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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第9章 ふりだしに戻る
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第3話

「よいしょ……」


 結局、フィーと二人で家の片付けることにした俺達がダイニングだけでも綺麗にし終えた頃、片手で持てる程度の木箱を抱えたニールとアキがのそのそと戻ってきた。

 この家の地下室は、たしか梯子で下りる必要があるんだったか。そう考えると、箱一つ持ち出すにしても今の俺ぐらい小柄なニールでは苦労するだろう。アキはアキで、何故か本を数冊抱えているし。


「ん、おかえり。どうだったよ?」

「おじさんの言ってた通りだったよ。これがあったんだ」


 箱を置けるようテーブルを開けながら二人を出迎えると、見た目ほど重くはないのか静かに下ろされた木箱と、アキの持ってきた本が丁寧に置かれる。本については表紙に何も書かれていないため何の本かも分からないが、木箱の方は見なくても分かる。これがニールの両親からのニールへのプレゼントだ。

 おもむろに箱を開けたニールは、その中から何かを取り出し、俺とフィーに見せてくれた。


「ペンダント……これが、プレゼント?」


 フィーが疑問に思うのも無理はない。ニールの手の平に乗せられたそれは、半透明の白い石が埋め込まれたシルバーのペンダントだったのだ。見た目はムーンストーンとかいう宝石に近いだろうか。

 女の子へのプレゼントで宝石のペンダントというのは古今東西どこにでもある話だが、男へのプレゼントでペンダントを贈るか? と、疑問を抱きたくもなるだろう。フィーが首を傾げたのも、そういった先入観によるものだろうが、実のところこれはただのアクセサリーではない。


「うん、手紙もあったから間違いないと思う」

「あとは、膨大な数の書物と道具が保管されていました。あれは、放置しておくには惜しい量ですが……」

「今は運ぶ手段も、運ぶ先もないな。一旦置いとくしかないだろ」

「ええ、残念ですが……」


 一方、アキが持ってきたのは、ニールの両親の蔵書だったらしい。まだ未熟なニールでも、なんとか役に立てそうな事柄が書いてある本だけ持ってきたため、手の空いているアキがそれを運んできたというわけである。

 なるほどな、と感心した俺は何気なく置かれた本のページを捲ってみたが、一面に広がる英字に一瞬で挫折した。簡単な英語なら読めるが、そっちに特化していない俺では本までは読めないのだ。ああ、ひらがなカタカナ漢字が恋しい。などと意識を飛ばしかけた俺は、現実逃避をするようにこの家の貯蔵について話し合うことに専念した。


「おじさんとトマスさんに、お願いできればいいんだけどね」

「連絡手段もないし、保留だな。荒らされないように厳重に閉じておこう」

「うん、ボクの術で隠しておくね」


 現状、俺達の方からラルタルに連絡する手段はない。そして、こっちの大陸にも浄化師の蔵書を預けられるような知人もいないため、ここから動かすよりは隠しておいた方が幾分もマシだ。あと、ゲーム中でも放置しておいたからと言って特に被害もなかった。

 そういうわけで、現状維持を提案した俺だったが、大人しく同意したニールは地下室の入り口になっている床の扉まで向かうと、その扉に向けて浄化の術を使ったのである。ゲームではここでその力を使う描写はなかったのにもかかわらず、である。


「……お前、そんなことできたのか?」

「ううん。ボクへって置いてあった本と、これのおかげだよ。浄化の術の力を、増幅してくれる道具なんだって」

「ふーん……魔石みたいなもんか」

「ちょっと違うけど、似たようなものかな」


 ニールの使った術は、ラルタルの村を囲っている結界と同じものらしい。あれは浄化師の中でもそれなりに術を使いこなしている大人しか使えなかったものらしく、ニールの力では本来扉一つを隠すことすら出来ないらしいが、今回はペンダントのおかげでそんな高等な術を使えるようになった――という原理は分かったが、今ここで使った理由までは分からない。もしかすると、ゲームではいちいち描写しなかっただけで、本当は使っていたんだろうか。

 そう自分を納得させることで、この疑問を何とか昇華することにした。どうしても気になったら、リメイク版は俺より詳しいアキにでも聞けばいいだろう。


「お、そっちの用事は終わったか」


 そこに帰ってきたのはヨシュだった。

 出迎えたニールとフィーに体中の泥や枯れた葉を叩き落としてもらいながら元気に笑っているが、怪我がないところを見ると魔物や夜盗の類は住み着いていなかったようだ。まあ、住み着いていたら、未だ戻ってきていない三人が危険だからなくて良いんだが、それにしたってヨシュは汚れすぎである。まるで、野遊びをしてきた犬レベルだ。


「ちょうど終わったところだよ」

「村の中と周辺には魔物も人間もいなかったぜ。もう夕方だけど、どうする?」

「うーん……ここからチュニスに行くには、ちょっと時間が足りないかな」

「野宿していきゃいいんじゃねーの?」


 ヨシュに言われるまで俺達も気付いていなかったが、既に日は傾きかけてきており、夜が近いことが分かる。いつもなら、「雨をしのげるのだし、このままこの村で一晩過ごす」という意見も出てきかねないが、今回は流石のヨシュも気を遣ったらしく、村を離れることを提案した。しかし、ニールはニールで思うところがあるのか、考え込んでしまう。


「……どうしたい、ニール?」

「…………あのね、みんな――」


 それに気付いたフィーが恐る恐る声を掛けると、意を決したようにニールは頷き、ある提案をしてきたのである。

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