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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第9章 ふりだしに戻る
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第6話

 翌朝、名残惜しみながらもアルジュの村を発ち、俺達はシナリオ通りチュニスに向かっていた。

 ここからはまたマリノまで進み、そこから船で別の場所に向かうことになるが、まずは目先のチュニスである。


「チュニスか。そういや、俺は初めて行くな」

「あたしも。どんなところなの?」

「大したもんは、なんもねーぜ。民家と店がちょこちょこってあるだけの、普通の町だ」


 たしかに、チュニスにはゲーム中でも店や宿あったぐらいで、それ以外の施設があった記憶はない(ゲーム主人公特有の略奪行為のための民家は用意されていたが)。今回もちょっと立ち寄る程度で、すぐに王都クランドへ向かうため、序盤の町ならではの影の薄さを発揮してくれる。それがチュニスだ。

 だが、訪れたことのないロアはそれでも楽しみなのか、興味津々といった様子でヨシュの話に耳を傾けていた。


「フィーやアキさんと会ったのも、チュニスだったね」

「はぁー……若人達は、チュニスで勢揃いしてたんだなぁ」


 改めて考えると、旅立った最初の町で主要人物の半分が揃っているというのは、なかなか面白いものである。そんな最序盤からいたのなら、物語も中盤の今、アキが古参面しているのも当然だろう。まあ、俺も序盤からいたから古参ではあるのだが、頼りなさがトップクラスなため古参面はできそうもない。

 というか、中盤までこのゲームの中で過ごしてしまっている事実に気付いてしまった俺は、ショックの方が大きく、既に思考が明後日の方向に向いている状況だ。


「若人って、貴女……下から数えて二番目じゃない」

「まあ、そりゃそうなんだけど」

「……時折、なんというか……ババくさいな、お前は」


 俺から見れば、メディナとグレイ以外の全員が年下且つ子供であり若者の括りには入るのだが、今の俺は残念ながら十六歳の美少女である。その外見から剥離した発言を見過ごせなかった年上の二人にまで突っ込みを入れられてしまっては、笑って誤魔化す他ないのだ。


「こんなピチピチの美少女捕まえて、そりゃないぜ」

「なら、もう少しピチピチの美少女らしい発言を心掛けてくれ」


 とはいえ、冗談のレパートリーに自分の外見ネタが自然に加わってしまった現状は、正直泣きたいのだった。


「あ、見えてきたよ」


 ◆◆◆


 滅んだ村や影響のない村にばかり行っていたからすっかり忘れていたが、三週間ほど前、世界は魔王の攻撃を受けていた。

 チュニスも当然その被害を受けており、地震により道はひび割れ段差ができており、建物も傾いたり倒壊したりしている。そして、魔物の襲撃もあったため、地震以外の要因により町のあちこちには破壊されたり荒らされた跡があり、怪我人も多く出ていた。


「こりゃ、こっぴどくやられたな……」

「でも、人は無事なんだね。怪我人ぐらいしか出てないって」


 しかし、奇跡的に死亡した人間はいないらしく、町もボロボロながら復旧作業のために人々が元気に走り回っている。俺達が町に着いてからは、それが更に活気付いていた。

 とはいえ、勿論なんの理由もなく突然怪我人が元気になるわけがない。


「……はぁ」

「大丈夫、メディナ……?」

「大丈夫……と言いたいところだけど、流石に疲れたわ。休ませてもらうわね……」

「う、うん。おやすみ。ごはん、あとで持っていくね」


 滅多に疲れたところを見せないメディナだが、今回は疲れきって隠す余裕もないのか、ぐったりとした様子でニールの言葉に受け答えながら部屋に入っていく。

 実は、宿を取った後手分けして町の中を見て回っていたが、俺とメディナはついさっきまで町の広場で町民に囲まれていたのだ。それはなにも、美女と美少女が連れ立っていたから囲まれたというわけではなく、メディナが広場で出会った怪我人の治療を始めてしまったせいで、治療を望む人間で人だかりが出来てしまったのだ。

 当然、そばにいた俺は助手扱いで最後まで手伝っていたため、そこそこ疲れている。


「そりゃ、百人近く治療したら疲れるだろ……メディナも、無茶するなぁ」

「でも、町の人たちはすごく感謝してたわよ。お医者さんも怪我してたから、大変だったみたいだし」


 その様子は、他のみんなにも目撃されており、フィーやロアなどはメディナを褒め称えてはしゃいでいたものだから、広場以外の場所も賑わってしまったらしい。ちょっとしたお祭り状態からやっと開放されたメディナは、魔力の消費と人酔いで疲れて電池切れというわけである。


「あいつ、これから先も同じことして歩くつもりか?」

「やりかねんな。とはいえ、あまり無茶をされても困るが……」

「メディナさん、人が良いですからね……」


 そんなメディナの疲れ切った背中を見送ったグレイ達は、なんだかんだ言ってお人好しの彼女の身を案じていたのだった。

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