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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第7章 私は魔法使いのイケメン
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第14話

 翌朝から、私達は二手に分かれてウルム付近を探索していた。

 二手に分かれても問題ない程度にはこの付近の魔物の数は少ないとはいえ、ゲームではこんな展開ではなく、三人で一緒に探索していた筈だ。私が参加してしまったことでまた妙な変化が起こってしまったけれど、本当に大丈夫だろうか。などと内心ひやひやしながら、私はニールくんと共にウルムの西側を見回っていた。


「こっちはダメだ。なーんもねぇや」

「こっちもだよ。見通しがいいから、すぐに見つかると思ったんだけど……」


 そうして歩き回り一時間ほど経った頃、ウルムの町の前で合流した私たちは、お互いに一切の収穫がなかったことを報告し合い肩を落とした。

 ウルムの周辺だけに限らないが、フィールドに該当する場所は自然が多く、一部を除いて高い木々が生い茂っていることもない。そして、街道以外を人々が好んで通ることはないため、それらしい建物をすぐに見つけられると思ったのだろうが、そう簡単にいったら苦労はしない。


「……と、なると……」

「ええ……あの森の向こう、ということですね」


 そんな私たちの最後の選択肢は、この場所からも見える鬱蒼とした深い森の先だけになってしまった。


「町で聞いたけど、あの森って【迷いの森】って呼ばれてる場所で、一度入ったら出てこれないって……」


 【迷いの森】とは、よくある迷いやすい森のダンジョンだ。付近の住人には一度入ったら二度と出ることは出来ないだの、神隠しに遭うだのと言われ恐れられる場所だが、主人公達は案外簡単に抜けて先に進んでしまうタイプのダンジョンである。

 勿論、この迷いの森もその例に漏れず、付近の住人は絶対に近づかない場所であり、ニールくんたちは最後の手がかりを求めてここに行かざるを得ない展開になるのだ。


「ゲッ! マジかよ……大丈夫か、ここ」

「行ってみるしかないわよ。町が危ないんだから、放ってもおけないし」

「ええ、案外迷わずに行けるかもしれませんし、試しに行ってみましょう」

「……うん、そうだね」


 露骨に嫌がる様子の男性陣をよそに、フィーは案外乗り気である。まるで怖いものがないかのように振舞う彼女と、それに渋々ついていく男の子二人を眺めながら、比較的軽い気持ちで私は森へ歩を進めた。


 けれど、もう少し覚悟をしてから行くべきだったと、森に入ってすぐに私は後悔することになる。


「おい……あれ……」

「だ、大丈夫ですか……!?」


 森に入って数歩の場所に、誰かが倒れていたのだ。よく見ると鎧や兜で武装していて、クランドで見かけた兵士たちに似た格好にも見える。

 だが、その人は声掛けにも反応せず、ニールくんに体を揺すられてもぐったりとしたまま動かない。急に嫌な予感がして、咄嗟にその人の首筋に手を当ててみるが、人の体とは思えないほど冷たく、そしてある筈の振動が全く指先に伝わってこないのだ。


「……駄目です……この人、既に……」

「そんな……!」


 この人は、死んでいたのだ。

 一瞬で血の気が引くのを感じた。呼吸もしておらず、体温も下がりきっており、そして動脈に動きもない。触れた手をすぐに離したが、既に誤魔化しがきかないほどに身体が震えていることは自分でも分かった。


 そこに、なにかの雄叫びのような声が響き、大きな振動が地面から伝わってくる。


「え……な、なに、今の音?」

「……地震……じゃねーな……足音、か……?」

「待って……向こうで、物音がするわ」

「今の足音の生き物?」


 この世界には、人の何倍もの身の丈がある大型の魔物も生息している。それが歩いているのだとしたら、この音も振動も、なにもおかしなものではない筈だった。

 だが、今の私にはそんな冷静な判断は出来ない。ある筈のない出来事に、激しく混乱していたからだ。


「ううん、もっと軽い……人かもしれない」

「っ!」

「おい、ニール!?」


 狩りを生業にしていたからか、足音などの聞き分けが出来るフィーが私たち以外の人間がいる可能性を口にした途端、ニールくんは血相を変え音の聞こえてきた方向へ向かって駆け出してしまう。


「わたしたちも行きましょ! 心配だわ!」

「ああ、分かってる!」


 それを追いかけて駆け出すフィーとヨシュを見つめながら、震えの止まらない手を押さえていた私は、どうすればいいか分からずその場に立ち竦んでしまっていた。


 ゲーム中、この森で死ぬ人はいなかった。この森に入ってすぐに、魔物の足音らしきものを聞くイベントなんてなかった。ただ、「ちょっと迷って大変だったね」なんて三人が言い合いながら、行き倒れているメディナを発見するだけの場所。それがこの【迷いの森】だったのに。 


「……どういうこと? なんで、こんな事が……」


 そのまま呆けているわけにもいかず、のろのろと後を追った私が見たものは、ここにいる筈のない少女。

 こんな場所にいてはいけない、少女だった。

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