていたので、魔物にでも……いや、これはいいか」
「ああ……嫌な想像しちまった……」
俺達が森を脱出する時に兵の遺体が見当たらなかった理由については、アキの言いかけた通り、魔物の仕業と見ていいだろう。あそこには俺が襲われたような大型の魔物も多く、それらの大半は屍肉でも平気で食べる程度には雑食のため、想像したくはないが良い餌になってしまったのかもしれない。
ただ、その兵がフェルトン家の私兵であるかまでは、アキにも分からないらしい。まあ、俺が襲われていたから、悠長に確認できる状況じゃなかったんだろう。
「……しかし、フェルトン家のご令嬢と瓜二つ、というのは厄介ですね。クランド以外では、そうそう面倒事にはならないでしょうけど」
「だな……俺はあそこ、うろつかないようにしないと」
幸い、シナリオ上で再びクランドに行く必要はない。だから気にする程のことでもないが、念のため警戒しておくに越したことはないだろう。現に、実の姉妹に勘違いされたほど似ているのだから。
「あ……そういえば、私も似たようなことを言われましたね」
「誰かに似てるって?」
「ええ。以前会ったことがないか? と、クランドからウルムへ向かう道中で、訪ねてきた女性がいました」
「んー……俺が会う前か。なんなんだろうな、これ」
長らく唸っていたアキだったが、ふと思い出したかのように声を上げると、そんなことを言い出した。
人違いをされるということ自体はそれほどおかしな事ではない。世の中には自分に似た人間が三人はいる――なんて話があるぐらいなのだ。他人の空似で済ませることぐらいは出来るだろうが、問題は、ここが現実世界ではないことと、俺とアキだけが人違いをされているということだ。
ただの偶然にしては出来すぎている。とはいえ、だから何か心当たりがあるのかと聞かれても、具体的な回答はできそうにない。
「今のところは、なんとも……ですが、気にしておいた方が良いかもしれませんね」
それでも、妙な胸騒ぎと不安感は抱いていたからか、顔を見合わせた俺達は互いに苦々しい顔をしていたらしい。
結局その日は、それ以上の言及や考察は控えることにした。