第10話
それから私たちは二手に分かれ、居住区域と商業区域で聞き込みを始めた。魔王軍の基地の話が聞けるかは分からなかったが、明確な位置を知るために少しでも情報が欲しかったのだ。
「何か情報は聞けましたか?」
「いや、全然。関係なさそうな噂話ばっかだな」
が、当然ながら何の情報も得られなかった。
私はフィーと手分けをしながら商業区域で聞き込みをしていたが、せいぜい魔物の動きが活発化している程度の情報しかなく、それ以外の有力な情報は手に入れられていない。まあ、元より何かあればいいなという程度の聞き込みだったのだから、仕方がないと言えば仕方がない。
そして、居住区域で聞き込みをしていた二人も、やはり有用な情報は得られなかったらしい。
「ボクもそんな感じ。お金持ちの末娘が私兵を連れて魔物退治に出た、っていう」
「フェルトン家の話ね。あそこ、三人姉妹なのに全員腕っぷしが強いらしいのよ。王都の兵隊じゃ歯が立たないとか聞いたわね」
「す、すごいね……」
「しかも全員美人なんだって。天は人に二物も三物も与えるのねーって、王都じゃ有名な話よ」
顔は見たことないけど、と付け足したフィーはフェルトン家についてそれ以上の情報を口にすることはなかったが、ゲーム中でも噂話しか出ていない人たちだったからそんなものだろう。元々、平民のフィーとお金持ちのフェルトン家では居住区域の中でも離れており、接点もないのだから当然の結果だ。
「……なんか、スケールが大きくて想像できないね……」
「あとは、どっかの男が女グセが悪いとか、金遣いが荒い新婚の嫁の話とか、そんな話しか聞けなかったな」
苦笑を浮かべていたニールくんの横で、自分が集めてきた情報を淡々と並べていたヨシュだったが、どれもこれも役に立ちそうにない噂話ばかりである。この子は何をしに行っていたんだろうか。
「どこの井戸端会議で、そんな話を聞いてきたのよ……」
「集めてくる能力は大したものですが、使える情報じゃなさそうですね」
「悪かったな……」
ヨシュが実際に井戸端会議に参加していたという事実が判明するのは、再びこの町に戻ってきた時のことだっただろうか。彼は結構、おばさま方に好かれるタイプなのだ。
呆れたフィーや私の反応に罰が悪そうに頭を掻きながら、珍しく反省している様子を見せていた彼を眺めていたニールくんは、笑いながら休憩を提案した。
「じゃあ、今日は休んで明日にはウルムに向かおうか」
「……君たち、ウルムに行くのか?」
そんな私たちに、近くのベンチで休んでいた男の人が声を掛けてくる。この親切な男性はニールくんたちの話に聞き耳を立てていたらしく、後で話しかけると心配して回復アイテムをくれた筈だ。そういう優しい人が、この世界には結構多い。
「え? あ、はい。そのつもりです」
「なら、街道を通るのはやめておいた方がいいぞ。最近魔物が多いらしいんだ」
「そうなんですか……情報ありがとうございます、助かります」
街道というのは、今の位置からも見える町の外の石造りの道のことだ。この道はゲーム開始時点から魔物が蔓延っており、王国軍が討伐に当たっている状態なのだ。当然危険なため、一般人がそこを通ることは出来ない。
私たちも街道を利用することは出来ないから、別のルートを使うしかない状況だった。
「街道が使えないんじゃ、どこを通ればいいんだ?」
「東の山沿いに旧道があるから、そっちを使いましょ」
そこで頼りになるのが地元民である。フィー自身もそこまで地理に詳しいわけではないものの、今の私たちにとって有用な情報には変わりない。
持っていた地図と照らし合わせながら、私たちは旧道に向かう事になったのだった。