第11話
集合場所へ戻るまでの道中、何かを考え込んでいる様子のヨシュは、しきりに俺を見下ろしては唸っていた。
「……なんか、言いたいことがあるのか?」
フェルトン姉妹の事で過敏になっていたとはいえ、そんな態度を取られてはこっちも気になってしまう。普段と比べても、その落ち着きのなさには異様なものが感じられたため、俺も恐る恐る声を掛けてみてしまった。
「いや、思い出したんだけどよ……おまえを見つけた森で、兵士がひとり死んでたんだよな」
「……は?」
「森を出るときには遺体がなくなってたから、忘れてたんだけどさ」
思わず、口を開けたまま立ち止まってしまった。
ここまでの道中でそんな話聞いた覚えもなければ、ゲーム中であったこともない。本来、あのタイミングのあの森にはニール達とメディナ以外の人間は現れないし、その前後も誰かが入ったという話は出てこないのだ。一度入ったら出て来れないと言われている場所なんだから、当たり前と言えば当たり前だ。
だからこそ、そんな所に兵士の遺体があったなんて、どう考えてもおかしいのだ。
「い、いやいや……ちょっと待てよ……その話、初耳なんだけど」
「そりゃ、誰も言ってねーし」
「ええ……なんだよそれ……」
「しょうがねーだろ、あの時はおまえ助けたり拾ったりで忙しかったんだから。ニールたちの方が覚えてるだろうし、気になるなら聞いてみたらいいんじゃねーの?」
そこまでの情報を持っていても、ヨシュ自身は特に何かに気付く様子はないようだ。恐らく、シェリーの行方について思い当たる節があったから口にしたんだろうが、立場の違う俺にとっては全く別問題だ。
もし、その兵士がフェルトン家の私兵だったなら、さっきまでなんとか持てていた自分が自分であるという自信は揺るがされかねないのだ。だからといって、俺の恐ろしい憶測を認めることは、非現実的なため難しい。そんな大きな不安を抱えた状態で正気を保てなんて言われても無理だろうから、兵士の正体については知らない方がいいだろうし、知ったところで事態が好転するとも思えない。
「……聞く勇気ねぇよ」
故にその時の俺は、少しでも詳細な情報を得ることを拒否したのだった。
◆◆◆
「あ、おそーい! ふたりでどこ行ってたのよ!」
「ああ、ごめん。ちょっと情報収集にな……」
町の広場には、既に他のみんなが集まっていた。勝手に歩き回って出遅れた俺とヨシュは当然怒られたものの、俺の様子に異常を感じたのか、アキはみんなに聞こえないように耳打ちをしてくる。
「顔色が悪いですが、大丈夫ですか……?」
「うん……まあ…………ちょっと、な」
だが、今の俺には詳しく説明できるほどの気力はない。言葉を濁して誤魔化すことしか出来なかったが、それでアキが納得する筈もなく、しばらくの間訝しげな視線を向けられてしまうことになった。それでも、疑っているというよりは心配してくれているんだろうが。
「今後の事だけど、とりあえずマリノに向かおうと思うの。あそこは被害はあったけれど、船は出ているみたいだから」
「でも、そっからどこに行くんだ? まさか、またトルシアか?」
「いいえ。トルシアは被害が大きくて船を泊めることができないらしいから、向かうのはポルトビね」
マリノは魔王の攻撃を受けたが復旧も早く、規制しつつではあるが、既に漁や移動用の定期便を再開しているらしい。一方、トルシアは港がその役割を果たさないほどに破壊されてしまっており、船を出すことも泊めることも出来ないほどの被害を受けている。だから、今回は別の場所へ向かうことになる。
そう、俺とアキがこの世界に来て、まずニール達についていこうと決心をした理由がこれだ。下手な町に置いていかれた場合、この攻撃で怪我をしたり死んでしまったりしてしまう恐れがあったのだ。ここまで見てきたチュニスとクランドは被害が少なかったが、トルシアやウルム、アピなどでは死傷者が出ているほどだ。これに巻き込まれたら生きていられる確証がないため、ペーペーのド素人であろうとも無理やり付いてくるしかなかったのである。
「ポルトビって、リゾート地の?」
「そう、あそことブランタは全く被害がないらしいから」
「……それって、おかしいよね……?」
だが、これから行くリゾート地・ポルトビと、以前一週間以上滞在した温泉街・ブランタは、魔王の攻撃を一切受けていない。どちらも理由があって現状があるのだが、ブランタに向かう手段が無いため、今は船の通っているポルトビの方へ向かい、理由を調べに行くのだ。
「そう、だから行ってみる価値はあると思うわ」
当然、メディナとグレイもそれを理解しており、だからこそ未だ訪れたことのないポルトビへ向かうことを提案したのであった。