第7話
翌日、買い出しに向かったニールとフィー、実家に顔を出しに行ったヨシュを宿で待ちながら、残っていた俺達はこれからのルートの確認をしていた。
残りの面々の中では、アキ以外誰もこちら側に来たことがなかったため、確認もアキ頼りになるが、流石は突然巻き込まれたゲーム世界でも魔法使いとしてやっていけるだけはある。しっかりルートも道中の脅威も記憶しているアキのおかげで、大まかな経路はアキに任せることで話がついたのだった。俺は大人しく戦闘で頑張ろう。
「ただいま~」
「おかえり、買い物はできたか?」
「んー まあまあね。売りに出せるほど、物資も豊富じゃないみたい」
そこに、思った以上に少ない荷物を持った少年少女が戻ってきた。やはりと言うべきか、町そのものが打撃を受けた以上、食料などを売りに出す余裕はあまりないらしく、その荷物のほとんどは替えの着替えや武具に偏っている。
「でも、これだけあればクランドまでは間に合うかな。今までの分も少し残ってるし」
「クランドで補給できれば、だけどね」
状況をやや楽観視しているニールに釘を刺すように肩を竦めたメディナは、昨日の今日で既に元気に動き回っている。このおねーちゃんの体力は底なしなのか、と疑いたくなるタフさには感嘆すら漏れるほどだ。まあ、彼氏と二人旅をするぐらいなんだから、現代人の何倍もの体力はあるだろうが。
ニール達の買ってきた荷物を纏めながらおおよそのルートを確認し終え、あとは残り一人を待つだけになった一行の元に最後の一人が戻ってきたのは、そこから十数分後のことだった。
「よう、待たせたな」
元気に実家から戻ってきたヨシュは、その片腕に何かがパンパンに詰まっている袋を抱えていた。
「おかえり。どうだった……?」
「実家は大丈夫だったぜ。親父とお袋もピンピンしてたしな」
「それは……?」
「差し入れだってよ。腹の足しにでもしてくれって」
ヨシュに関しては、町がこの有様のため、家族に顔を出して来いとグレイとメディナが無理やり行かせたのだが、地震で山が崩れることもなく、家屋も壊されず、たまたま自宅の中で作業していたからか魔物にも襲われなかったため、ヨシュの両親は運良く無事だったのだという。その上、差し入れまで持たせてくれるのだから、本当に余裕があることが分かる。
ちなみに、チュニスはこの程度の被害で済んでいるが、他の町では死者が出ていたり、壊滅的な被害を受けているところもある。そこに寄るかどうかは、ニール達次第だが。
「……うわ、すっごい! 保存食の山じゃない!」
「助かるけど、こんなに貰っちゃって大丈夫なの……?」
「ヘーキヘーキ。親父とお袋は、こういう時のための備蓄は欠かさねーんだ。まだ沢山あったし、今も仕込んでたぜ」
袋の中身は、全て干し肉やドライフルーツなどの乾物であった。総額にしたらいくら分あるんだ、と考えて震えが来るほどの量のため誰もが一瞬困惑したが、ヨシュはあっけらかんと返し、「金もいらない」と笑うのだ。
この豪快さ、おそらくは親譲りなんだろう。
「そう……なら、ありがたくいただくわね。ご両親に、お礼言っておいてくれる?」
「おう、全部終わったら伝えとくぜ」
そうして、予想以上の補給ができた一行は、悠々と王都クランドへ出発したのだった。
◆◆◆
「クランドは大丈夫かな」
「あそこは、以前から強力な魔物が多く出現していましたし、心配ですね」
クランドへの道中、一度行ったことのある四人は当時の状況を思い返しているのか、僅かながら不安を口に出していた(勿論、アキはポーズだろうが)。
「軍もちょっと……難ありだしなぁ」
「……ああ、軍は街道周辺の守備で手一杯で、他に手が回らないんだったな」
「とはいえ、他の町よりはマシだと思いたいところだけど…」
あのヨシュまで心配するほど後手に回っている王国軍の動向が気になるようだが、ここで役に立たないようならこの国そのものが危なそうだから、心配になるのも無理はないだろう。
それを上の空で聞き流しながら、この世界で最も栄えている町を視界に入れて、何故か少しだけ安心した俺だった。